第10話
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「…ルーナ妃…………」
彼女の姿をみとめた王妃から地を這うような声が出る。その王妃の姿に満足気に笑うと、シャーロット達がついているテーブルに向かってゆっくりと歩いて来た。
ルーナ妃と呼ばれた彼女は元々奴隷の身分であった。生まれてすぐ両親に売られた彼女は、幼い時に各国を渡り歩いて舞や音楽を披露する旅芸人に買われた。幼い頃から徹底的に舞の技術を叩き込まれた上、成長するにつれて際立つ美しく悩ましい容姿。彼女がその座の顔となるには時間がかからなかった。
丁度今から5、6年前程。
彼女の所属する旅座がこの国に現れた。
ルーナの美しさは瞬く間に話題となって国中を駆け巡った。
連日、公演には大量の人が押し寄せ、それはそれは大盛況であった。
そんな美しい舞姫が居ると言うことはあっという間に国王の耳にも入った。
身分をかくして、お忍びで様子を見に公演を訪れた彼は、あっという間にルーナの美しさの虜となった。
彼女は、自分を縛り付け、良いように利用する旅座に嫌気がさしていた。稼ぎ頭であるにも関わらず、元奴隷であると言う理由で他の団員よりも少ない給料と食事しか与えられず、扱いは悪い。それにも関わらず、彼女に他の団員よりも多くの役目を与えてこきつかう。
そんな中、一国の国王が自分に興味を持ったのだ。これを利用しない手はない。
幸い、彼女は自分を美しく魅せる術を熟知していた。
手練手管を尽くし、国王に気に入られた彼女は五番目の側室として後宮に迎え入れられた。
稼ぎ頭がいなくなる旅座は初めは渋ったものの、ルーナを手放す代わりに国王から払われる金額を聞かされた彼らは、途端に手のひらを返した。
自分の息子と10も変わらぬ娘をいたく気に入った国王は、それ以降新たな側室を迎えることはなかった。
彼女は五番目の側室。一番下位の妃である。
しかし、流石は今迄厳しい環境で育ってきただけあって、状況把握には優れていた。
後宮入りしてすぐに、王妃に対して自分の立場が弱い事に気が付くと、国王からの寵愛に天狗になること無く、他の側室達と良好な関係を作り上げた。
敵の敵は味方とでも言うか、5人の側室達は意外や意外、仲が良い友人の様な関係を作り上げているのだ。しかし、それから年月がたった現在も、国王の寵姫はルーナであり、一番下位の側室であるにも関わらず、5人の側室達の実質的な頂点に君臨している。
ルーナは殆どの人に対して人当たりが良く、シャーロットの事も例外ではなく気に入っていた。
彼女の敵は昔も今も変わらず、王妃ただ一人であったのだ。
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