第8話
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馬車から降りたシャーロットは、案内を任されている侍女に付いて行き、王妃の待つ離宮へと向かっていた。
王城の中では、本邸は王が所有しており、主に謁見や会議、王家主催の舞踏会や他国との交流など、政治や貴族、王族達の公共の交流場として開かれていることが多い。
対して、中庭を挟んだ先に位置する離宮の主は王ではなく、王妃であり、主な用途としては、王妃主催のお茶会や、規模の小さい舞踏会、それから表立っては行えないような後ろ暗い取引なども行われる。国王以外の男が訪れることの出来ない後宮へと繋がる道が存在する離宮は、本邸とは違って閉鎖的であり、そのような行動を隠すのにはうってつけの場所なのであった。
シャーロットが本日呼び出された名目はそのような恐ろしげなものではなく、単なるお茶会――と言ってもシャーロットと王妃の二人だけの――なのだが。
このままのペースで歩くと、予定時刻よりも一分ほど早く離宮の応接間に辿り着いてしまう。
シャーロットを良く思わない王妃はほんの些細なことであってもちくちくとねちっこく嫌味をぶつけてくる。
心底うんざりしながらも、表向きそんなことはおくびにも出さず、中庭を横切る通路に差し掛かったところで、先導する侍女に怪しまれない程度にほんの少しだけ、歩くペースを落とした。
シャーロットの目論見通り、丁度きっちり呼び出された時刻に寸分違わず、王妃の待つ応接間の扉の前に辿り着く。
先導してきた侍女は、シャーロットが居住まいを正し、小さく微笑んだのを確認すると、小さく頷き、控えめに応接間の扉を叩いた。
「失礼致します、王妃殿下。フェロー二公爵令嬢をお連れ致しました。」
「……入れ。」
控えめながらも、よく通る声で侍女が部屋の中に向かって声をかけると、中から端的な返事が返された。
王妃の言葉をうけ、侍女が部屋の扉を開ける。
扉を潜り、室内に一歩踏み出すと、シャーロットは優雅にカーテシーを披露し、挨拶の口上を述べた。
「本日はお招き頂き有難く存じます。」
「よい。顔を上げよ。」
言葉に従い、シャーロットがゆっくりと顔を上げると、微笑む王妃と目が合った。
しかし、口角は上がっているものの、その目は全くもって笑ってはいない。
――これからどのようにして目の前の気に入らないこの小娘を甚振ってやろうか――
そんな考えがありありと伝わって来るような表情を浮かべていたのだった。
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