一章03話 騎士と従者と異母妹と。
「んー。美味しかったぁ。やっぱりお寿司とお酒は合うよね〜」
「アイヴィス様ったらもう。ほら、ご飯粒がほっぺに付いてますよ?」
「え、嘘。ここ? あれ、どこどこ? ……あ」
「ふふっ。ほのかにアイヴィス様の味がします」
「ぐ……ぅ。なんかめっちゃ恥ずいし、えっちな感じがする」
「――えっ⁉ そ、そう言われると、なんだか私も恥ずかしくなって来ちゃいました……」
せっかく成人を迎えたので地酒を少々頂いているのだが、どうやらこの身体はお酒に過敏に反応するらしい。
先程から動悸と体温の急上昇を感じるし、おそらくは間違いないだろう。
さ、流石にいい年してほっぺについたご飯を取って貰ったくらいでここまでドキドキしないだろうし、きっとそうに違いないのである。
しかし、そうか。俺ってばこの世界でまさに今、大人になったってことなのか。
つまりは年齢を理由に我慢していた”あれこれ”が解禁されるわけでして。つまりは”そういうこと”も可能になったということで、間違いありませんよね?
「……こほん。アイヴィス様。ラヴィニスば見る目がいやらしすぎるばい? 公衆ん面前やちゅうことばお忘れにならんでくれん」
「ひぁぁっ⁉ ちょ、ちょっとシュア! み、耳元で囁かないでよ感じちゃうから」
「感じ――っ⁉ ば、馬鹿なんかアイヴィス様は! 変なことゆわんでくれん!」
「しょ、しょうがないだろ! 今ちょっとそういう気分になっちゃったんだから!」
「そ、そげな気分って、な、なななんか?」
「いや、なんていうか、さ。ラヴちゃんとかシュアと、そういうこと出来る年齢になったんだなぁって思ったら、きゅ、急に意識しちゃってね」
「あ、アイヴィス様はいやらしすぎる。……い、いややなかとですが」
い、今シュアってば、嫌じゃないって言ったよね? そういうことで伝わってるみたいだし、言質も取りましたからねっ!
ラヴちゃんは言うまでもなく受け入れてくれるだろうから、後は恥ずかしがり屋のシュアだけが関門だったんだけど……うん。これは今晩、イけるかも知れないぞ?
ふむ。この年齢まで色々水面下で動いていた甲斐があったな。公爵家令嬢に亡国とはいえお姫様相手ならば皇女という私の立場に引けも取らないし、ふむふむ。
確実に後世に子を成すために皇族が複数の女性と関係を結ぶことは、むしろ義務に限りなく近い特権なわけでして。使わない手は無いと言うか何というか。
何よりこんな良い女を他の野郎に渡すなど、仮に去勢されたとてあり得んからね。
「――姉、お姉様! 一体何をなさっているのですか!」
「うわぁっ⁉ な、なになにどうしたの⁉ て、敵襲⁉」
「お姉様! まったくもう! 公衆の門前で発情しないで下さい!」
「は、発情なんてしてないし!」
「……恥ずかしい。皆さん、ご覧になられてますよ?」
「――えっ⁉ あ、あちゃぁ……」
「お姉様がお二人のことを大切に思っているのは重々承知ですが、そういったことはプライベートの時間になさって下さいませ」
「う、うぐぅ。面目次第もございません……」
彼女の名はシャルルロア・ロゼル・アインズブルグ。年齢は今年十二となる年だ。何を隠そうこの私アイヴィス・ロゼル・アインズブルグの腹違いの妹その人である。
俺が父似で彼女が母似という違いの他に髪色――俺がピンクベージュで、彼女がブルーアッシュと異なるが、戸籍上姉妹であることは間違いはない。
正直に言ってこのシャルルこそが兄弟姉妹の誰よりも為政者向きであると個人的には感じているのだが、確実に後世に血を残すという特性上男系が強い社会なので、実際に彼女が女帝として君臨する可能性が皆無なのが実に残念ではある。
ちなみに彼女も側室の子とはいえ直系の皇女なので、皇位継承権は俺同様に第五位と高く設定されている。
ともあれ。公衆の面前で皇女が正座をさせられることは良いのでしょうかシャルルさん! お姉ちゃんの威厳と品格が著しく低下していると思うのですが、そこんとこどうなんでしょうか! 声に出すと怒られるから絶対に言わないけれども!
