第4話 広がる噂 恵人

 恵人けいと瑞葉みずはを駅まで送った。慈代やすよの姿はどこにもなかった。

「送ってくれてありがとうございます」

「気を付けてね」

改札を抜けてホームに向かう瑞葉の背中を見送る。


 スマホの着信には何も入ってない。慈代に対して、何を言っていいかわからない、慈代に電話するのが怖かった。怖かったが、このまま何も話さないことは耐えられなかった。

 恵人は慈代に電話をしてみた……しかし、電話はつながらなかった。

結局、それから数日間、慈代とは連絡がつかないままだった。

『怒っているのかな……怒ってたよな……今も怒ってるよな……』


 瑞葉にも連絡できなかった。『連絡してあげるべきだろう』と思ったが、かけてあげる言葉が見つからなかった。


 そして数日後、同じ部の同級生である大島良太から電話がかかってきた。

「恵人、おまえ瑞葉ちゃんとキスしたって?」

「え、なんで知ってるの」

「なんでも知ってるよ。おれは」

「……」

「なんてな。いや、ごめん、ごめん。でも、慈代さんに見つかったんだって? いや瑞葉ちゃんが、そのことで悩んで同級生の理沙ちゃんに相談したらしいんだけど……その理沙ちゃんも悪気はなかったんだろうけど、別の子にそれを言って、なんか演劇部中に広がったみたいだよ」

「本当かよ。それ……」

「瑞葉ちゃん、大丈夫かな……」

「まあ、大丈夫みたい。気になって、おれも瑞葉ちゃんに電話したんだけど……まあ、なんていうか……その噂のことより、慈代さんに会うのが怖いらしい」

「ああ」

「タイミング悪いな」

「瑞葉ちゃん来るかな部活」

「来ると思うよ。きちんと慈代さんに謝りたいって言ってたし」


「瑞葉ちゃんというより……三年生の方が、なんかちょっとざわついてるみたいだよ」

「え、そうなの。なんか気まずいなあ。雅也まさやさんとか?」

「まあ、雅也まさやさんとか清田きよたさんとかはそうでもないみたいだけど……あの人たちは自分たちのことで楽しくやってるようだから……」

「そうなんだ」

「……晴美はるみさんとか」

「え、浅香晴美あさかはるみさん?」

「だって、慈代さんの親友じゃん」

「恵人……あんた殺されるよ。晴美さんに」

「……」


「いやいや、なんか一年生女子の間では瑞葉ちゃんに対して『慈代さんに負けるな!』みたいになってて。三年生女子の間では『瑞葉?一年生の分際で……』みたいな……いや、これは噂だけどね……二年生女子の」

「他人事だな」


 そして数日たって演劇部の練習の日が来た。

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