一章04話 転生前のある日。
「――義兄さん起きて下さい! 早く起きないと学校に遅刻してしまいますよ!」
「……まだ眠い」
「可愛い義妹がわざわざ起こして上げているというのに起きないなんて。もしかして、お仕置きをして欲しいのですか?」
「……分かった分かった。今起きるから下で待ってて。すぐ行くから、さ」
「むぅ。そんなこと言ってこの前も、全然降りて来なかったじゃないですか!」
「ぐぅ……」
「もう許しません! ……えーいっ!」
「――ぐぇぇっ⁉ ま、まいったリンネ。お義兄ちゃんが悪かったから〜」
痛ぇぇぇっ⁉ 朝一番の寝起きにボディプレスという中々に粋なプレゼントをくれやがったキミはさては、今年十五才となったキュートな義妹のリンネちゃんだなっ⁉
まったくもう。年頃の女の子が成人男性が眠るベットにダイブするなどという端ない真似はしないようにと、お義兄ちゃんいつも言ってるでしょっ!
元々巫女を育てる目的で設立された故に神苑学園が中等部まで完全なる女子校なのはしょうがないのかも知れないけど、男は皆狼だから気をつけないとなのよ?
「あらあら。
「――は、はぁっ⁉ お母さんったら、何を言っているのでしょうか。わ、私はただだらしのない義兄さんに、教育的指導をしているだけですよ?」
「……リンネ。臨時教師として一言だけ言わせてもらうけど、ボディプレスは体罰に当たると思うんだよね」
「分かってませんね義兄さん。これはいわゆる……愛の鞭というやつですよ!」
「まぁっ! 愛だなんてそんな、鈴音ちゃんったら大胆なのねぇ」
「違うって言っているでしょうお母さんっ! これはその、言葉の綾ですから!」
「なるほどね。こんな可愛い義妹に愛されているなんて、俺は幸せものだなぁ」
「義兄さんまでおかしなことを言わないで下さい! お、置いていきますからね!」
ふむ。かつて妹なんて居たら居たでただ面倒なだけだと友人が言っていたことがあるが、正直言って可愛くて仕方がないのだが?
一般的な妹がどうなのかは分からないが、少なくともリンネちゃんは凄く可愛い。
俺と義母さんに誂われて顔を真っ赤にするとことか至高だし、照れ隠しにさっさと先に行ってしまうところまで含めて、可愛いが渋滞してるんだよな。
世間で言うお嬢様学校に通っているためか怒っているのに口調は丁寧だし、なんだかんだと言いつつも面倒見が良く、料理なんてもうプロ顔負けに上手ときた。
くぅぅっ。これで妹じゃなければ、間違いなく俺は求婚してるね! 振られる未来しか見えないから、多分本当にはしないけども。
……ふむ。そういった意味でも義妹で良かったと言えるのかも知れないな。
ちなみにリンネちゃんの本名は
「ほらほら。慌てなくても良いからシュウちゃんもそろそろ出立なさい? お弁当は玄関先に置いてあるからね」
「ありがとう義母さん。……あれ? そういえば親父は?」
「あの人ったら久しぶりの飲み会で潰れちゃったみたいなの。……しょうがない人」
「……珍しいな。義母さんが好き過ぎてそういうのいつも断ってたのに」
「ふふっ。私がたまには出なさいって注意したの。家庭を優先してくれるのはとても嬉しいけど、部下や上司との親睦を深める機会も大事になさいってね」
「なるほどね。義母さんに言われたらそりゃそうするか。きっと義母さんとリンネちゃんの自慢話をしているうちに、気持ちよくなって飲みすぎちゃったんだろうなぁ」
「……恥ずかしゅうなってしまうけん、人前ではあまり褒めんでって言いよーとに。まったくもう」
「義母さんには申し訳ないけど、親父の気持ちは分かる俺としてはそれは同意し兼ねるな」
可愛いリンネちゃんを産んだ義母さんが、可愛くないはずがないじゃないか! あとたまに出る南部訛りもとても良いっ!
