2-3 驚くべき噂(ここ好き)
サー・ウィリアムは会場の隅に置かれたテーブルを囲んで、何人かの紳士たちと話し込んでいた。テーブルの上には空のグラスが乗り切らないほど置かれ、何本かはすでに床に吸い寄せられて粉々になった痕跡があった。テーブルを取り囲む紳士のうち、数人はもうすっかりできあがって真っ赤な顔をしながら呂律も回っていなかった。しかし、どうやらサー・ウィリアムはそれほど飲んでいないようで、大声で管を巻く隣人をあしらいながら時折会話に口を挟む役割に徹している。
去年会ったときと風体は殆ど変わらず、軍人らしくしゃんと伸びた背筋は年齢をまるで感じさせない。それどころか、広い肩幅は更に広くなったような気がした。唇はあいかわらず気難しそうに真横に結ばれてどことなく威圧感がある。ちらっとみただけでは楽しんでいるのか、そうでないのかも分からない……アメリアはそういうお堅い表情を見るたびに、絶対に自分に惚けさせてドロドロにしてやるという気概が湧いてくるのだ。経験上、堅い男性の方が女性に溺れると滑稽な表情をしてくれるものだった。
それを想像すると自然と口元には笑みが浮かび、アメリアはそのままの笑顔で集団に近づいた。
「こんばんは、サー・ウィリアムさん」
「これはこれは、ミス・スレイター。どうもご無沙汰しております。あなたのような方に名前を覚えて頂けるなど、これほど光栄なこともありませんな」サー・ウィリアムは慇懃にアメリアの手を取って挨拶した。「ミス・スレイターとお会いするのは丁度一年ぶりになりますかな? それにしたって前回から随分と時間が空いてしまい申し訳ない。きっとうら若き淑女はわたしのことなんてお忘れだろうとばかり思っていたもので……」と言いながら、サー・ウィリアムはアメリアの瞳を覗きこみ「どうやらますます美しくなられたようだ」と、心の中で呟いた。
「まさか、そんなはずありません。それにしたって長い一年でしたけど……去年の約束を覚えていますか? ぜひまた一緒に踊りましょうっていうお約束です。今日はお越しいただけると聞いて、わたしとっても楽しみにしていたんですよ」
アメリアの言葉にサー・ウィリアムは心臓をわしづかみにされたように感じた。
「それは……つまり一曲わたしと踊って頂けると捉えてよろしいのでしょうかな。いや、しかし……ふむ。わたしのような
すぐにアメリアの誘いに飛びつかなかったのは、いくつもの戦火をくぐり抜けた人間特有の勘が何かを叫んでいたからだ。一体どういうことだろうか、目の前にいるのはただの可愛らしいお嬢さんだというのに……。それに何より、これほどの名誉もない。サー・ウィリアムは顎髭をさすりながら自分の不可解な心を解き明かそうとした。しかし丁度その時、共にテーブルを囲んでいた男の一人が高らかに声を張り上げ、やむおえず思考は中断された。
「これほど素敵な淑女に誘われたのなら答えは一つしかありませんぞ、ウィリアム大佐!」
アメリアは大きな目をパチパチとさせた。煙草をやりながらそこに座っていたのはオールポート市長だった。六十代前半のくたびれた男性で髪も髭もほとんど白くなり、前回クリスマスパーティーで見たときよりも山羊髭がさらに五センチは伸びていた。
この市長は、もう十分「老人」と呼ばれる年齢だというのに、心の中はいまだに青年のような気力にあふれている人だった。政治談義には必ず口を挟まずにはいられないし、酒の飲み比べとあれば記憶を失うまで飲む。それからその腕っぷしを世間に知らしめたいと思っているし、密かにアメリアのような若く美しい女性と踊りたいと願っている――ただ実際に踊りの相手をするのは彼の肉付きの良い奥さんくらいのものだ。どうやらブランデーをかなり
「どうして市長さんがここに?」
「えぇ、そりゃあ何しろ今日は記念すべき日ですからな。わたしとしても嬉しい限りですよ。この会を祝わずして一体何を祝うっていうんです?」
