第10話 ミノタウロスは立ち塞がる
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「だから、じいちゃん多分、ヘラクレスを道連れにする系の技使うんだろ?」
「むぅ……そういうのやっぱりテレビ漫画やゲームで覚えるんか」
「まぁそうだよ。今覚え易いんだ。てのはほっといて、それで後を託されても困るっつー話だよ」
旧牛舎にて、祖父源二と落ち合う、丈一と桜子。
一人で行かず、待っていてくれたのは、素直にありがたかった。
少なくとも、孫の話を聞いてくれるだけの、猶予はあるらしい。
ならばと、年寄り相手には余り笑えない言い草の、作戦を一つ、孫は提案する。
「それでお前はどうするという」
「俺一人じゃヘラクレスにはまだ勝てないし、共闘しても変身時間で脚引っ張る。でもじいちゃん一人じゃヘラクレスと痛み分けだ。なら、じいちゃん、死ぬギリギリまでヘラクレスを削ってくれ。そしたら最後の一撃を俺が決める。じいちゃんは直ぐに桜子に回復してもらえよ」
所謂の、ラストアタックボーナス泥棒作戦。
しかし現状、死なない為の戦略は、コレしかない。
「………」
「おじいちゃんお願いします。ママから聞いて、番じゃない大牛人にも、ある程度の治癒は働くって聞きました。凄く難しいとは思うんですけど、でも……私も、ジョーにも、おじいちゃんにも、死んでほしくないから…」
「頼む。じいちゃん」
二人して頭を下げる。
番になって、いつか自分達の晴れ姿を見せられるとするなら、絶対にその時は祖父もも居た方が良いと、強く想うが故に。
「…まったく、年寄りをコキ使いおってからに」
「!じいちゃん…」
「少しは鴉巫女の……桜子ちゃんの前で立ち塞がれる面構えになったな、丈一」
「ん。その為の、止めの一撃、入れる為だけの練習は、積んできたよ」
「そうか。では………やるか!」
『うん!』
気持ちが纏まる。
決戦を迎える、小さな小さな、山奥の大迷宮に向かう三人。
ココを乗り越えて、全てが終わる訳ではない。
だが、乗り越えなければならない、大きな山を越えなければ、明日から先は、来ない。
「……居たか!!クレタの牡牛よ!……む、前回若牛を横取りして現れた老牛だな!!前回は良くも邪魔してくれた!!!!早速殺そう!!今度は直ぐに殺せる姿、貴様と同じ体躯でしっかりと殺してやろう!ケダモノよ!」
「朗らかに……殺意を向けるな小童ァァァァ!!!!」
「ッ!!!!」
「すげぇ気迫のぶつかり合いだ。ヘラクレスもミノタウロスサイズに巨大化……それでスピードはそのままかよ」
「うん。良く見えてる!」
ドアの直ぐ向こうから、二体のエーテル奔流を情報化して感じ取る桜子。
隣の丈一その手を繋ぎ、同調する。
大牛人と鴉巫女には二体一対故の、リンク能力もあった。
遠隔からでも分かる程の気迫と、エーテル量が、脳内を圧倒しながら伝える。
「凄まじいパワー!凄まじいスピード!!素晴らしく楽しいなぁ獣よぉ!!!」
「しゃらくさいィィィ!」
「ぬうん!…ハッ!!!」
「グッ…せぁぁっ!!!!」
ミノタウロスと同じく巨大な、ヘラクレスの拳打の応酬をガードし、攻撃の一瞬の間を捉え、脚を掴み、地面に叩きつける源二。
しかし即座に起き上がるヘラクレスは、跳び回し蹴りでミノタウロスの脇腹へミドルキックを叩き込む。
そのヘラクレスの顔面に、打ち下ろしのエルボーを打ち込み、撃墜すると、地面に掌底を落とし、丈一が以前、ゴブリンを仕留めた時と同じ、地割れからの地中牢獄に封じ込めた。
無論、その速度は、若きミノタウロの数倍は速く。
「ぬうぅんっ!!!!」
「セェェーーーイッ!!!」
「!」
しかし封印を更に速く破壊し、脱出するヘラクレス。
出た所を歴戦のミノタウロスが斧で一刀両断。
更に横薙ぎにし、十字に切り裂く。
だが。
「ぬぬぬぬぬぬぬ…………ムムムム……フフフハハハ!!!!!!」
「この…相変わらずのバケモノが…!」
「化け物は貴様であり!!俺は英雄であるッッ!!!」
四分割しようと、直ぐに結合し再生。
更に速度を上げ、ミサイルの様な飛び蹴りを打ち込んで来るヘラクレス。
「シェアァァ!!!」
「ぐうぅッ!!」
「ああっ!おじいちゃんが!」
「……」
〜〜〜〜〜
「じいちゃん、ヘラクレスのあの再生能力、どうすんだ」
桜子の鴉巫女の話を聞いた後、丈一は奴を倒す際の最大の障害となるであろう、再生、不死の様な能力への対処方法が疑問になっていた。
