一章12話 姦し三姉妹。
「ともあれまずは仕事を全うしようか。ちゃんとやらないとヨタカさんにどやされちゃうからね」
「バーロウ、だっけ? 群れに馴染めない半端ものだけ狩ればいいとか、流石に簡単すぎるんだが?」
「……蒼空姉さん、相手はC級だよ? 能力こそヒト以上だけど、初心者の私たちじゃ厳しいってヨタカさん言ってたじゃん」
「ほっぺが落ちるほど美味しいお肉だって聞きましたし、倒して
「……優香姉さん。仮に倒せたとして、解体なんて私出来ないからね?」
「なんだろう。振り回される紫苑ちゃんを見ると、どこか心が痛くなるんだが……」
「……ローズ様、自覚がおありでしたのですね」
ぐっ。ラヴちゃんのこの反応見る限り青空ちゃんと優香さんは、俺と同じで回りを振り回すタイプらしい。
なまじっか自覚がある俺と違い故意ではないようだが、空気が読めない分むしろたちが悪いのではないだろうか。
え? 自覚あるほうがギルティ? 嫌だなぁ。ダメなときはダメだと理解あるほうが良いに決まってるじゃないですかぁ。
「そういえば三人とも冒険者だったよね? 『ステータスカード』があったら見せて貰ってもいいかな? 能力とかスキルとか、ついでに職業なんかも気になるからさ」
「……良いですよ。はい、どうぞ」
「あれ? 三枚あるけど……もしかして紫苑ちゃんが管理してるの?」
「……はい。蒼空姉さんは失くしそうですし、優香姉さんは誰彼構わず見せてしまいそうですので」
「なるほど。成人したばかりに見えるのに偉いな、紫苑ちゃん」
「……そういえば、こちらの世界だとそうなのでしたね」
「そっか。異世界……日本では、二十才が成人だったけか」
「……いえ。少し前に法律が変わり、今は十八才だそうですよ?」
ほほぉ。現代日本では成人の年齢が変わっているのか。あくまでも同じ世界線の日本だと仮定した場合に限るけども。
何気なくしてみた日本に理解がありますよアピールも賺されてしまったし、やはりこの紫苑ちゃんこそが彼女たちの精神的な支柱なのだろう。
困ったな。正直子供だと思って舐めてたよ。素直に情報も開示するし簡単に踏み込んでも来ないとなると、拒否する手立てがないじゃないか。
警戒されたくないのかは定かではないが、保護するという確約を得るまでは無知な女学生であることを貫き通したいと見えるな。
ともあれ、せっかく素直に応じてくれているのに反故にする道理はない。まず提示された情報を精査してみようではないか。
【
〔種族〕
ヒト族 異世界人
〔天職〕
『
〔ジョブスキル〕
『傀儡生成Lv4』 『傀儡操作Lv2』
〔ユニークスキル〕
『完全偶像』
〔レアスキル〕
『模倣☆3』
〔コモンスキル〕
『操糸術Lv3』 『腹話術Lv2』
〔ステータス〕
HP: A
MP: E
STR: D
VIT: A
INT: F
RES: E
DEX: A
AGI: C
LUK: C
※『傀儡生成』
HPを犠牲に自身の身代り傀儡を生成するスキル。VITが高いほど強固な人形が出来るが、より消費するHPが増えるというピーキーな一品。
※『完全偶像』
思い描く偶像を傀儡にトレースし、一定時間その容姿や能力などを再現できるユニークスキル。再現度は想像力次第であり、無限大の可能性を秘めている。
【吉原
〔種族〕
ヒト族 異世界人
〔天職〕
『行商人Lv15/52』
〔ジョブスキル〕
『解析Lv3』 『鑑定Lv3』
〔ユニークスキル〕
『異界通販』
〔レアスキル〕
『平均相場☆3』
〔コモンスキル〕
『弓術Lv2』 『算術Lv3』
〔ステータス〕
HP: C
MP: C
STR: C
VIT: C
INT: C
RES: C
DEX: C
AGI: C
LUK: C
※『異界通販』
異なる世界の物品を自身の住まう世界に取り寄せることが出来るスキル。基本的に紙幣や硬貨などの金銭を使用するが、物々交換なども可能。
※『平均相場』
物品や不動産などの平均相場価格を知ることが出来るスキル。
【吉原
〔種族〕
ヒト族 異世界人
〔天職〕
『
〔ジョブスキル〕
『手品Lv1』 『隠者Lv5』
〔ユニークスキル〕
『黒子繊手』
〔レアスキル〕
『潜影☆4』
〔コモンスキル〕
『短剣術Lv1』 『話術Lv5』
〔魔法〕
『闇属性魔法・初級』
〔ステータス〕
HP: E
MP: A
STR: F
VIT: E
INT: A
RES: D
DEX: A
