7-5

「……そんな具合に、俺たちは急速に仲良くなっていった」

 馴れ初めの部分を話し、君尋は少し一時休止した。

「仲良くしてくれてて、ありがとうございます」

「いや、あいつがいいやつだったからな」

「いい兄貴でした」

「……でも、生き方が下手というか……」

 言いにくい様子の君尋に、和洋はうなずく。

「なんとなくわかります」

「真面目だし、一生懸命だし、いいやつだったけど––––それがかえってよくないんだろうな、と思ったよ」君尋は水を飲んだ。「あいつは基本的に“話せばわかる”と思うタイプだった」

「わかります。すごくわかります」和洋は大きくうなずいた。「ちっちゃい頃から、まず話をしよう、という感じで……冷静で理知的で、とは思ってたんですけど、それよりちょっと落ち着かなきゃいけないんじゃないか、というか……」

「そうだね。あいつは“休む”のが下手だったね」

「わかります」

「修平に関して仕事のアドバイスをいろいろしていた。こう考えればいいんじゃないかとか、相手はこう思っているかもしれないよ、とかね。でも、そういうことを考えるのは一旦休んでからにすべきなんだよね。心が疲れてるわけだから、まず脳を休ませなきゃ。アドバイスするのはそのあとだ」

 そこで君尋はちょっと苦笑した。

「光もそういうところがある。アドバイスをしてくれー、ってね。一番しなきゃいけないことは心身を休ませることなんだけど、言っても考えちゃう。悩んじゃうんだよな」

「津山さんのアドバイスが上手だからじゃないですか」

「そうだとしたらそれがかえってよくないのかもしれない。ちなみに修平に関して言うと、しばらくして全治二週間の骨折をして、会社を休んだんだよ。そしたらすっきりしたみたいだ」

「脳を休ませたから」

「うん、そうだね。結局、アドバイスが効果を発揮するのは、本人が落ち着いてからだ。光もだけど、修平は慌てちゃうところがあるから––––嫌なことに対する対処はできてても、慌ててることに対しての対処ができてないから引きずっちゃうんだよね」

「……それは、兄貴も、ですよね」

 うん、と、君尋はうなずく。

「隆道は、差別とか人権とか、そういうことにすごく関心があってね。自分たちはより良い社会を作っていかなければならない、って。当時の俺はそういう活動というか、思想に興味がなくて––––というより、ゲイとして生まれついちゃったんだから世の中の面倒なことは諦めろ、って思ってたんだよね。だから隆道に割と突っかかってた」思い出し笑いをする。「好きな子をついいじめちゃう男子理論もある」

「一目惚れ、と」

「うん。生まれて初めての一目惚れだった。だから––––あいつと付き合いたかったんだけど。でも結局、気持ちは伝えられなかった。あいつに彼氏ができたから」

 和洋は目を丸くさせた。

「彼氏ですか」

「そ。アメリカ人のね」

 さらにびっくりする。

「そうだったんだ」

「で––––結論から言うと、あいつはアメリカに行っちゃったんだよね」

「え?」

 いきなり話が結論に展開したので、和洋はちょっとついていけなかった。

「アメリカ。サンフランシスコ。なかなかゲイに対して寛容––––と、隆道とその彼氏は言ってたけど、俺はアメリカにもサンフランシスコにも行ったことがないから本当のところはわからない。っていうか知らない。だから、あいつがいまどうしてるかはわからないし、そもそもアメリカにそのまま住んでるかどうかもわからない」

「……」

「連絡先を切られたのは––––要するに、もう全部かなぐり捨てたくなったんだろうな……」

 少しため息をついた。微かだが、あまりにも重苦しいため息だった。

 和洋は訊く。

「でも、津山さんとも、その修平さんとも、トラブルはなかったんでしょう?」

「そうだね。だから要するに、俺たちじゃやつの救いにならなかったってこと」

「そんな」

「……だんだんLGBTの政治的活動について細かく勉強するようになったんだ。といっても政治活動をしてたわけじゃない。ただ––––二丁目の他の仲間と、やたらと議論をするようになった。でも、うまくいかなかった」

「……ゲイ同士でわかりあえなかった、ということですか?」

 理解が早くて助かる、と言わんばかりに君尋は、うん、と言った。

「他の仲間は“意識が高い”とだんだん避けていったよ、隆道を。面倒な話をするなあとは俺自身も思っていたことだけど、それでも俺や修平はいつもの三人組でいられてた。それでも、やっぱダメだったみたいだ。結果的に携帯が繋がらなくなったわけだからね」

「でも」と、和洋は前のめりになる。「同性愛者なら同性愛者の置かれている社会の矛盾とかに、日々接してるんじゃないですか。それでわかりあえないっていうのがちょっとよくわからなくて」

 君尋は、和洋を、まだまだ子どもだなあ、と思ってにっこり笑った。

「世の中にはいろんな人がいるからね。ただそれだけのこと」

「それはそうなんですが」

「どんな属性の人間でもそうだけど、それと同じように同性愛者も一枚岩じゃないってことさ。みんながみんな同じことを考えているわけじゃない。––––ということが、結局、隆道には耐えられなかったんだな。“話せばわかる”と思ってたから」

「……なにかあったんですか?」

「本人にとっては、仲間とわかりあえない、ということが絶望そのものだったんだろう」

 そして君尋は話を続ける––––。

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