しかしまぁ親父がいきなりお嬢様で一回り近く年下の未亡人と再婚するとか言い出したときは死ぬほど驚いたけど、まさに結果オーライだな。
可愛い妹が出来たのも、高卒の俺が神苑学園で用務員—―延いては臨時講師として働くことが出来たのもその御蔭だし、正直親父にも義母さんにも足向けて寝ることなんて一生出来ないね。
「シュウ先生ー! 早く来ないと課題研究の件、手伝って上げませんからねー!」
「――げっ。この声はさては愛しの我が後輩かつ可愛い生徒でもある
「いと、可愛――ッ⁉ ば、ばばば、馬鹿なこと言ってないで、さっさと学校に行きますよ! シュウ先生が遅れたら、何故か私がリンネに怒られるんですからねっ⁉」
「分かった分かった。……まったく、リンネちゃんには敵わないな」
「ふふっ。どうやらシュウちゃんより、鈴音ちゃんの方が一枚上手だったようね」
どうやらリンネちゃんは先に行くだけでなく、お隣の天条さんちのお嬢さんにしっかりとメッセージを送りつけたらしい。
彼女は天条椿紗、十七才。神苑学園高等学部に在学する、現役の女子高生である。
リンネちゃんよりも二才年上なのだがとある事情で頭が上がらないらしく、今日のような雑用を頼まれることが多々あるようだ。
大抵は俺絡みのことで迷惑を掛けているので心苦しいが、正直なところ約得なことが多いので甘受しているのはここだけの内緒である。
「まったくシュウ先生ったら。私よりも一回りくらい上なのにだらしがないんだから……もうっ!」
「ごめんってば。そんなに怒らないでよ椿紗ちゃん」
「怒ってません! ただ、呆れているだけです!」
「怒ってる顔も呆れている顔も可愛いよ椿紗ちゃん」
「ば、馬鹿なこと言わないで下さい! セクハラで訴えますよ⁉」
「うーん。本当のことを言っただけなんだけどなぁ」
「い、良いから早く行きますよ! ほら、は〜や〜くぅ〜!」
「わ、分かったってば。分かったから手を引っ張らないでくれ〜」
お淑やかがリンネちゃんを指すのならば、快活というのが椿紗ちゃんだと言える。
互いにお嬢様学校の先輩後輩に当たる故に口調は終始丁寧だが、性格は当然個々によるのだろう。
一概にどちらが好みとは言えないが、実際に彼女たちは”神苑学園三大美少女”として実しやかにファンの間では囁かれているようだ。
生徒だけで千人を超えるようなマンモス校の中の三人に入るなど、義兄としてもご近所さんとしても鼻が高いが、同時に好機な目線も向けられるのでなんとも言い難い。
実際に実害があったことは一度も無いのだが、殺意の籠もった視線だけでも身震いが止まらず、今日も今日とてご飯が進んでしまうのである。
「しかしなんだ。こうやって手を繋いで歩くなんて、まるでカップルみたいだね」
「は、はぁぁぁっ⁉ いい年して何を勘違いしているのだか分かりませんが、精々兄妹が関の山だと思いますよ!」
「ふむ、椿紗ちゃんが妹か。それはそれでありかも知れないな」
「……やっぱり無しで」
「それは残念。でもそうか、流石に椿紗ちゃんと一緒の風呂には入れんよな」
「……は? もしかしてシュウ先生、リンネと一緒にお風呂に入るのですか?」
「え? 普通に入るけど……あれ? それってもしかして、おかしかったりする?」
「な、なにを言っているんですか! そんなの、おかしいに決まってますよ⁉ ふ、ふふふ、普通の兄妹は一緒にお風呂になんて、絶対に入りませんからっ!」
「……ま、マジ? え、じゃあ一緒のベットで寝たりとかもしないの……?」
「――しませんよ! 烏丸家の倫理観はどうなっているのですか! もしリンネに変なことしたら、綾乃さんに言いつけますからねっ⁉」
え、えぇぇっ。なんかこれ、俺が悪いことになってない? 俺一人っ子だったから知らなかったし、友人宅も一緒に入るって言ってたのに……。
何より実際に
ま、まぁ良いか。なんか冷静に考えたら良くない気がしてきたし、忘れることにしようか。人間失敗からしか学べないものだし、次から気をつければ良いよね? ね?
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