第31話 成長の証
柚梪が妊娠してからおよそ3ヶ月。これと言った事態は何も起きておらず、お腹の中の子供は順調に育ちつつあった。
ある平日の夜。柚梪が作ってくれた美味しい夕食を済ませ、俺はソファに座って夜の自由時間を堪能していた。
「龍夜さん龍夜さんっ!」
ねずみ色の長い髪を1本に束ね右肩から垂れ流し、桜色のパジャマを着たお風呂上がりの柚梪が、何やら嬉しそうな表情をしながらリビングへと入って来た。
ソファに座る俺を見た柚梪は、真っ先に俺の隣に座ってくると、俺の右手を握って自分のお腹の上に乗せてくる。
「………。少し、膨らんだ?」
「はい! そうなんですよ! まだ小さいですけど、少しつつお腹が膨らんできたんです♪︎」
柚梪のお腹を服の越しに優しく撫でていると、柚梪のお腹が握り拳1つ分くらい膨らんでいる事が分かった。
「ちゃんと………育ってるんですね。私達の子供が」
「そうだな。けど、さらに時間が進めばもっと大きなお腹になるからな。まだまだ序盤って感じ」
柚梪のお腹の中に居る赤ちゃんは、確実に成長している。その証拠として、受精卵から人の形へと変化していってる。
「そう言えば、柚梪が妊娠してから………もう3ヶ月が経過してるのか………」
「龍夜さんと過ごす日々は、いつも楽しい事ばかりなので、時間の過ぎが早く感じますっ」
「俺は俺で………ちょっと苦労した時もあったけどな」
俺は柚梪のお腹を撫でながら、目を瞑りながら天井に顔を向けて、今日までの思い出を思い返す。
「印象に残ってるのは、柚梪が始めて俺に怒りを見せた時だったね」
「………っ!? それは………し、仕方ないじゃないですか………」
当時、妊娠による影響でホルモンのバランスが乱れ、柚梪は情緒不安定になっていた時期があった。
柚梪に楽をしていて欲しいと言われ、いつも通り寛いでいたら、急に鋭い視線を向けてきて手伝えと怒り気味に言われた時、さすがにちょっとビックリした。
「龍夜さんには………楽にしていてもらいたかったんですけど、あの時はなんか………すごく腹が立ってしまって………」
「夜はと言えば、寝ると言って腕をほどこうとしたとたん、『まだ私を抱き締めててっ、じゃないと怒りますからっ』と言う、可愛い脅しもされたし」
「いやぁ………恥ずかしい………」
ネットで検索して、妊娠による気持ちの不安定を知った俺は、夜テレビを見る柚梪に歩み寄って、優しく抱き締めた。
あれからずっとお互いに身を寄せ合い、消灯時間20分前になった時には、テレビなど関係なく柚梪は自分からお姫様抱っこの体制を取ってきた。
もう寝る時間だからと言って、柚梪を解放しようとするも、柚梪は50分ほど離してくれなかったなぁ。
今でも時々不安がったりする事があるけど、それは仕方ない事だ。俺が側に居る時は、いつでも助けてやれる。
「柚梪。明日からも少しずつお腹が大きくなっていくし、お腹が大きくなれば、行動出来る事も限られてくるから、何か助けが必要な時はすぐに言えよ」
「それはもう何度も聞いてますよ。けど………そんな優しい龍夜さんが、私………大好きですっ」
柚梪は俺に向かって、天使のような可愛いらしい微笑みを見せてくる。
そんな柚梪の後頭部に右手を添えた俺は、柚梪と正面から目を合わせる。すると、柚梪は何かを感じ取ったのか、ほんのりと顔を赤らめ何度かパチパチと瞬きをする。
しかし、目を一向に逸らそうとしない俺に何かを確信した柚梪は、目を閉じて顎を少しだけ俺の方に差し出してきた。
そして俺は、プリッとした柚梪の唇に向かって、流れる川の水のように、自身の唇を接触させた。
俺の舌と柚梪の舌が交じり合い、お互いの唾液が絡み合う。口づけをしながら、俺は目を閉じる柚梪の顔を見つめる。
ふと柚梪が目を開いた瞬間、俺と目がバッチリと合ってしまい、ほのかに赤くなった頬がさらに赤く染まっていく。
濃厚なキスを終えた後、柚梪は右手で口元を覆い隠し、男の本能を刺激するような可愛い照れ顔を作って見せた。
「ズルイですよぉ………キスしながら、見つめないでください………」
「ズルイって言葉は、こっちのセリフかな。見つめたくなるような可愛い柚梪の方こそ、ズルイと思うけどなぁ」
「………イジワルぅ」
そう言いながら、柚梪は俺の胸を目掛けてその顔を埋めに倒れてきて、柚梪の成長した豊満な胸の柔らかさが、俺の胸辺りから伝わってくる。
自ら胸の中に入って来てくれた柚梪を、俺はギュッと抱き締め、溢れ出そうなほどに愛情を注ぐ。
「ちょっと早いけど、もう寝るかい?」
「………あと30分。甘えたいです」
「いいよ。俺も柚梪の温もりを感じてようかな~」
柚梪は俺の膝の上に座れるように体制を変えて、少しでも体を密接出来るようにする。
正直、30分は長いような気がするが………なんだか今は、柚梪を感じていたい気分だし、とにかく落ち着くんだ。これがね。
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