一章11話 百花旅団。
「よろしくおねがいしますぅ」
「……宜しくお願いします」
「よろ〜……って、えっ⁉ キミってば狐の耳と尻尾が生えてるし! めっちゃ可愛いんですけどぉぉぉっ!♡」
「あらぁ、可愛らしいですねぇ」
「か、可愛いです……」
「ね、触ってもい? いいっしょ⁉ ね? ね! 一生のお願いっ!」
ちょ、えぇっ⁉ 何かゆるふわ系美人のお姉さんとオドオド系美少女、ついでに読モでもしてそうな可愛い快活系のギャル娘にいきなり絡まれたんですがっ⁉
も、もしかしなくても彼女達がヨタカさんの言ってた新人のパーティーの三人だよね。何かバツだからとかそれっぽいこと言ってたけど、絶対若い子の圧にやられて丸投げしたでしょ、これっ!
ちょ、あっ! きょ、距離が近いってば。無理やり触ってこないだけまだマシだけど、これって結局触らせないと満足しないのでは……?
ら、ラヴちゃんも無言でじっとこっちを見つめているし、これはささっと触らせて本題に入ったほうが吉かもしれないね。
「ちょ、ちょっとだけなら良いよ? でも、あんまり強くしないでね?」
「――そマっ⁉ うわぁっ! ふわふわじゃんかぁぁぁっ⁉」
「わぁぁ、もふもふですぅ」
「……柔らかいし、温かい」
「――ふわぁぁぁっ⁉ く、くすぐったいぃぃぃ……」
「あっ! ご、ごごご、ごめんねっ⁉ その、実はあーしってばケモミミフェチで……」
「うちの蒼ちゃんってばこんなキラキラしてるけど、中身はオタクちゃんなの。ごめんねぇ」
「……不治の病だから、治らない」
「ちょっ⁉ ゆ、優姉っっ! 余計なこと言わないでいいからっ! てーか紫苑も否定しろっての!」
……くっ。覚悟してたとはいえ三人同時に弄られるのは、流石に恥ずかしいんだが?
女性になった影響なのか前世に比べて敏感になっている自覚はあるのだが、こうした場面では顕著に現れてしまうらしい。
ん? そういえばケモミミフェチに、オタクちゃんって明らかに日本産の造語だよね? 少なくともアインズ皇国では聞かないし。
待てよ? 化粧をしているし”
化粧一つ取っても中世ほどの文明レベルしか無いアヴィスフィアでこのレベルのメイクとなると、流石に再現不可能なのでは無かろうか。
そうなると後は……”
ふむ。正直あの国の倫理観はとても褒められたものではないけど、生存競争のためなら割と何でもチャレンジするという精神は、同じ小国の皇女としては見習う必要はあるかも知れないね。
「――もしかしてあーし達のことが気になっちゃってる感じ? ね、そうでしょ? 良ければ撫でさせてくれたお礼に、教えてあげてもいーよ?」
「あ、蒼ちゃんったらもう。私達が”異世界人”だってこと、本当は秘密にしないと駄目なんだからねぇ?」
「……そこまで言っちゃったら、もう遅い」
「ゆ、優姉っ⁉」
「あ、あらまぁ」
「はぁぁっ。……お察しの通り、異世界からの”転移者”の”
「ちょっ⁉ 紫苑ったら、それは流石に酷くないっ⁉」
「同じ姉妹として、お恥ずかしい限りですぅ」
「ゆ、優姉も一緒にディスられてるよ⁉ あーしだけじゃないからっ!」
――なっ⁉ あ、あっさりと素性をバラした……だと?
