一章10話 集団討伐クエスト。

「おぉ嬢ちゃん、漸く来たのか。お付きの騎士様にぞっこんラブなのは良いが、集合時間は守ってくれないとなぁ?」

「遅れてすいませんヨタカさん。リリィが格好良すぎるのでしょうがないというか、どうにも集団行動というのが苦手で……」

「かぁぁっ。嬢ちゃんがどこぞの貴族様だかは知らんが、ギルドにはギルドの掟っちゅうもんがある。出発前だから大目に見るが、郊外では俺の指示を絶対に順守すること! 分かったか、嬢ちゃん」

「……はーい」

「ヨタカ殿。あまりアイヴィス様をイジメないでやってくれないか」

「いや、これはイジメではなく指導なのだが……」

「…………」

「――はぁぁっ。全く、これだから貴族様の相手は面倒臭くてかなわん」


 彼の名はヨタカ。二十代前半の少々強面の男性だ。『暁の盗賊団』というAランクパーティーを率いる実力者で、今回の集団討伐クエストのリーダーを努めている。


 盗賊というだけあって索敵の能力に優れているのだが、彼の場合は純粋な戦闘能力だけ取っても『夜烏』の中でも五本指に収まることだろう。


 更には皇国内のあらゆる情報網と伝手を持つとされているため、木っ端貴族などでは太刀打ちできず、脛に傷のある貴族達からは畏敬の念を込め『夜烏の目』と呼ばれているらしい。


 新人だった頃の指導監督として『百花旅団』に同行したことがあるため気安く、事実としてお世話になっているので尊敬の念も抱いている頼りになる兄貴分なのだ。


「相変わらずだねヨタカさんは。普通貴族だと聞いたらもっと謙るもんだけども」

「はっ! 貴族様とはいえ所詮ヒト。叩けばホコリなんてもんはいくらでも出てくるもんだからな」

「ほほう。つまりヨタカ殿はローズ様を脅すネタを手に入れているということか」

「ち、違う違うそうじゃない。要するに、俺たちも貴族様も変わらずヒトであることに違いは無いと言いたかったんだ」

「こ、こらこらリリィ。心配してくれるのは有り難いけど、ヨタカさんの首に白刃を充てがわなくて良いから」

「分かりました」

「……ふぅ。いや、助かったぜ嬢ちゃん。俺もこの道長いけど、嬢ちゃんの騎士様相手じゃ生きた心地がしないってもんよ」

「ふふんっ! そうでしょうともヨタカさん。リリィは私の自慢の騎士ですからね」


 周りは少々ざわついてはいるが、これが私達の通常運転でもある。ヨタカさんもそれを承知なので、実際はそこまで驚異を感じては居ないだろう。


 大衆の前で貴族であることを公表されていることにはなるが、どうせフルプレートアーマーを着込んでいる騎士様を連れている仮面の少女(尾耳付き)など訳アリも当然なので、痛くもない腹を探られるよりは大っぴらのほうが何かと都合がいいのだ。


