第16話相談

「それで、相談というのは?」


 雑用を終え、呂望リョボウの部屋に姿を現したと同時にそう訊ねた姫旦キタンは、近くにあった木製の椅子を見つけるや否や、急いで腰を降ろす。


 自分に相談してくれたことが余程嬉しかったようで、先程の厳しい表情が和らいでいると、呂望リョボウは肌でひしひしと感じていた。


「おぬし、随分と乗り気ではないか」

「珍しく、私に相談を持ちかけてくれたので」


 姫旦キタンはニッコリ笑ってそう答える。


 その姿を、呂望リョボウはいつの間にか父である姫昌キショウと重ね合わせていた。


 目尻にほんのり優しさを滲ませた姫旦キタン

「お話を聞かせて頂けませんか?」

と、思い出に浸り続ける呂望リョボウを諭すかのように、改めて訊ねる。


「うむ、相談というのはな……」


 呂望リョボウはそう言って、ゆっくりと喋り出した。


 彼は前々から感じていた悩みを交えながら、たった今部屋で見た出来事を話して聞かせる。


 そうしていくうちに、彼の頭の中でやりたいことが徐々に纏まり始めたようで……


「それでな、わしは影武者が欲しい」

「影武者ですか……

しかし、その少年に努められるか疑問に思いますが」


“まだ子供ですし”と、困惑して姫旦キタンはそんな言葉を、一旦口を閉じた呂望リョボウに投げかける。


 しかし、心の裏では彼が影武者を欲しがる気持ちを重々承知していた。


 そうとは知らず、呂望リョボウは真剣な眼差しを彼に向けたまま話を続ける。


「大人とか子供という前に、あの少年と話してみたいと思って……

聞けば、あの少年はわしと同じ羌族キョウゾクの出身らしい」

「そうでしたか」

「うむ、それで何処か懐かしくて、つい対面できたらと思ってしまったのだ」

「なるほど、同郷と分かればお話の一つや二つしたくなります」


 姫旦キタンは細い目をますます細めて、呂望リョボウの意見に同意した。


「だから、まずはその少年に直接会って話をと思うたが、逃げられるのが落ちだ」

「それを避ける為に、我々の力をお借りしたいというわけですね」

「さよう、察しが良いではないか」


 呂望リョボウ姫旦キタンの頭の回転の良さに感心し、ニコリと笑う。


「では、どうやって父上を説得して、この極秘企画に巻き込むのです?」

「それはな……」


 呂望リョボウは方笑みを浮かべ、姫旦キタンにそっと耳打ちをした。


「成程、それは面白い!」

「そうであろう?」

「体調が悪い日が続いて、なかなか外へ出られない父上も、それなら気晴らしにと動いてくれるかもしれません」


 呂望リョボウが提案した策に、姫旦キタンは満面の笑みで

「それでは早速決行する日時等を調整しましょう!」

と、快く引き受ける。


「忙しいところ悪いが、宜しく頼む」


 椅子から立ち上がり、呂望リョボウはそう言って頭を深々と下げた。


 姫旦キタンが部屋を出た後彼は、今後の展開が楽しみと言わんばかりに、クスクスと笑う。


 外ではその策を後押しするかのように、緑色に帯びた柔らかい風が吹き始めた。








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