第5話 呪いの都
現代とは違い、探せば武器は出てくるものだ。
密かに軍部から流れてきたものや、果てには先祖代々伝わる刀剣に至るまでが三郎の準備してきた荷馬車の中にごちゃごちゃとある。
もしものことがあるかもしれないという三郎の発言から二人はなぜか荷馬車で武器の手入れをしながら待機をしていた。
揺れる荷馬車の乗り心地は正直なところ心地いいとまではいかないが、幌の中から覗く西日や茂みから覗く川の流れにイイザキは心が現れるような感覚になっていた。
「日本刀なんて初めて見た」
「そう? まぁ私はネタ収集のために祖父の代の親戚からいらないものをいろいろともらっていたからもう見慣れちゃった」
うっすらと埃のかぶった鞘から抜き出した刀身はイイザキの白い肌を映す。
「できるだけ早めに手入れを頼む。俺もうわさでしか聞いたことないから何とも言えないが、ここら辺は昔から災いがあると聞く。お前らが見かけたって件ももしかしたら何か関係があるのかもしれない」
「あら、兄さんの割にはそういう物の怪の話信じるのね。いつもなら作り話だのくだらないだのって私の話を聞こうともしないくせに」
「それはお前の作り話だからだろ?」
荷馬車が土から覗く大きな石に乗り上げて、一瞬三人は宙に尻を浮かせてそのまま地面にたたきつけられるように臀部を強打する。
地味な痛みに悶絶する三人。
「……で、その噂ってのはなんなんだ?」
「ん? あぁ、昔々この辺を収める将軍がいてだな。その将軍が死ぬ前に呪いをかけて死んだらしいんだ」
「呪いか」イイザキは笑いだす。
「ちょっと。あなたも見たでしょ? 人が目の前で金の塊に変わったのよ?」
「あんなもの月明かりの変化かなにかだろ。三郎が眉間に皺寄せてその平泉とかいう地方の遺跡の話をしだすから何事かと思いきや、まさかそんななんの根拠もない噂話とはな」
「噂って……一応文献にだって載ってるんだから」
「ほぅ……、なら本当なのかもなぁ。でもなんであの少佐まで追っかけてくるんだ?」
「日本国は戦争に負けた。だが、ここからである。米国に一矢報いるためにも次なる手を打たねばならぬ。そのためにも金だ。だとさ」三郎が馬に鞭を入れながら呆れた口調で言う。
「私はもうあんな思いはしたくないから、仮に見つけたとしてもあの少佐にだけは渡さない」
「俺はあれで酒でも買う。そいで次は女かな」
「俺は、アメリカに持ち帰って家を建てる」
「せっかくここまで来たんだから日本にすんじゃえばいいのに」
「得するのは咲だけだろ? お、見えてきたぞ」
二人が幌から顔をのぞかせて、三郎が指さすほうに視線を移すとそこには例の川が流れていた。
咲とイイザキが人が黄金に変わるところを見たという件の川である。周囲にはやはり人影はなく、時折鳶のがはるか上空で円を描くばかりである。
「昔は砂金がよく取れた。らしい。この先に金山があって、そこから流れてくるって話だ。ま、今じゃこのありさまだけどな。ここからは歩くぞ」
馬に合図を出して減速した荷馬車は獣道の前で止まった。
「馬はどうするんだ?」
「そんなもんその辺の木にでもしばりつけておけ。何日も帰ってこないわけじゃない」
三郎はそういうと自分の荷物を下ろし始める。中には酒と少しばかりの食料と先に天へと旅立った父から預かっていた拳銃が。
「荷物はそれだけか?」
「あとは君が持ってくればいいだろ? 俺はこう見えて頭で生き残るタイプなんだから」
あれほど不安をあおるような発言をしながら、当然のように荷物はもたない三郎にイイザキは開いた口がふさがらない。
「ほら、ぼさっとしないで! 早くしないと日が暮れちゃう」
咲に手渡された旧式のライフル銃と国産銃。あまりなじみはないが、軍の上官から見せられた時は物珍しさから一発撃ってみたい衝動にかられたものだ。
「はいはいわかったよ。いそぎゃいいんだろ……? ったく」
文句を言いながら隣で両腕にお染まり切れないほどに重火器を下ろしていく。
──三人は何事もなく進んでしまう状況に気を許していた
何とかなるでしょ。誰もがそう心の中で会話をしていた瞬間だった。
音を立てて飛んできた無数の矢がイイザキめがけて飛んできた。
「立ち去れ! ここから先は我ら墓守の一族の神聖な場所、貴様らには何も関係のないこと」
聞きなれない声が森を突き抜けてきた。
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