 事実冒険者の中には没落した貴族の令息なども少数ながら含まれており、よほどのバカか無能で無ければ、敢えて面倒な貴族の事情などに踏み込もうなどはしない。


 何せ没落している以上金目の物など期待できず、そうでないにしろ何かしらのやんごとなき事情を抱え込んだ厄介かつ危険な爆弾でしか無いからね。


「まじでCランクにしておくのは勿体ないくらいだぜ。……嬢ちゃん達、上に上がる気は無いのかい?」

「うーん。Cランクにしたのも渡航制限の免除が目的だし、今のところそれ以上は考えてないかな。報酬はぐんと増えるけど、緊急の強制クエストなんてゴメンだしさ」

「Bランク以上は各ギルドの顔という側面もあるからな。他より融通が利く分、やるときはやらにゃならん」

「……私の場合は既に目的も達成しているし、そもそも趣味の側面が強いから」

「道楽でCランクか。そう考えたらやっぱり嬢ちゃんは異質な存在なのかもな」

「えぇ〜。別にCランクなんてありふれているでしょ? ザ・普通って感じだし」

「そうだな。”一般的な冒険者”の指標ではある。……専業の場合に限るけどな」

「ふふふっ。『百花旅団』は週末パーティーだからね。普段は誰にも言えない秘密の仕事をしているのさ」

「ま、働き方はヒトそれぞれだけどな。――さて。ともあれ、仕事の話をしようか」


 そう纏めたヨタカさんにより、此度の集団討伐クエストの概要の説明が行われることになった。


 まず討伐対象だが、メインは”バーロウ”と呼ばれる牛型で鳩胸のC級魔獣である。


 アインズ皇国の首都周辺が高原地帯ということもありこうした草食の魔獣が多く生息しているのだが、そのバーロウが何らかの原因で異常発生したおかげで食糧難となり下山し、近隣の村や町で育てられていた作物を食い荒らす被害が広がっていたのだ。


 地域によっては冬を超えられないほどの被害を被ってしまったところもあり、皇城に直接免税と援助の陳情が届けられる事態にまで発展してしまっているのである。


 こうした事態を重く見た国営ギルド――『夜烏』が自身が抱えるA級パーティーの『暁の盗賊団』に集団クエストのリーダーをすべしと打診したのだ。


 ちなみに魔物や魔獣の等級だが、C級ならばC級冒険者が一人居れば討伐出来るだろうと言った曖昧なもので、実際は怪我のないように数人の同級を確保するか、上位の者が受けることが多いのが現状だ。


 つまり今回の大量発生に置いてC級である『百花旅団』の役目はあくまで最大に見積もってもバーロウ単体の処理であり、正直に言えばA級冒険者であるヨタカが皆を待たせてまで待つ必要性は無かったのだ。


 実際にそうした不満を持つものも多く居たのだろうが、そうした者への牽制として敢えて貴族のご令嬢であるということを強調したのだろう。


「単刀直入にいうが、嬢ちゃんたちには”遊撃”をお願いしたい」

「遊撃……?」

「あぁ。バーロウがヒラヒラとはためく物に興奮し突進するということは割と有名なので知っていると思うが、中には嬢ちゃんみたいにマイペースなのが居てな」

「あー。ヨタカさん達の誘導に引っかからなかった個体を狩れば良いってことか」

「流石は嬢ちゃん、頭の回転が早いな」

「結構数多いんでしょ? ヨタカさん達だけで大丈夫なの?」

「今回は俺だけじゃなく、フクロウとツグミも参戦するから問題ない」

「え、珍しいね。フクロウのおっちゃんは兎も角、つぐみんも出るんだ」

「嬢ちゃんがクエスト受けることになったって伝えたら珍しく『行……く』ってさ」

「へぇぇっ。つぐみんの戦闘は無駄が一切無くてカッコいいから楽しみ」

「……案外後輩である嬢ちゃん達に良いとこを魅せたいだけなのかも知れないな」


 フクロウのおっちゃんはヨタカさんのパーティーの僧侶の上位である『求導師』の、つぐみんは何と盗賊の上位職である『忍者』の天職を持つAランクの冒険者だ。


 求導師とはその名の通り、真理や悟りを求め修行する聖職者ことを指す。自身だけでなく範囲回復などの上位魔法を行使できる他、迷える魂を浄化する術も持ち合わせているパーティーの要である。


 逆に忍者と聞くと奇想天外で奇天烈な術を使うイメージが強いが、その実態は質実剛健で、明確かつ完結に対象の弱点をついて仕留める忠実で寡黙な暗殺者と言える。


 つぐみんもその例に及ばず言葉少ななのだが、表情と反応がその心情を雄弁に語るので、冷徹というよりは愛嬌のある先輩というイメージが強い。


「それと今回遅刻したバツとして、今俺が指導している新人のパーティーのお守りも任せることにしたから、怪我させないように宜しく頼むわ」

「え、ちょ――ヨタカさんっ⁉ き、聞いてないってばそんなことぉ〜」

「流石はヨタカ殿。ローズ様に振り回されるだけでなく、きちんと仕事を割り当てていますね」

「ぐ、ぐぬぬ。確かに遅刻したのは悪かったけども」


 自業自得とは言えきっちりと追加のお仕事も頂いてしまったので、これ以上お叱りを受けないためにも新人さんの面倒はしっかり見ないといけないらしい。


 はぁ。せっかくCランクになったのに子守とか、ちゃんと出来るか心配なんだが。

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