第2話 恵人との時間
その日、演劇部の練習が終わると、誰からともなく一緒に食事に行こうという話になった。渋谷の街で食事。みんなで食事をした後、
その日は終電もなくなり、みんなで恵人の部屋に泊まることになった。夜遅い時間に恵人に電話がかかってきたのに気が付いた。しばらく話した恵人が電話を切る。隣にいた良太が恵人に言う。
「
「うん」
「いいなあ。年上の恋人」
微笑む恵人に悔しい気持ちがふつふつと
「もうキスはしたんですか?」
少し動揺し、慌てた恵人が、
「え、そんなことはいいじゃない」
「してるぅ。その慌てぶりぃ」
と言って笑う。
「へえ、慈代さんって清楚でおとなしい感じなのに、結構、積極的なんだ」
みんな興味深々という感じだが、恵人が会話を制した。何か慈代のプライベートをみんなの前で
その後は他愛ない話で皆それぞれに話をしていた、「劇団〇〇の舞台がよかった」とか、「俳優の〇〇さん演技を生で見たよ、オーラがすごいんだ」などと盛り上がっていた。
演劇やミュージカルというのは人によって、受け取り方は様々だと思うがビッグカンパニーなどと言われる、すごいところの舞台では、普段、ドラマや映画でしか見たことのない俳優、女優が目の前で演技をすることがある。テレビの画面を通さず、映画のスクリーンを通さず、劇場の自分と同じ空気の中に、その俳優や女優がいる。
その空気はそこに行ったことのある者にしかわからない感覚だ。
夜遅くなり、それぞれに眠っていく。瑞葉は恵人の隣にいた。恵人も眠たそうにしていた。
「瑞葉ちゃんはどこに住んでるの?」
「横浜です」
「へえ、東横線なんだ」
「ええ、恵人さんは祖師ヶ谷大蔵にずっと住んでるんですか?」
「うん、いいとこだよ」
「いいとこですね。今日みたいにいろんな人が訪ねて来るんですか?」
「ときどきね」
「じゃあ、私も時々来ようかな……」
「え?」
「だめですかぁ?」
「いや、友達と一緒にね」
「……」
不機嫌そうな顔をする瑞葉。
恵人も瑞葉の気持ちはわかっていた。しかし、恵人には慈代がいる。ついこの前まで手の届かないところにいると思っていた慈代と付き合うことになったばかりだ。慈代を愛していた。かわいい後輩としてしか見ることのできない瑞葉にはどうしてあげることもできなかった。
次の朝、皆それぞれに帰って行った。瑞葉も彩と一緒に帰って行った。部屋の中を片付けていると、誰かの財布がテーブルの下にあった。
「あ? 誰だろう?」
見てはいけないかとも思ったが、見てみるとカードやら何やらが入っている。カードにMIZUHA KASHIMAという文字がある。
瑞葉が急いで戻ってきた。
「あ、瑞葉ちゃん、これ」
財布を差し出すと、
「あ……中、見たでしょ。エッチ」
「いや、見てないよ」
「なんで私が財布忘れたってわかったのよ」
「いや……勘だよ。勘。ほらあるでしょ」
瑞葉が微笑む。
「恵人先輩。好きです」
そう言って玄関口で、瑞葉はいきなり恵人の唇にキスをした。
と、そこに慈代が現れた。
「え! 慈代さん……」
恵人と瑞葉は言葉を失った。
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