第3話 誤解 慈代

 慈代やすよが現れた。恵人けいと瑞葉みずはは言葉を失った。

「なにしてるの!」

慈代が二人をにらんだ。恵人は必死に言葉を探した『何とか弁解しなければ……』完全に慈代に誤解されるシチュエーションだ。


瑞葉みずはさんだったかしら。あなた、一年生だったわよね」

「……」

瑞葉は動揺が隠せなかった。

「そういうことは部屋の中でするものよ」

慈代が鋭い視線で睨む。


「慈代ちゃん。ごめん。違うんだ。これは……その間違いで……」

慌てる恵人。


「なにかと間違ってキスすることがあるかしら?」


二人に背を向けながら少し振り返るように……慈代が静かに言う。

「瑞葉さん……あなた……私のこと知ってるわよね」


 瑞葉は戦慄を感じた。十八年間生きてきたなかで、初めて女性の視線を心から怖いと感じた。

 何も言葉がでない。身動き一つできなかった。

 演劇部三年生のなかで、最高の演技力を誇るといわれた慈代の所作、言葉は一瞬にして空気を変える。

そのまま慈代はその場を去って行った。


 瑞葉の心臓の鼓動……高鳴りが止まらない。立ち尽くす瑞葉を見て駅まで送ることにした。

 このまままた部屋に入れるのははばかられたし、駅に行く途中で慈代と彼女が鉢合わせになるのも避けてあげたいと思った。そして、恵人自身も慈代に弁解したかった。


瑞葉は、まだ動揺している。

「大丈夫だよ。慈代さんには、きちんと説明しておくから……」


「ごめんなさい。軽率なことして……」

瑞葉はやっと言葉を口にすることができた。そして、緊張が解けたのか、恵人の胸の中で泣きだした。恵人は優しく抱きしめてあげた。しばらく瑞葉は泣いていたがやっと落ち着きを取り戻した。

「帰ります。ごめんなさい迷惑をかけて……」

「いいんだ」

恵人は駅まで瑞葉を送った。

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