第7話 失われし都
松明の明かり、銃声、悲鳴、喚き、土の匂い、擦り傷、罵声、草の汁、小川の匂い……、悲鳴。
咲が覚えているのは光景と音声のみ。気が付けば夜も更けていて、惨劇は意味をなくしていた。生また時代が咲から感情を鈍らせたのか、国がそうさせたのか三郎にもわからなかった。咲は、血しぶきにも遺体にも驚きはしたものの泣くことはなかった。
三人は辛くも戦場から脱し、森の中を歩いていた。
所持していた弾薬は残りわずかとなり、貴重なものになっていた。
「何がいいこと思いついただ。あいつらにまぎれて突っ切るだけじゃないか」
「なんとかなったろ?」
森の木々の向こうがうっすらと群青色になっていくようで、一睡もしていない咲はぼんやりとそれを眺めている。
「弾は? まだあるんだろうな? あの調子でドンパチやられるとすぐに切れちまう」
「そん時はそん時でなんか使えばいいだろ。お得意の刀も持ってきているみたいだしな」イイザキは力強い足取りで前へと進む。
「しかし、まさか軍も絡んできたとは……。戦争終わったはずなのに」
「もしかしたらあるって噂の金塊を軍資金にして国家転覆を狙ってるのかもな」
「「え!?」」三郎が驚嘆する声に目が覚めた咲も同時に驚嘆する。
「もしかしたらの話だ。気にするな」
「また戦争になるの?」
「……噂話でしか聞かない金塊を求めてこんなところまで来ているくらいだ。もう後がないんだろう」
「勘弁してくれよ。せっかく日長酒でも飲みながら昼寝ができる毎日が来ると持ってたのに」
「徴兵されそうになったらまた醤油でも飲めばいい」
「……咲。またこいつに変なこと仕込んだのか?」
三人が会話をしている間にも時間は過ぎる。東の空の明星は、いつの間にか群青色の空に消えてなくなり太陽が目を覚ます。夜の闇に飲まれていた世界はまた、黄金に輝く時に戻るのだ。
「ねぇ、あれ……」
咲が指さす木々の間からは太陽が姿を見せていた。そして、その眩い光の先に岩石でできたであろう建造物と朽ちかけの鳥居も見受けられる。
「間違いない。ここだ……」イイザキはあまりに神秘的な光景に息をのんだ。
「確かにすごい絶景というか、秘境だけどほんとに金塊があるのか?」
「それを確かめに来たんでしょ?」
三人は一度止めてしまった歩みをまた進める。この先にあるかもしれない可能性を求めて。
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