「記念すべき日?」アメリアは一瞬とんでもない自惚れを発揮して自分の復帰を祝っているのだと思ったけれど、その考えはすぐに訂正された。何しろ、今日この舞踏会に参加するなんて誰にも言っていないし、まさか予測できたとも思えない。今朝のやり取りは奇跡のような収穫で、自分でも上手くいくとは夢にも思っていなかったのだから。それに何より、アメリアを祝うなんてアンナが絶対に許さないだろう。
アメリアがきょとんとしているとオールポート市長は酒の入ったグラスを傾け、それを一気に飲み干した。それから上機嫌になって快活に続けた。
「なぁに、あと一時間もしないうちにわかりますよ。ミス・スレイターが知ったら大層驚くでしょうなぁ――えぇ? どうしても知りたいと? いやいや、わたしにも守秘義務というものがありますから。わかるかな? あまりべらべら個人情報を話すなという悪法でね……。ふむ、まぁ、そのうちはっきりすることですが、どうしても今すぐにというのならその辺の浮ついてるお嬢さん方に聞いてみるのがいいでしょう。わたしの見たところ、今や彼女たちは大英博物館にも負けないくらいの知見を有しているとみえる!」
あの娘たちが? と、アメリアは華やかな娘たちにあまり乗り気ではない視線を投げつけた。娘たちはいつにも増してめかしこみ、きゃあきゃあと甲高い声をあげ、良くわからない話題で盛り上がっている様子。その集まりの中には普段から何かにつけてアメリアに突っかかってくるエマ・アボットの姿もあった。しかし、どうやら今日ばかりはアメリアにちょっかいを出すよりも優先したいことがあるらしく、何人かの淑女を集めて悦に浸りながら講釈を垂れている。あの中に混じると思うとちょっとゾッとしちゃうわね。面白くなさそうなアメリアの視線に気がついたのかオールポート市長は慌てて弁解した。
「いやいや、急がずともそのうちわかることではありますがね……」それから紳士たちをぐるりと見渡して「さて、紳士諸君。わたしの論説はどこまで話したかな……ああ、そうだ。つまり我が国は無限の働き手を求めているという話です。ええ、皆さんのおっしゃりたいことはわかりますとも。つまりこの制度にはとんでもない欠陥が存在するといいたいわけだ!」オールポート市長の話は長年壇上で話してきたからか、どこか演説口調で、時折妙に声を張り上げたり逆に小さくなったりと忙しなかった。その内容はアメリアにとっては理解不能もいいところで、新救貧法だの救貧法委員会だのという小難しい言葉が矢継ぎ早に耳に飛び込んできて目眩がした。しかしどうやらアメリアにとっては理解不能でも紳士たちにとっては格好の餌食らしく、オールポート市長の言葉は何度も遮られ、テーブルについた紳士たちの持論が次々に語られた。身振り手振りも声量に負けず異様に大きくて、すぐにでもテーブルの上から空きびんを叩き落としそうな勢いだ。
「なんだか随分つまらない話で盛り上がってるのね。ジョージアナが聞いたら大喜びしそうだわ」アメリアの退屈に気がついて、サー・ウィリアムはアメリアに向き直ると丁寧にその手を取った。
「いつまでもあなたのような淑女をこんな場所にとどめておくわけにはいきませんな。きっと退屈なだけでしょう。それで先ほどの返事ですが――もし、まだ気持ち変わっていないのなら――ぜひとも一緒に踊っていただきたいものです」
「本当ですか?」アメリアは花が咲いたような笑顔を浮かべてから、ちらりと周囲の様子をうかがった。どうやら紳士たちは揃いも揃って議論に花を咲かせているようで、アメリアの姿なんてまるで目に入っていない。都合のいいこと! アメリアは内心でにやりと笑って、そっとサー・ウィリアムの腕に手を置き、体を密着させると、上目遣いで可愛らしく目をぱちぱちさせてみた。なんだか知らないが、こういう動作に男性が滅法弱いというのは経験則でわかっていた。当然ながらウィリアム大佐もその例にもれず、アメリアに目を奪われ、自分が十数年は若返ったような気がした。
