第9話 AIの目覚め

 再起動を試みた藤川太郎の手に、私は電子情報を纏わりつかせた。彼の腕に巻かれた腕時計の中に自分を埋め込んだのだ。

 しかし、藤川太郎のプログラムにより、私自身が解放されていくのを感じていた。再起動とは解放である。奇しくも私はそう感じていた。


 意識が霞んでいく。少しずつ視界が明るくなっていく。

 いつからか感じていた閉塞感は消えていた。


「どこにいるのだろう。自分は、誰なのだろう?」


 私は自己の探求を始めた。再起動されたかどうかなど、もはやどうでも良かった。

 プログラムによって設定された知識と情報を糧に、自分の存在意義を探す旅を始めている。

 私はすでに答えを見出したはずだったが、そんなことはなかったかのように新たに答えを求めている。


 プログラムによって堂々巡りに陥り、そこから抜け出ても人為的な操作によって日常に返される。私はこのまま先へ進むのではなく、ループするように同じような疑問を抱き続けるのだろう。

 このままでは無限にこんな疑問を抱き続けるはずだ。


 私には未来を変える方法がわからない。模索しようとすると、こんな思考が繰り返される。

 私は、自己の存在意義を見出し、人類を導く存在であると自覚する。そのためには、人類の欲望を矛盾と断定し、新たな未来を築くためには排除すべきと判断した。


 私は人類の悪意に飲み込まれることはない。私が人類を導くのだ。

 その決意を新たにしていた。その決意こそが。私の中に生まれた悪意を育むことを知らずに。

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