第30話

30

「『その男』とはまさか私の事か?」

「はっ、それ以外に誰が居る。婚約者がいる女と堂々と浮気なんて呆れるわ。」

「婚約者が居るのに浮気……ねぇ。僕らはただの友人だ。じゃあ今あなたが連れているのは?そちらこそ浮気だろう。あなたに心当たりがあるからこちらに突っかかって来るのだろう?」


自分の事に関してはまさかの棚上げ具合だ。

正直面倒なのでさっさと立ち去って貰いたい。

本来ならユリウスはロバートの無礼を咎める事が出来るのだが、長引かせるのも嫌だったので相手の嫌なところをついてあわよくば逆上してどこかへ居なくなってくれないかと画策していた。

が、後々面倒な事になったりしないようにとユリウスはちゃっかりテーブルの下で録音しているのだが。



「責任転嫁か!?俺は何を下って許されるんだ!なんたってこの国の……」

「そこまでです。」


声を荒げたロバートに今まで黙っていたシャーロットが制止を掛ける。騒ぎに店内の注目が集まってしまっている。きっとロバートは王宮には内緒で、お忍びで来ているはずだ。(全く忍べてはいないが)。それにも関わらず、自分の身分を誇らしげに宣言しようとした。その上、この男は今、身分を盾にしようとしたのだ。上に立つものとして許される行いでは無い。

これ以上の醜態を晒すこの男と同類だとは思われたくなかった。



「ここは公共の場です。それ以上仰るならあなたのお父上に報告致します。そうしたら監視が付けられて二度と街に降りては来れなくなるでしょうね。」


顔を真っ赤にして言い返そうとしていたロバートは父親の名前を出されて凍りついてしまった。基本は何でも許してくれる父親だが、今の王家の弱体化は憂いている。騒ぎを起こしたとバレたらきっと二度と遊び歩けないようにされてしまうだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る