第11話
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ルーナはシャーロットの方に向かってゆっくりとその歩みを進める。彼女が動く度、身に纏う衣装に付いた装飾品がシャラシャラと耳触りの良い涼しげな音を立てる。
ルーナはシャーロットに小さく微笑むと、彼女の後ろに立った。シャーロットから見えない位置で、彼女はルージュの引かれた艶やかな唇を歪める。
これは、王妃に対しての宣戦布告の合図だ。
王妃も負けじとその眦をつりあげる。
「ねぇ、ルーナ妃。今わたくしはシャーロットさんとお話しているのよ?割り込んで来るなんて無粋ではなくて?」
先に口火をきったのは王妃であった。
ルーナをこの場に留めておくのは不利だと判断したのか、それとも単純に夫の愛を手にしている彼女を見るのが不愉快なのか。
「まぁ、お話ですか……?それにしては酷い罵詈雑言が次から次へと飛び出ていたように聞こえましたわ?」
だが、ルーナも負けじと言い返していく。
しかし、彼女のその態度を気に入らないのは王妃。
「まぁ、人の会話を盗み聞きするなんて。なんて人なんでしょう。」
「何を仰いますか。応接間から声が聞こえてきただけですわ。殿下が大声でシャーロット様を罵倒していたのが。」
「白々しい……。やはり育ちが悪いと大変なのなぇ……。」
「あらあら、わたくしに矛先が向いてしまいましたわ、怖いこと。それに育ちがどうのと仰いました?先程シャーロット様にも同じことを仰ってましたわね。貴女の方がよっぽど……」
最後の一言は聞こえるか聞こえないかギリギリの声量でルーナの口から紡がれる。
実家が子爵家であることを馬鹿にされたと気が付いた王妃の顔はみるみるうちに怒りで赤く染まっていく。
「……なっ、」
「それに、シャーロット様に文句を言われる前に今一度ご自分の姿をご覧になられたら?夫を喜ばせるのも妃の務め、でしたかしら?ここ十数年陛下のお召がない分際でよくもまぁ……。」
王妃が言葉に詰まったことを確認すると、ルーナは機嫌良さげに、それはそれは可愛らしい声でころころと笑った。
二人のあまりにも怖すぎるやり取りに固まっていたシャーロットも、思わず見とれてしまう。
そんなシャーロットに優しく微笑みかけると、ルーナは更に王妃に声をかけた。
「もういい時間ですわ。まさか王妃殿下ともあろうお方が未婚の女性をこれ以上夜遅くまで引き止めるなんてことはなさりませんでしょう?」
惚けていたシャーロットだったが、ルーナの言葉に我に返る。今のシャーロットにとって、ルーナのこの言葉はまさに渡りに船なのだ。
乗らない訳にはいかない。
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