確かに”迷い人”とも呼ばれる”転移者”は、土地勘がなく言葉も通じないという特性上素性を隠すのは困難な場合が多い。
彼女達の言う通り転移者であるならば何らかの手段で言語の壁は突破を突破したのだろうが、それにしては警戒感が薄すぎる気がしてならない。
仮にアヴィスフィアの共通言語を学んだとするならば、同時に世界の一般常識も知り得ていて然るべくだと思うのだが、だとすれば転移者である事実は口外しないのが定石であるはずなのだ。
何せ転移者も転生者同様に一つ以上のユニークスキルを所持しているとされており、それを求めんとする商人や貴族などに目を付けられてトラブルに発展する可能性が大いに考えられるからである。
ふむ。そうしたことを鑑みるに、やはり彼女たちは隣国の”勇者召喚に巻き込まれた日本人学生”なのではないだろうか。
”言語に対する理解”を
そして何よりも彼女たちの警戒心の薄さと緩んだ雰囲気が、まるで海外旅行に初めて来て浮かれている日本人を彷彿させるのである。
勇者召喚を良しとする国がみすみす勇者を逃すとは思えないが、その使いとなれば能力如何で放逐する可能性は無きにしも非ずと見た。
……あ、あれ? もしかしてヨタカさん、まるっと全部押し付けようとしてない? 軽い口調で任せるとか言ってたくせに、とんだ狸だなおい!
「……んー、なんだろう。もしかして蒼空ちゃんたち、ヨタカさんに何か入れ知恵されました?」
「……正直に話せば、受け入れてくれると言われました」
「ん、んんぅっ! 『やんごとなき嬢ちゃんは、面白い能力を持っているヤツと可愛い女の子には目が無いからなぁ。正直に話せば多少厄介だと感じても、結局最後には面倒を見てくれるだろうさぁ!』……って、言ってましたぁ」
「凄い優姉、よっさんそっくりじゃん! このアイドル声優っ! カッコ良すぎて無理なんだけどっ!」
「凄いね、本当にそっくりだ。見た目と声の違いで頭がバグりそうだよ。そしてヨタカさんは私のこと、一体何様だと思っているのだろう……」
「んふふっ。お粗末さまでしたぁ」
「……見た目と態度は粗野で粗暴なのですが、凄く面倒見の良いお兄さんでした」
むむぅ。実際ヨタカさんはああ見えてヒトを見る目があるからなぁ。彼がそういうのならば、この三人の価値は計り知れないことにはなる。
……それこそヨタカさんでは手に負えないほどに、ね。
事実容姿も他と比べて秀でていると思うし、優香さんなんかは前世で女優さんとして一線を画していたと言われても何の遜色も無いだろう。
しかしそれだけの理由で、わざわざ俺に保護を頼むだろうか?
むしろヨタカさんは兎も角として、そのパーティーメンバーが挙って囲おうとする気がしてならないのだが……。
……よし。なんか嫌な予感がプンプンするし、ここは涙を飲んで丁重に断らせて頂くとしようか。
「……『異界通販』。文字通り、こことは異なる異世界と通信販売出来るスキル」
「――なっ⁉ ま、まさか紫苑ちゃんそれって……」
「はい。
「や、やっぱり……って、蒼空姉さんっ⁉」
「ちょっ! ……え? し、紫苑の馬鹿っ! なんで勝手にあーしのスキルをバラしてるのっ⁉」
「……異界――”日本”の製品の相対価値が高いので少々割高ですが、アヴィスフィアでは絶対に手に入れられない商品なども取り寄せられるので物凄く便利なスキルですよ?」
「やっぱり日本人だったのか! も、もしかして蒼空ちゃん達がしてる目新しいお化粧もそれのおかげだったりする?」
「……はい。単価が高いため要節約ですが、お陰様で私達もその恩恵を受けています」
「それは確かにとんでもなく有意義なスキルだね。……正直言って、蒼空ちゃんが凄く欲しい」
「――う、うぇぇっ⁉ ほ、本気で言ってる? 無駄じゃないの、このスキル?」
「……え、無駄? そんなはず無いじゃんか。どこぞの阿呆がそんなこと言ってたの?」
「り、隣国の王様とその部下たちだけど……」
「え、嘘でしょ? 王様だけじゃなくその周囲まで無能で、国家を保てるの……?」
「……どうやら戦争を控えているらしく、戦力とならない『天職』や『ユニークスキル保持者』はあまり歓迎されていないようなのです」
……これは、やられたな。知ってしまった以上みすみす蒼空ちゃんを逃がす愚を犯すなど、皇族としても個人としてもまずあり得ない。
幸い第一印象は悪くないみたいだし、とりあえずはこのクエスト中に彼女たちの意図を探りながら個別に接触する他ないだろう。その過程で求める対価を、それとなく探ってみるとしようか。
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