第44話 母親と娘で公園へ

「お兄ちゃ~ん! 起きてぇ~!! ぎゅーーっ♡」

「うっせぇぇぇ!?!? あと抱きつくなっ!」


 朝から心臓に悪い目覚ましに少々不機嫌な俺。彩音を泊まらせるべきではなかったと深く後悔している。

 

 朝8時。俺は不機嫌ながらもベットから起き上がり、彩音と一緒に1階へ移動した。階段を降りてすぐ顔だけ洗い眠気を覚ますと、リビングへ直行した。


 ちょうど柚梪が朝食の支度を終えた所だったようで、ダイニングテーブルの上には3人分の料理が並べられていた。


 俺が起きて来た事に気がついた柚梪は、ふと俺の顔に視線を向ける。


「あら? 龍夜さん、なんだか暗い顔をしてますね。大丈夫ですか?」

「あぁ、彩音のうるさいお越し方のせいでちょっと機嫌悪いだけさ」

「えへへ~、やり過ぎちゃった☆」


 ソファに座ったままてへっとする彩音に、俺は深いため息を吐く。それを見た柚梪は「あはは………」と苦笑いをする。


「とにかく、朝ご飯を食べて気分をリフレッシュしましょう!」

「………そうだな」


 せっかく柚梪が作ってくれた料理を冷ます訳にはいかない。俺達3人は各自椅子に座ると、朝食を食べ始めた。


「あれ? 雪は?」


 雪の姿を見ていない俺は、箸を持ちながら辺りを見渡し柚梪にそう問いかける。すると、柚梪はダイニングテーブルの下に人差し指を向けて「ここに居ますよ」と答える。


 柚梪が指を差したテーブルの下へと視線を向けると、キョロキョロと視線を泳がせる雪の姿があった。


「おぉ、そんな所に居たのか」

「………!」

 

 俺の声に反応した雪は、足元から可愛いらしい瞳で俺の事を見上げてくるではないか。そして、両手を俺の顔を目掛けてぐっと伸ばし、『抱っこして』の体制を取る。


「おうおう、可愛い奴め♪」


 俺は箸を置いて雪をそっと抱き上げると、膝の上に乗せる。テーブルから頭がひょっこりと出ている雪に、対面に居る彩音が見とれる。


 俺達は程よく賑わいながら、朝食を済ませる。


 そして、朝食を済ませ片付けが全て終わると、柚梪はエプロンを外して2階へ向かい、寝室のタンスから外出用の服に着替え始める。


 白を主体としたロングスカート付きの上着を身に付けると、今度は洗面台へ向かって日焼け止めを肌が露出している所全てに塗る。


 より明るく見えるようになった柚梪は、リビングへ戻ると「雪~」と名前を呼んだ。


「公園に行くよー」

「!!」


 その言葉に反応した雪は、ソファの後ろから姿を現した。抱っこの体制を取ると、柚梪は雪をぐいっと持ち上げ、玄関まで連れて行き靴を履かせる。


「柚梪ちゃん! 公園行くの? 私も行きたい!」


 すると、今度はリビングから駆け足でやって来た彩音がそう口にする。


「もちろん。一緒に行きましょう」

「やった♪ 私も着替えて日焼け止め塗らないと!」


 彩音は着替え用の服を取りに行く為、リビングに置いてあるキャリーバッグへと向かう。リビングに入る前に、一旦柚梪の方へ振り返ると「先に行ってて!」と伝えた。


「分かりました。行こっか」


 柚梪は雪を抱っこして家の外へ出る。一方俺はお留守番である。


 徒歩5分ほどの近くにある公園へ来た柚梪と雪。2人は定期的にこうして誰も居ない朝早くの時間帯に来くるのだ。


 公園に入って雪を下ろし、柚梪は中腰になりながら雪の小さい手を握る。こうして支える事によって、雪はゆっくりとだが歩く事が出来るのだ。


 ブランコと滑り台。多少なりの花が植えられた花畑がある小さな公園の中で、雪を遊ばせる事により適度な運動をさせているのだ。


 雪はおしゃぶりをモグモグしながら、公園内を見渡すとお花畑に綺麗なアゲハ蝶が1匹飛んでいた。


 そのアゲハ蝶に気を取られる雪は、パタパタと飛ぶアゲハ蝶に手を伸ばしながらゆっくりと歩き出す。柚梪は何も喋る事なく、可愛い娘を見守りながら雪に合わせて歩く。


 やがて、アゲハ蝶は公園の外へ飛んで行ってしまい、公園の外まで追いかけようとする雪だが、「これ以上はダメよ」と柚梪に止められ、渋々諦める。


「雪、蝶々だけじゃなくて………あそこに咲いているお花、とっても綺麗よ? 見に行こ?」


 柚梪はしゃがんで雪にそう言いながら、お花畑の方に指を差す。すると、雪はお花畑の方に向かってテクテクと歩き始めた。


 綺麗に咲く薄い青色の花を手を伸ばす雪は、ブチッと花びらを容赦なく1枚千切る。それに対して柚梪は、苦笑いをする。


「こら、お花が可哀想でしょ? もうっ」


 雪に優しく怒る柚梪だが、雪は千切った花びらを少し眺めると、ポイっと捨てる。


 そんなこんだで花を眺めたりして数分、柚梪は娘と穏やかな時間を過ごす。


「それにしても、彩音ちゃん遅いなぁ。場所は分かるはずだけど………」


 ふと思った事を口にする柚梪だが、そんなにまだ時間は経過していない。もうすぐ来るだろう………そう思って再び雪を見守る事に。


 そしたら、公園にある女性が1人やって来る。


「あっれぇ~? あんたさぁ、ここで何してる訳?」

「………っ!?」


 背後から聞こえたその声と言葉に、柚梪は目を見開き背筋に悪寒が走る。


をした人なんて、この世に1つの家族しか居ないからねぇ? まぁさか、こんなへっぽこな住宅地にあんたが居るなんて、誰が思っていた事か」


 柚梪は恐る恐る後ろを振り返る。そこには、柚梪と同じく全く同じねずみ色の髪をした女性が居た。その顔はどこか変な違和感がある上に、いかにも値段の高そうな服にバック、アクセサリーや靴を身につけている。


「なぜ………あなたがここに居るんですか?」

「それはこっちのセリフよ。どうしてお前がここに居る訳?」


 そして、柚梪と謎の女性の視線が重なる………。

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