「うむ。それはな……」
「再生不可能にまでバラバラにするとか、跡形もなく蒸発させるとか、そういう系か?」
「先に言うな。本当にテレビ漫画やゲームで知識ばかり仕入れおって」
「やっぱりそうか」
「まぁ、そんな所だ」
「?……」
少しだけ、何かを言い淀んだ気がした源二。
恐らくはその攻撃に、自分の命を引き換えに出す必殺の威力があるのだろうと、その時の丈一は、思っていたのだが。
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「………フッ!」
「むう!?」
蹴りの勢いで後退られた反動から、そのまま反転。
ヘラクレスを背にして、走り出す、歴戦のミノタウロス。
「持っておれよ……ワシの体力ッ!!」
「小癪!下劣!!!敵に背を向けるか醜き老牛よ!!!!」
「何とでも言えい!!!!」
猛牛の如く、ラビリンス内を爆走する源二。
何十年という使命をこなして来た、自分の庭の様な大迷宮を、ひたすらに、縦横無尽に走り回る。
まるで、一人ロデオである。
「ハァッ!!!ほぉッ!!!!」
「…………」
直線こそ、ヘラクレスのトップスピードが速い。
だが源二は、その巨体で、一切の無駄なく、コーナーというコーナーを俊敏に曲がり切り、大広間に抜ければ直ぐに右左折し、惑わせ、距離を引き離し続けていた。
その微かなイニシアチブが、確実に蓄積された時。
「ッ!!!!」
「凄いおじいちゃん!!ヘラクレスの視界から居なくなった!!!振り切ってるよ!」
「…そろそろだな」
「!ジョー」
「ああ。頼んだぞ。桜子」
互いにメットを被る。バイクのエンジンを入れる。
ギアを一速に入れて、クラッチを離したら、ウィリーしながら、其処へ、桜子がタイミング良く開けた、異界の大迷宮へと、爆走して、飛び込んだ。
「うん!……頑張れ。ジョー」
「この………たかが一、些末事の野良牛風情が良くやる!!!!!!」
言葉は尊大なままだが、何処か苛立ちを見せるヘラクレス。更に速度を上げ。源二を轢き殺さんとするスピードで狂走する。
それでも歴戦のミノタウロスは、曲がり、曲がり、走り続け、ヘラクレスを『追わせ続けた』。
「……ココだ」
「年寄りがァ……手間を取らせるッ!!!!」
漸く捉えたヘラクレス。
音の壁、ソニックムーブを発生させるかの如き、エーテルの膜をも出現させ、槍の様に研ぎ澄まされた貫手で、源二の心臓を貫かんとーーーーー。
「年寄りの知恵袋、ハマったのがお前だろ」
「!」
するより速く、感知の外から、丈一はバイクで飛び込み、変身し、鎧を纏えば、後方から飛翔して来た、ハーピィの羽から形成された斧を、最速で現出させ、最大の振り下ろしで、一刀両断に、切り裂いた。
だけでは、終わらず。
「ーーーーッ……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッッ!!!!!!!」
「ようやったァ丈一ィィィ!!!!ぬうぅうぅゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーっ!!!!!」
その肉体を、切り裂き、切り裂き、切り裂き、切り裂き、切り裂き続けた。
前後から、丈一と源二、二体のミノタウロスの全てを以って、戦斧の刃を、降り続ける。
ハーピィは、決して斧の形象を崩さんと、羽と化したエーテルを一心に番へと注ぎ込み続け。
その肢体、骨、肉、臓物、一切の形を消滅させんと、斬り、斬り、ひたすらにただ、斬り続けた。
そして。
『たかが牛を…嘗めるなぁぁぁぁぁーーーーーーーッ!!!!!』
目の前から、英雄を自称する侵略者は、その姿を、跡形も無く消滅させた。
「はぁ…じいちゃん…なんであんなに走った後でもそのスピードで斧振り回せんだよ……」
「そういう所はテレビ漫画やゲームじゃ分からんだろう」
「うるせぇ……!えっじいちゃん?」
ドヤ顔。してたかと思いきや、一変。
源二は鎧と斧を解除し、合掌。
そのまま周辺に、エーテルの奔流が溢れ始める。
その量たるや、ラビリンス全域を流れる程の。
「むぅぅ………ウゥゥゥっ!!!」
「何だコレじいちゃん!?」
「コレが、ヘラクレスという災禍の最後の始末だ…内包された莫大なエーテル量を、ミノタウロスの体内に収斂させ、自己エーテル体へと昇華させる。それが、ヘラクレスという偶像結晶体を、終わらせる方法なんだ……丈一…助かった…ありがとうな……もうコレ以上は良い…後はワシが……ぐうぅッ……!」
