第34話 妊娠後期
産まれてくる子供の性別も分かり、産婦人科から帰ってきてから数日の間は、頑張って赤ちゃんを産むと言いつつも、内心ではすごく不安そうにしていた柚梪。
しかし、そんな不安も月日が過ぎる内に消えていき、今では雪ちゃんが産まれてくる日を、今か今かと待ち望んでいる。
柚梪の妊娠も後期に突入し、妊娠からおよそ9ヶ月が過ぎた。柚梪のお腹は、妊娠した当初よりはるかに膨らんでいた。
お腹が大きくなった事で、柚梪は家事を最低限の事しか出来なくなり、歩くたびにお腹が重たそうになっている。
もういつ産まれてもおかしくないこの時期、俺は出来るだけ仕事を早く切り上げて、常に柚梪の側に居る日々が続いていた。
「どう? 大丈夫そう?」
「はい。いつ陣痛が来るか分からないですけど、とらあえずは大丈夫ですよ」
夜のお風呂上がりな俺は、ソファに座ってお腹を撫でる柚梪の隣に腰を下ろす。
柚梪の手に代わって、今度は俺が柚梪のお腹に手を当てて優しく撫でる。柚梪の膨らんだお腹は、僅かに固さを秘めていた。
「雪、元気な状態で産まれてくるんだぞぉ」
「逆に、変な病気とか持って産まれて来たらどうするんですか?」
「いや、だから元気な状態で産まれて来てねって言ってるんやん。それに、例えなんかの病気を持っていても、俺達の娘に変わりはないんだから」
そりゃ俺だって、雪は健康で元気な状態で産まれて来てほしいさ。だけど、世の中には病気を持って産まれてくる子供も居るんだ。
例え病気を持っていたとしても、俺は自分の娘として大切に育てるつもりだ。
「っ!! 龍夜さん、今お腹の中で雪が蹴りましたよ」
「おっ、俺の声が聞こえて返事をしてくれたのか? 嬉しいな」
俺がお腹を撫でていると、柚梪のお腹の中にいる雪が足でお腹の内側を軽く蹴ったのだ。その感覚を柚梪は、はっきりと感じ取っていた。
「なんか、あっという間でしたね。始めはなかなか検査薬に反応が出ないで、落ち込んでいたのに………今となっては、こんなにも大きなお腹を持つ事になるなんて」
柚梪は思い出を語るように、妊娠する前の日々の事を話始めた。
子作りから3週間近くになっても、なかなか反応が出ずにほぼ諦めかけていた時、検査薬にふと反応が出た時の柚梪は、とにかくテンション爆上がりで目を輝かせていたな。
握り拳1つ分も膨らんでなかった柚梪のお腹が、今では俺の頭1つ分くらいの大きさまで膨らんだ。
妊娠超初期や妊娠中期と、妊娠生活を送って来た。雪のために道具を買い揃えたり、柚梪の体調管理や食事に考えて生活してきた。
本当に、色々大変だったけど………その苦労を乗り越えて、ここまで子供を育てる事が出来た。
あとは、雪が産まれてくるのを待つだけだ。
「龍夜さん。こんな私を、たくさん愛してくれてありがとうございます。おかげで私は変わる事が出来ました。本当に、ありがとうございます」
柚梪はそう言うと、俺の肩に体重を乗せて頭を乗せてくる。
そんな柚梪の頭を反対側の手で優しく撫でて、柚梪のその甘さを堪能する。
「俺の方こそ。いつも支えてくれてありがとう。これからも、一生大切にしていくから」
「………はい♡」
柚梪は嬉しそうに微笑みながら、その身を俺に預けてるため、さらに体を密着してくる。
「ふあぁ~っ、眠たくなってきちゃいました」
「俺はまだ起きとくから、このまま少し寝てもいいよ。寝室に行く時に、また起こすから」
「はぁい♡」
俺がそう言うと、柚梪から全体重が左肩からどしっと押し寄せてくる。完全に力が抜けたのだろう。柚梪はスヤスヤと眠りに入った。
やはり妊娠の影響か、柚梪の寝る時間帯が数時間早まっている。
陣痛はいつ起こるか分からないから、俺が起きていれる間は、可能な限り起きていて柚梪の様子を見るのだ。
就寝時間になって、特に何もなければ柚梪を連れて2階の寝室に向かって2人で寝る。これが、現状俺と柚梪の夜の過ごし方だった。
「俺も、父親になるのかぁ・・・叱るのとか上手く出来るか心配になる。立派な父親になれるんだろうか?」
初めて経験する事は、何だって不安や心配があるのは当然だし、仕方のない事だ。だか、それでも挑戦する以外俺に選択肢はねぇ。
なぜかって………俺は、柚梪を幸せにする。立派な親になると心に誓ったのだから。
柚梪もまた、俺のために頑張ると言ったくれているし、男である俺が頑張らないでどうする?
「………孫の顔を見たら、父さんと母さんはどんな反応するんだろうな」
俺はぐっすりと眠る柚梪に向かって、小さく呟く。
ちなみにだが、柚梪が妊娠している事を実はまだ家族に教えていないのだ。もちろん、彩音にもだ。
きっと母さんは、あまりにも嬉し過ぎて声を上げ、雪が泣いてしまうんじゃないかと、心配な所はあるが逆に父さんは優しくて落ち着いている人だから、雪も気に入ったらえるはずだ。
「早く産まれてきてくれよぉ………雪っ」
あぁ、俺も早く娘の顔を見てみたいしな。
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