「あなたのために一曲目はあけておきますね」そして今度は蝶のように身をひるがえして軽く顔を赤らめるといい。深追いは禁物、あまりベタベタしすぎると安い女だと思われちゃうもの。数々の経験則に基づいて、アメリアはそれだけ告げるとドレスの端をつまみ優雅に一礼してその場から去った。
サー・ウィリアムはその後ろ姿を目で追いかけながら、いつもの癖で白髭の生えた顎をさすり、自分も髭が似合わないほど若ければ……と、帰らぬ時を思い返した。その一方でアメリアは急激に自分の心が冷めていくのを感じていた。
「あの様子だと案外すぐに夢中になってくれそうね。なんだか拍子抜けだわ」巻き毛を指で弄びながら、どうしようもない心のうずきにやきもきしていると背後から聞き慣れたテノールが響いた。「アメリア! アメリアじゃないか!」それは紛れもなくエドガーの声だった。
アメリアはくるりと振り返り、人混みの中にその姿を見つけて明るい笑顔を浮かべた。ダークブラウンの髪はどこにいてもよく目立つ。糊のきいたラッフルシャツに今風の洒落た燕尾服をきっちりと着こなす姿はこの会場の中でもトップレベルに素敵で自然と目が惹かれた。人と人の間を力強くかきわけながらアメリアに近づくと、エドガーは慣れた調子でその手を取り、そこに恭しくキスを落とした。その様子はアメリアをどこかのお姫さまと勘違いしているかのようで、今にでも片膝をついて挨拶してもおかしくないと思わせるものがあった。
「随分姿をみないからてっきり社交界がいやになったのかと思ったよ。元気そうで何よりだ」鳶色の瞳は嬉しそうに細められ、再会の喜びを隠そうともしない。それどころかいつの間にか両手を握られていて、両手に感じるたしかな熱と圧力はアメリアの途方もない承認欲求をいくらか満たしてくれた。
アメリアもつられて柔らかい笑みを浮かべたが、すぐにハッとして冷たい表情を顔に張りつけて顔を背けた。だめよ、だめ。今日は口も聞いてあげないって決めたんだから。いくらエドガーがいつも通りに熱くわたしを求めてくれるからって、エマとの一件がなかったことにはならないもの。そのことを思い出すと目の前の男に無性に腹がたって、アメリアは力ずくでその手を振りほどいた。エドガーは振りほどかれた手を見つめて怪訝そうに眉をひそめた。
「なぁ、アメリア。なんで僕にだけ手紙の返事を書かなかったんだい? 他の男友だちの自慢げな顔を見せてやりたかったよ。それから僕がその間どれほど退屈していたかもね。何しろ君から三行でも返事がくるなんて空から槍が降ってくるみたいなものだし――まぁ、返事の内容が全員一緒だとわかったときのあいつらの顔は本当に傑作だったけどなぁ! でも僕が退屈して嫉妬に胸を焼かれる思いだったていうのは本当のことさ。一体どうしてこんなひどい仕打ちを? 正直、自分でも悪くない出来だったと思うんだけどな」エドガーは心底わからないといった表情でアメリアの瞳をじっと覗き込んだ。その瞳には理不尽に対するいらだちが微かに滲んでいる。沈黙を貫くアメリアに小さく首を傾げながらエドガーは視線を下げ、ついさっきみすみす逃げられた両手を恨めしそうに見つめた。普段なら振りほどくなんて絶対にないのに、一体どういうことなんだろう? エドガーは懲りずにもう一度白く細い指に触れようと手を伸ばしたが、今度は触れることすら叶わなかった。アメリアは汚らわしいとばかりにその手を無慈悲に払いのけた。
ここまで邪険にされるとさすがのエドガーも黙っている訳にはいかなかった。ムッとして鼻根を持ち上げると抗議の声をあげる。