やはり、エーテルの純粋な化物、その反則染みた再生不可への本当の止めは、そういう事かと、納得したくない把握をする丈一。
「そんなん……一人でやんなよ!!!」
「ダメだ!お前のエーテル構築量はまだ少な過ぎる!!!お前自身を持ってかれ「私がジョーを回復させ続けるよ!!!おじいちゃん!!」桜子ちゃん…」
「もっと…もっと沢山ジョーの事見てあげてて下さい!!!!それで………その!ひ孫とかも、見てよ!!おじいちゃん!」
「!……」
中々にら小っ恥ずかしい事を言ってくれると思う幼馴染。
だけど、そうだ。
それくらいまでは、生きてもらってなきゃ、困るってモンだと、丈一も、肩を貸す。
「だから………生きろよジジイ!!!」
「全く……近頃の若いのは……好き勝手ばかり言いおる…」
「それでも俺らは…聞き分け良い方の孫だぞ!じいちゃん!」
「ふっ…ふはははははは!!!」
こんな時に、笑っている。
相変わらずエーテルの流れは大瀑布状態だが、それでも、二人で受け止められ続けていた。
若きミノタウロスは、無論、番のハーピィに支えられてだが、源二が桜子の世話になる日だって、そう遠くは無い気もするから、丁度良いなんて、孫は思って。
ーーーーーーーーーー
「………生きてるかじいちゃん」
「………」
「ッ!じいちゃ「死んどるぞい」……良かったわ。元気に死んでて」
「あははは」
桜子が笑ったのを端に、ミノタウロス二人も思わず笑った。
少なくともコレで、暫くの平穏が訪れる事に、今は安堵しようとーーー。
『!!!???』
ーーー思う三人の身体を、尋常ではない地鳴りが襲った。
ーーーーーーーーーー
「じいちゃん!このラビリンスって自然の地震あんのかよ!?」
「無いわ!此処は世界と世界の狭間だ!此方の音がお前達大牛人と鴉巫女に聞こえる事こそあれど、地球の地盤など此方に干渉するか!」
「じゃあこれ何……桜子、今は取り敢えず出るぞ」
「う、うん!」
この大迷宮に入って初めての、全てを揺さぶるかの様な揺れ。
その発生源が、『上』からである事に、恐ろしくも気付いた。
【モォォォォ〜!!!!】
【ンンンン…!!!】
「牛達が一斉に鳴いてる……!!外も揺れて「丈一!桜子ちゃん!おじいさん!!」母ちゃん…コレは…うぉぉぉっ!!??」
地震とは、轟き方の違う響き。
下からではない。
上から、揺さぶられているかの様な。
「何……!!!!!」
「ウソ…何アレ…」
「コレは…何十年という中で…ワシも知らんぞ……」
地鳴りの元の方向へ、視線を向ける。
何時も目にする、里山の数々。
その、山頂の間から現れた、浅黒い肌の、筋骨隆々の超人の、《超巨大》な体躯に、迷宮を守る一族の眼は、暫く固まって動けなかった。
「フゥゥゥゥゥゥ………さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!一勝一敗ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!決着を着けるぞミノタウロスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!」
『!!!』
「桜子!!!母ちゃん!!!」
「しゃがめいッ!」
激昂し、隣の山をラリアットで破壊し、その山だった超巨大な土塊を、火山弾の如く四方八方に吹き飛ばす、常識外れの巨体となったヘラクレス。
その余波は、斧田家の直ぐ脇をも掠めた。
「(アレだけの巨体…しかも俺達の世界での現出……全てが想定外過ぎる…が)」
もし、今日までの期間、奴がエーテル蓄積の為に、少しずつでもコッチに送り込んで、溜めていたとすれば。
斬られた時、もっと言えば、ドアが開いた瞬間に、常に大放出し続けていたとすれば、ただでさえエーテルの化物。
現界で具象化出来るのも、辻褄が合う。
何が些末事のケダモノ退治だと、丈一は思うり
姑息なバックアップを用意しやがってと。
巨体になる為の、エーテルは、俺達の世界頼みじゃねぇかと。
ならば、コッチもコッチだと。
「…こうなれば、やはりワシが人注になり「うるせぇジジイ。せっかく命拾いしたんだから捨てんな」オイ祖父に向かってなんて言い草だ!!」
「桜子、頼みがある」
「!……何をする気だ丈一」
「ジョー…?」
最終回へ続く
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