第14話瓜二つ

 呂望リョボウの部屋がある西岐サイキ城から暫く歩くと、一面緑の畑が見えてくる。


 その畑には、西岐サイキ城内に暮らす人々達が、生きる為に必要な最低限の作物を育てていた。


 その中で、出来のいい作物モノは、城主やその子供達といった、“王族”と呼ばれる人達に献上される。


 通常は位が高い者達が裕福な暮らしを送るのだが、ここ西岐サイキでは少し様子が違っていた。


 城主である姫昌キショウは、自分が裕福であるよりも、民の幸せを願い、共に歩むという強い信念を持つ人物であったのである。


 それ故、他国から貧困等の苦しみから逃れてくる人々達を、分け隔てなく受け入れていた。


 城内に蓄えられていた食料も、彼らに分け与えてしまう為食事は決まって質素なものだったりする。


 それでも誰一人愚痴も文句も言わないのは、助けた者同士が力を合わせ、この新しい土地で笑って生きている姿を見られることに幸せを感じているからだった。


 その話を2年前―来たばかりの頃というべきか―に聞いた呂望リョボウは、予てより彼が師匠と呼ぶ雲水真人や、農業の神である神農から教わった技術を駆使して、民達にそのやり方を少しずつ伝授していく。


 その姿が、今目の前に広がる豊かな畑であった。


 その畑を管理する民達の中に、呂望リョボウと瓜二つの少年がいるという噂が真しやかに流れる。


 呂望リョボウもその噂を人伝ヒトヅテ に聞き、真相を確かめるべく、今こうして内緒で畑に出向いていた。


 彼は広い畑を一望出来る、小高い丘へ登ると、その少年が何処で何をしているかを観察し始める。


 少年は、彼よりも小さい子供達に囲まれながら楽しそうに笑い、鮮やかな緑色をした細い茎を引っ張っていた。


 どうやら春野菜の収穫をしているようである。


 呂望リョボウはその光景を見て、改めて季節が冬から春へ変わったことを実感した。


 その途端、彼は自分が季節を感じられなくなっていることに気付く。


“ふぅっ”と息を吐き、呂望リョボウは自分が余程疲れているのだなと呟き、再び彼等の様子を観察し始めた。


 少年達は彼に見られているとも知らず、歌を歌ったりしながら、収穫を続けている。


 栄養豊かな土壌とは言えないまでも、ここまで大きく成長してくれた作物に対して、喜び、感謝している姿が、とても印象的だ。


「わしは……今までにあんな風に笑ったことがあったかのう……」


 いつしか呂望リョボウは自分にそう問いかけていた。


 そして、少年が側にいることにより、自分が自分らしく生きられるのかと再び自問する。


 答えはすぐに出てこなかった。


 それはそうだろう。


 まだ何一つ動いていないのだから、答えなど出る訳がない。


「まずは、どうやってあの者を城に連れてくるかだ……」


 呂望リョボウは再び呟いて、考えに考えた。


 そして思いついたのは、城の主-特に姫昌キショウ達-を巻き込む作戦だった。

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