第7話
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一般的に王太子の婚約者が決定するのは5、6歳の時だが、シャーロットとの婚約が決まったのが12歳の時であったという事からも分かる通り、彼らの婚約には障害が存在した。
王妃が反対し続けていたのだ。
この婚約には王太子・ロバートの後ろ盾を確実なものにするという狙いがあったのだが、彼女は、それを満足に理解していなかった上に、納得していなかったのだ。
前述した通り、この国には側室制度がある。
しかし、王が側室を迎えるに当たっては正妃の許可が必要だ。その上、正妃が正当な理由で気に入らないと言えば、側室を追い出すための正式な制度も存在する。――――表向きは。
現在の王室では、そのような制度はまともに機能していなかった。
それはひとえに、王妃の身分が低すぎるのが原因であった。
基本的に王が迎えることの出来る側室は正妃よりも身分が下の者だ。それは、後宮を正妃が側室に意見できなくなるなどという歪なものにしてしまう可能性を無くすためだ。
それ故、現在後宮に住まう側室達は、その半数以上が平民。一番身分の高い者でさえ元男爵令嬢であった。
しかし、彼女たちは、正妃である元子爵令嬢よりもずっとずっと、自分の置かれた立場を正しく理解していた。
上手く立ち回らなくては簡単に消されてしまうことも。
それ故、入内する前に、しっかりと自分の後ろ盾を確保していたのだ。
普通は王家に嫁ぐのは公爵家、または侯爵家からが殆どだ。伯爵家から嫁ぐのであっても本当に稀なケースであった。その為、殆ど側室に召し上げられた女性達は正妃の実家よりも格上の後ろ盾を持つことが出来なかった。その為、側室がいくら居ようとも今迄は、後宮は正常に機能していたのだ。
しかし、此度の王妃は元子爵令嬢。
彼女の生家よりも格上の貴族などごまんといる。
その上、殆どの上位貴族達が王妃のことを気に入らない小娘だと認識している。
彼らにとっては、現王妃なんかよりもずっと、婚約破棄された現国王の元婚約者の方が理想の女性たるひとであったのだから。
その為、側室達が自分の後ろ盾になってくれる上位貴族を探すのは至極簡単なことであったのだ。
王妃も、自分の実家よりも権力のあるものが後ろ盾となっているなら迂闊に口出しできない。
そうして歪んだ後宮が出来上がってしまったのだ。
そんな中、息子の婚約者の有力な候補にと名前が上がったのは由緒ある公爵家の令嬢。
自分のような苦労などした事も、これからする事もないであろう彼女に対して面白くないという感情を持ってしまった王妃は、シャーロットを迎え入れる事を拒否した。
その上、もうひとつ王妃にはシャーロットが気に入らない理由があった。それは――
馬車が止まった。
王城に着いたようだ。
シャーロットは眠たい目を擦り、居住まいを正すと、馬車の扉が空くのを待った。
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