AGI: C
LUK: C
※『隠者』
自身の存在をひた隠すスキル。極めれば目の前に居るにも拘らず気づかれなくなるとかならないとか。
※『黒子繊手』
影のような黒い手を複数体召喚するスキル。自身の手のように扱うことが可能だが操作が難しく、扱いには相応の努力とセンスが必要。
「おぉぉ……。な、何というか、総じて能力は高いけど、いろんな意味でピーキーなステータスだね」
「そうなのよねぇ。『人形使い』とかなら可愛いのに『傀儡子師』だなんて堅苦しくて、お姉さん困っちゃうな」
「……優香姉さんはその、ド天然なんです。器用で凝り性な反面、思い込みが激しく騙されやすいと言いますか」
「ほんそれ。逆にあーしってば立派な量産型ギャルなのに『行商人』とか……ぶふぅ! さ、流石にウケすぎて森っ!」
「……蒼空姉さんは中の上を体現したような存在で、よく言えば万能、悪く言えば器用貧乏といったところでしょうか」
「く、くぅぅ……き、気にしてるのにぃ。そ、そういう紫苑はどうなのさ! 関係ないなんて、言わせないからっ!」
「そうねぇ。紫苑ちゃんは世渡り上手で賢くてぇ、ちょっと口は悪いけど、一番頼りになる可愛い妹かなぁ」
「腹黒なだけじゃん! さっきだってあーしだけ売るような言い方してたしさーっ!」
「ま、まぁまぁ。それこれも仲がいいからこそ出来ることだと思うよ?」
「……おたくちゃんって、面倒くさい」
「め、面倒くさいって流石にひどくないっ⁉ お姉ちゃんのこと嫌いなんだ! えーんっ!」
「あらあらぁ。蒼ちゃんは本当に泣き虫なのねぇ。ほら、お姉ちゃんのお胸を貸してあげるから、ぎゅぅぅぅっ」
「いや優姉、これ冗談だか—―むぎゅぅっ⁉」
「こ、これが姦しいか……。実際に体験すると、中々に感慨深いな……」
ラヴィニスもシュアも基本聞き専だからなぁ。それを不満に思ったことなんて一度もないけれど、たまにはこういう騒がしいのもありだね。
とはいえ既にヨタカさんたちがバーロウの追い込み漁を始めた頃合いでもあるし、あまり時間をかけるわけにもいかないな。
幸いにもその辺の事情を理解しているであろう紫苑ちゃんとは連携が取れそうだし、蒼空ちゃんには今しばらく優香さんの羨ま怪しからん抱擁を堪能して貰うとしようかな。
「おおよそのステータスだけでなくスキルの注釈まで見れるなんて、ステータスカードっていうのは本当に便利なものだね、リリィ」
「はい。本人と許可したもの以外閲覧できないというのも良い点です」
「……レアスキルやユニークスキルの保持は隠ぺいすることも可能で、当然その詳細と注釈も同様に隠すことが出来るようです」
「なるほど。つまり基本的には名前とジョブにジョブスキル、コモンスキルや魔法に加え、おおよそのステータス値しか見れないということか」
「ギルドでクエストを受注する際やパーティーを組むうえで、最低限の情報開示は必要であるという認識であっていますか、紫苑様?」
「……その通りだよ、リリィさん。基礎能力値の詳細もギルドに設営されている『ステータスボード』に『ステータスカード』を読み込ませることで確認することが出来る。……ただ、それこそ新人の私たちよりもお二人の方がその辺りの事情に詳しいのでは?」
「あー……。実はステータスカードがギルドで正式に施行されたのってうちだと結構最近でさ、手続きにそれなりの時間もかかるし後回しにしてたんだよねぇ」
「アインズ皇国は東に渦巻く大海が広がり、西には魔の森が鬱蒼と茂り、南には果て無き砂漠が永遠と続き、北には火竜山脈が雄雄しく連なるという立地上、どうしても外部の情報が届きにくいのですよ」
魔の森や火竜山脈からの魔物も割と頻繁に悪さをしに来るし、外交するには悪路が多すぎて大変だけど、真に恐ろしいヒト族国家と常に一定の距離が置けるという大きな利点もあるのが我がアインズ皇国だ。
どんな綺麗ごとを並べようがヒトは争わなければ生きられない獣であるが故に、国家はその獣の首輪を設ける必要がある。
王権主義である我が国の皇帝は莫大な権力を持つが、同時にその獣たちを養い育み言うことを聞くように調教出来なければ務まらないのである。
あれ? もしかして私の『天職』が『調教師』なのって、この皇帝の血筋が悪さをしてはいないだろうか? ……まさか、ね。違うよね? ね?
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