「不満そうなお顔をされていますが、何かおっしゃりたいことがお有りですか?」
「――ぎくぅ⁉ ま、まさか。シャルルがあまりにも可愛すぎて、ついつい見入っちゃっただけだよ」
「本当ですか? 目が泳いでいるようにも見えますが……」
「本当だよっ! あまりに可愛すぎて、等身大のガラスケースに閉じ込めて私の私室に飾り大切に保管し、ラヴちゃんたちと一日中愛でたいくらいには本気だから!」
「……お姉様、シスコンも大概にして下さい。正直私で無ければ距離を置かれてもおかしくはない発言をなされていますからね?」
「そんなこといって〜。シャルルちゃんだってお姉ちゃんのこと好きなくせにぃ〜」
「お姉様。私はお姉様が好きだからこそ共感性羞恥を覚えているのですよ?」
「……わが妹ながらイケメン過ぎて、正直お姉ちゃんが敵う未来が見えませんね」
真正面からの好意を受け、お姉ちゃんはもうどうにかなりそうですよシャルルちゃん。前世の義妹も確かに可愛かったが、どちらかというと呆れられてたからなぁ。
それが正直な好意なのか計算された生存戦略なのかが分からないが、彼女になら一生騙されてても良いなって気持ちになってしまうのは、やはりシスコンなのだろう。
そもそも愛でるなという方が無理だけどね。だってシャルルちゃんってば可愛いもん。ちんまい身体にキュートなお顔。しっかりものの性格にちょっと生意気なところまで含めて、その全てが可愛いで構成されているのだから。
「……シャルルちゃん。ハグしても良いですか?」
「どうしてこの会話の流れでそうなるのかは分かりませんが、良いですよ」
「やった。それじゃあせーの。ぎゅぅぅぅっ」
「あ、あまり強く抱きしめないで下さいませ。皺になってしまいますわ」
「あ、ごめん。それじゃあそぉ〜っと。ぎゅぅぅぅっ」
「も、もう良いですか? 流石に少々恥ずかしいので」
「えー、しょうがないなぁ。それじゃあ最後に。ぎゅぅぅぅっ」
少し嫌がっているようにも見えるけど、実は内心喜んでいるのは知っている。
大人びているとはいえまだ少女だし、昔から今に至るまでずっと多忙な両親を持つので、普段はあまり構って貰えて無いからだ。
転生という過程を経ている俺ですら少々寂しさを感じていたのだから、幼い彼女には中々に堪えていたのだろう。
だからこそ私にこんなにも懐いてくれているわけでして。……え? そうは見えない? 嫌だなぁ、そんなわけ無いじゃん。俺ってばこう見えて『好感可視』という圧倒的な客観視点を持つ、有能な皇女様なのだよ?
まぁ確かに? 懐いてくれている理由については俺の憶測でしか無いけどね?
「不思議だなぁ。ラヴちゃんとかシュアをハグするときは劣情を駆り立てられるというのに、何故かシャルルのときは保護欲の方が勝るんだよね」
「比べられている現状は甚だ不満ではありますが、妹に興奮されても困りますのでそれで宜しいかと思いますわ」
「え、でも結婚は出来るでしょ? 異母妹だもんね?」
「け、結婚ってお姉様っ! 一体何をおっしゃられているのですかっ⁉」
「いやま、冗談だけどさ。でもシャルルを取られるなんて想像するだけで凄く嫌だし、そういう選択肢もあるかなぁって思ったの」
「……はぁ。シスコンもここまで来るとご病気ですね。今度良いお医者様をご紹介して差し上げますわ」
「ちぇー。ずっとシャルルと一緒に居られる、良いきっかけだと思ったのになぁ」
貴族や皇族だけの特別なルールではあるが、アインズ皇国では異兄弟までなら結婚することが可能だ。
建国からおよそ二百年になるが、その長い歴史の中で皇族が子に恵まれずにやむを得ずそういった手段に及び、未来を見据えて正式に国の法律として成立したそうだ。
しかし子作りや政略以外の結婚観もありかなとか思ったりもしたけど、流石に俺に都合が良すぎるか。
妹にしろ今はまだ見ぬ娘にしろ、いずれは誰かの元へ巣立ってしまうのが世の常なのだから、ね。
しかし転生してから今の今まで精一杯生きてきたせいで失念していたが、今頃前世の義妹は何をしているのだろうな。
あれからどのくらい月日が経ったかは知らないけど、せめて彼女の人生に幸がありますことを、ここに願わせて頂くとしようではないか。
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