第47話 電話の相手
「ほら、もう泣き止んだらどうだ? 可愛いから別にいいけど、ここは外だし」
「………はい」
俺の胸に顔を押し当てて泣く柚梪の背中をさすって落ち着かせる。怖い思いをして辛かったのはよく分かるが、もう立派な大人なのだから外で泣くのは出来るだけ控えて欲しいものだ。
今からの時間帯は近所に住む人達がお出掛けをしたりする為、もう少しすれば人が集まりだすだろう。
「落ち着いたか?」
軽く握った拳で涙を拭う柚梪にそう問いかける。すると、これ以上俺や彩音にみっともない姿を見せる訳にはいかないと感じたのか、ほんのりと微笑みながら「はい」と答える。
「すみません………だいぶ時間を取ってしまって」
「まぁ、もう少ししたら人が出始めるから、ちょっと焦っていたのは事実だな」
「うぅ………ごめんなさい」
ショボンとする柚梪の右手を握って軽く引っ張りながら俺が立ち上がると、つられて柚梪も立ち上がる。
地べたに座り込んで泣いていたせいで、綺麗なスカートが砂まみれだった。その砂を俺は可能な限り叩き落とす。
「あ、ありがとうございます。あの、ふと思ったのですが………彩音ちゃんだけ公園に来るんじゃなかったんですか?」
「………ん? あぁ」
柚梪は彩音が後から来る事を事前に知っていたが、なぜここに俺が来ているのか気になっているようだった。
「彩音が突然、柚梪が大変な事態に巻き込まれてると言ってきたんだ。妻が大変な事態に巻き込まれてるなら、夫である俺が駆けつけるのは当然だろう?」
「えっと………そうなのかもしれませんが、どうして私が姉様に絡まれている事を彩音ちゃんが知っているのでしょうか?」
「それについては私が説明しよう!」
俺と柚梪の会話を聞いていた彩音がそう言うと、公園の2つある出入口の片方に視線を向けた。俺と柚梪はつられて彩音が見ている出入口へと視線を向ける。
「ほら、あそこ」
彩音が指を指す。その先に居たのは、1人の可憐な女性。
「もう終わりですか? もう少しだけ、微笑ましい光景を見ていたかったのですが」
1歩、また1歩と歩み寄ってくる女性。
ピンク色の鮮やかな髪のショートポニーテール。口には何かの花びらを咥え、左手でキャリーバッグを引っ張っている。
俺と柚梪の目の前で足を止めると、女性は咥えた花びらを右手で摘まんで口から離す。そしてほのかに微笑んだ。
「お久しぶりです。そして初めまして。
「………さ、さくら?」
その名前を聞いた俺は、彼女の顔をじっと見つめる。そして、脳内にある記憶が蘇った………。
『たつや君………私の事、忘れないでね?』
『もちろんさ! 絶対に忘れない!』
それは、俺がまだ小学3年生の頃の記憶だ。彼女と同じくピンク色の髪をした女の子とした最後の会話。
「さくら………帰って来れたのか! さくら!!」
俺は気がつけば、彼女にギュッとバグをしていたのだ。そして、突然知らない女性に抱きつく俺の姿を見た柚梪は、とっさに嫉妬しぷっくりと頬を膨らませる。
「龍夜さん………? 一体その人は誰なんですかぁ~???」
「あっ!? すまんすまん。紹介する」
柚梪が怒っている事に気がついた俺は、彼女から離れて柚梪と対面させる。
「この人はな、俺の幼馴染みだ」
「お、幼馴染み!?」
そう、彼女………葉衣さくらは俺が小学3年生の頃、さくらの親が仕事の都合でかなり遠く離れた場所に引っ越してったのだ。
それ以来、さくらの方も色々と大変だったみたいで、一度も会話してないのだ。
もう戻って来る事はない。そう思っていた。
「柚梪さんで間違っていませんか?」
「はい、間違ってないです………」
「良かったです。とても綺麗で素敵ですね。さすが、龍夜君の奧さんですね」
「ど、どうも………」
急な褒め言葉に、柚梪はポッと顔を赤くして照れくさそうにする。
「柚梪は俺の自慢の嫁だ」
「ふふっ、とっても仲が良さそうてすね」
「だが、なぜ柚梪だと分かったんだ?」
「実は、彩音ちゃんとは時々メッセージでやり取りをしてたんです。柚梪さんについては、龍夜君が結婚をされる時に『ねずみ色の髪をした綺麗な人』だと聞いてましたので、ここを通りがかった時にすぐ分かりました」
「それで、すぐに私へ電話をかけてきたって訳♪」
なるほど。だから彩音が慌てた表情で俺の所まで来たって事か。だが、なぜ俺とはやり取りがなかったのに、彩音とは時々やり取りしてたのだろうか?
まぁ、そこは考えなくてもいいだろう。さくらのおかげでこうして柚梪がケガを負う前に助ける事ができたのが事実。
ならば、言う事は1つしかない。
「ありがとう、さくら。おかげで、大切な人を傷つけられずに助ける事が出来た」
「あ、ありがとうございました」
俺がさくらに向かって感謝を伝えると、隣に居る柚梪も合わせて感謝の気持ちを伝えた。
そして、さくらはニコッと微笑み「どういたしまして」と返してくれた。
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