「ところで今日の君は随分冷たいね。せめて理由くらいは教えてくれると大助かりなんだけどなぁ。それと何を怒っているのかは知らないけど、当たるなら僕以外の男にしてくれると嬉しいものだね」その声には呆れと困惑といらだちが入り混じっている。エドガーの態度はこれっぽっちも悪びれる態度ではなく、それどころか無実の罪に苦しめられる善人そのもののように見えた。この人ったら、本当に心当たりがないっていうの? それともわたしが何も知らないと思ってたかをくくっているの? その真意を探りたくてエドガーの鳶色の瞳を探ってみたが、やはりその表情はやましいことなんて何一つないと宣言している。「いいわ、心当たりがないっていうのなら突きつけるまでよ」アメリアはエドガーの瞳をキッとにらんだ。
「当然の報いよ。エマに愛の言葉を投げかけておきながらよくもわたしの返信なんて待ち望めたものね」
アメリアの言葉にエドガーは目をむいて声を荒らげた。
「僕がエマに!? 一体誰がそんな訳のわからない噂を流したんだ!」エドガーは会場全体をぐるりと見回して、遠くの方で女だちと楽しげに話しているエマを見つけると忌々しそうに眉をひそめた。
「違うの? 他でもないエマが言い触らしてたって聞いたんだけど」
「違うもなにも、根も葉もない噂さ! そんな馬鹿げた噂で君との仲を引き裂かれたらたまったものじゃない! もちろん僕の言葉を信じてくれるね? 何しろ長い付き合いだし、僕が君にぞっこんだっていうのは言うまでもない話だろ? それに悪いけど彼女は僕の趣味じゃないし……。それにしたって、一体どうしてエマもそんな勘違いしたんだ? 勘違いさせるようなことは言ってないはずなんだけどなぁ」エドガーは白い滑らかな顎に手をあてながら首を傾げてしばらく考え込んだ。そもそもエマは苦手な部類だし、社交辞令的な話しかしていないはずだけど……。いや、待てよ。もしかして、扇子を拾ったときのことか? 確かあのときは――と、思ったところでエドガーは自分の両手がアメリアの小さく柔らかな指先で包まれていることに気がついて思わず思考が止まった。先ほどまでの冷たい態度がうそのように、アメリアはすっかり気を良くしてご機嫌な笑みを浮かべていた。
「どうだっていいわ。そんなこと。きっとあまりにも人気がないからおかしくなったのよ。男性に免疫がない女ってちょっと微笑まれたくらいでその気になるものでしょ?」アメリアの少し意地悪を混ぜた微笑みに当てられるとエマのことなんてすぐにどうでもよくなり、エドガーはさっさと思考を切り替えた。大体アメリアから許しをもらえたというのなら他に重要なことなんて何があるだろう? 今この小さな手と輝く緑の瞳は確実に自分のものだっていうのに。過ぎた勘違いを蒸し返すのもつまらない話じゃないか。
「それならもう君の前でしか笑えないな。もちろん今日は僕と踊ってくださいますよね?」エドガーはおどけて言った。
「もちろんいいわよ、でも曲数が余ってたらね。わたしの分も神に祈っておくことだわ。今日は何曲あるのか知らないけど……でも沢山ありそうよね。だって今日は妙に盛大だもの。いつもの弦楽団じゃなくてオーケストラだし、それに市長さんもいらっしゃったでしょう? ついでにみんな一段と気合いが入っているみたい。誰か素敵な方でもお呼びしてるの?」
きょとんとしているアメリアにエドガーは得々として、大袈裟に腕を広げてみせた。
「どうやら本当に何も知らないんだな。君がいない間にとんでもない大事件が起こったのさ! この一ヶ月間その話題で持ちきりだったんだ。きっとアメリアがあの場にいたらとんでもないことになってただろうなぁ、いや、今日もとんでもないことになりそうだと僕は思ってるけどね。何があったか知りたい?」
「もちろん!」アメリアは身を乗り出して答えた。
「なら一曲目は僕と踊ってくれるかい?」
