第45話 思わぬ再会
雪と一緒に近くの公園へ来ていた柚梪だが、突然謎の女性と再開してしまう。
同じねずみ色の髪に、いかにも高そうな服やアクセサリーを身に纏った女性こそ、間宮寺家に産まれた長女の
「なぜ、姉様がここに居るんですか………?」
「それはこっちのセリフね。あんたこそ、どーしてこんな貧相な住宅地の公園に居るのかしら? 真矢?」
夏奈は柚梪に対して凍てつくような冷徹の眼差しを向ける。その圧によって、柚梪は握り締めた右手で胸を軽く抑える。
「わ、私は………真矢と言う名前ではありません………今の私には、柚梪と言う立派な名前が………」
「あーはいはい。そんなくだらん質問はしてませんよー」
柚梪は勇気を振り絞って夏奈に反論をするも、呆気なく流されてしまう。そして、ゆっくりと柚梪の元へ歩み寄る。
「私はね、なぜあんたがここに居るのかって聞いて………」
すると、夏奈の足が突然ピタリと止まる。そして、夏奈の視界には柚梪の背中からヒョコっと姿を現す雪が映ったのだ。
それを見た夏奈から、突然表情が消える。
「真矢………? その後ろに居る子供、髪色が同じように見えるんだけど、気のせいかしら?」
「………!!」
声のトーンを1つ落とした夏奈の言葉からは、絶大な重みと怒りを周囲に漂わせる。
そして柚梪は、ヘイトが雪に行った事に母親としての本能なのか、無意識に立ち上がり雪の前へと出て大切な娘を守る姿勢を取っていたのだ。
そして再び夏奈が柚梪に冷徹な眼差しを向ける。
「答えなさいよ? 今、あんたの後ろに居る子供は、どこの誰の子供なの?」
肌で感じ取れるほど、夏奈はなぜか怒っている事が分かる。そして、間宮寺家での嫌な記憶が徐々に蘇り、柚梪をさらに追い込む。
それでも柚梪は、娘を守る為に恐怖を押し殺し夏奈に向かって口を開く。
「わ、私の娘ですが………それがどうかしましたか………?」
「……………あっそ」
それを聞いた夏奈は、さらに空気が歪むような雰囲気を放つ。
「なんであんたに子供が居るわけ?なんで私より先に結婚してるわけ?なんであんたの方がスタイル良くなってるわけ?なんであんたが幸せそうに暮らしてるわけ?なんであんたが家庭を持ってるわけ?なんであんたが愛されてるわけ?私の方が優秀で美しくてお金があるのに意味分からない意味分からない意味分からない」
ぶつぶつぶつぶつと呪文のように柚梪を恨み始める夏奈に、柚梪はさらに恐怖で胸が一杯になる。
さらには柚梪の長いスカートの先端をギュット握り締めながら、夏奈をじっと見る雪が怖さのあまり涙を溢し始めてしまった。
「うっ、うぅ~………」
怖くなってしまった雪は、柚梪の後ろへと隠れて足にしがみつきながら泣き始める。
「雪っ………大丈夫。お母さんが守るから………」
すぐに柚梪はしゃがみ込み、雪を優しく抱きしめ頭を撫でる。今この場には彩音も俺も居ない。朝早いせいで他の住民すら居ない。
そう、雪を守れるのは柚梪しか居なかった。
(すぐ帰るつもりだったから、カバンを家に置いて来てしまいました………)
スマホがない以上、彩音や俺に助けを求める事が出来ない。雪を抱っこしてダッシュで逃げたとしても、後々何をしてくるか分からない為、むやみに動けない。
「ふざけんじゃないわよ! あんたごときが私より幸せそうに暮らしてるなんてあり得ないわ!」
そして夏奈が再び口を開きま始め、柚梪は雪の慰めを一旦中止し立ち上がり、雪に背中を向ける。
夏奈はたしかに勉強も運動も出来る優秀な女性だが、間宮寺家が保管していた財産を手にして以来、金と言う物に溺れてしまった。
使っても無くならないほどの大金を持つ夏奈は、高級なブランド品をたくさん購入し、宝石付きのアクセサリーもコレクション。自分専用のマンションを建てたりもしている。
それでも余りに余っているお金で、さらに自分を綺麗に見せるべく整形や豊胸手術などを何回か行っては、ホストに貢いでいる生活をしているようだ。
そして整形のし過ぎなせいか、夏奈の顔は少し歪んで見えるようになり、結局どの男からも相手されずにいる。
それに比べて柚梪は、俺がしっかりと愛情を注ぎながら面倒を見てきたおかげか、スタイル抜群のアイドル級な超絶美女へと育った。
「こんなの、不平等だわ………! あんたが子育てしてるなんて………ふざけてる!」
そして夏奈は、なんと柚梪の足にしがみついて泣いている雪目掛けてどしどしと進み始めたのだ。柚梪から雪を引き離そうと、夏奈は右手を雪の服目掛けて伸ばす。
柚梪は迫り来る夏奈が狙っているのは雪だと少し遅れて理解する。このままでは、雪に怖い思いだけじゃなく何をされるか分からない。
怒りMAX状態の夏奈は、怒りに身を任せて動いているだろう。後先の事を何も考えずに。
自分が動かなければ………自分が娘を守ってあげなくては………お腹を痛めながらも頑張って産んだ初めての子供に何かされてしまうかもしれない。
母親としての強い意志が、柚梪を行動に移す力となる。
「雪に………触らないでくださいっ!!」
その言葉と同時に柚梪は振り上げた右手を思いっきり振り下ろす。そして、公園とその周辺に『パァン!!』と言う音が響き渡った。
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