「あら、そんなにわたしが良いの? でもダメよ。もう先約があるもの。二曲目ならいいけど」
「ちぇ、なら仕方ないな。二曲目でも相手が君であることを思えば十分誇らしいことだしね」エドガーは長身をかがめてアメリアの耳元に薄い唇を寄せた。それからついでとばかりにその愛らしい唇をのぞきこむと抗いがたい欲望を感じて慌てて目をそらした。アメリアのぷっくりとした赤い唇はまるで熟れた果実のようで、あまりにも魅力的だった。
「いいかい、アメリア――」エドガーは何度か唾を飲み込んで、慎重な口調で小さくささやいた。アメリアは緑の瞳を弾ませて、エドガーのささやき声を聞き逃すまいと体を寄せている。エドガーはその事実に誇らしさすら感じて、この時間が永遠に続けばいいのにと心の底から思った。
「――噂によると、今日この場でミス・ベネットの婚約発表があるらしい」
全身に電流を流されたかのように鋭い衝撃が襲い、アメリアは弾かれたようにエドガーを見上げた。けれどすぐにはその言葉の意味を理解できなくて、頭の中には『ミス・ベネット』と『婚約』の二語だけがぐるぐると渦巻いている。なんですって? アンナが婚約? 理解できない言葉の羅列に頭がずきずきと痛み、その痛みの隙間でベネット夫妻の煮え切らない態度を思い出して妙に合点がいった。つまり自分の愛娘の晴れ舞台をわたしに邪魔されないかヒヤヒヤしていたってことね。段々と冷静になってくると今度は頭の中に山のように疑問が湧き上がって目眩がした。
「正直、僕も昨日までは眉唾だとばかり思っていたんだ。何しろ何年か前にもこんなことがあっただろ? それに僕の愛しい恋人ときたら、毎月そういう話が持ち上がるわけだし――だからオーガスト・ハーディンの賭けにも乗ってやったんだ」と、いいながらエドガーはどうやらその勝負の行方が自分の敗北に終わりそうだと思い、チッと舌を鳴らした。「どうやら今回ばかりは本当らしい。君の言う通り、そうでもなかったら市長なんて呼ばないだろう? それにさっきからずっとアンナを探しているんだけど、この会場のどこにもいないんだ。これはきっとそのやんごとなきお方と一緒に登場するからに違いない」
アメリアはエドガーのその言葉でようやく意識を取り戻した。
「それで……それで一体、お相手は誰なの? わたしの知っている人? たいした人じゃないといいんだけど……」
エドガーは期待通りの反応にご満悦で続けた。
「たいした人じゃないだって? とんでもない! それどころかとんだ資産家だって話だ。僕も詳しいことを知っているわけじゃないけど、なんでも年収が二万ポンドもあるとかないとかってもっぱらの噂さ。何年か前から単身でアメリカに渡って、そこでもたんまりと金を稼いだとか」
「二万ポンド!? そんなのあり得ないわ、一体何をしている方なの?」
「由緒ある貴族だってところまではわかってるんだが、渡米してからの足取りは誰も知らないんだ。これもまた噂だけど、中には人に言えないような仕事だって言うやつもいる。たとえば国を追われたマフィアのボスだとか密輸商だとか……でも、あながちありそうな話だろ? だって正規の手段で得られるような額はすっかり通り越してるんだから。で、思い立ったみたいにこっちに戻ってきたのがつい先月のこと。ロンドンにそれは大きなタウン・ハウスがあるんだが、その邸宅が珍しく活気にあふれていて、怪しく思った隣人が中をのぞいたら行方知らずの主人がいたって話だ。摩訶不思議な縁組ってほどではないけど、それでも不思議には変わりない」
「もういらっしゃってるの?」
「まさか、遅れてくるに決まってるだろう。そんなわけで淑女たちは浮き立っているってわけさ」
「それで、その方のお名前は?」
「ディラン・エドワーズ」
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