第27話 お買い物
翌日の土曜日。俺の嫁である柚梪が妊娠した事が分かり、今日は子育て用の物を求めてショッピングセンターへお出かけだ。
まだ早すぎるような気もしなくはないが、早めに買っといて損する事はないからな。
なにより、昨日産婦人科から帰って来た後、どうしても赤ちゃん用の物を買いに行きたいと柚梪が可愛いくただこねるから、仕方なく今日行く事になったんだけど。
現在、ショッピングセンターの駐車場に車を停めて店内へと入って行く所だ。
柚梪と手を繋いでエスカレーターに乗り、降りて行く事で最大4階層まである巨大なショッピングセンターの内部に到着。
土曜日と言う事もあり、ショッピングセンターの中はお客さんでいっぱいだった。
「こりゃぁ、下手すればはぐれかねないな………」
「大丈夫ですよ。私が龍夜さんにくっついてればいいんですからっ」
柚梪は俺の手から手を離し、腕に抱きついてくる。ほのかに伝わるムニュッとした柔らかい感触に気を散らされそうだが、確かにくっついていればはぐれる事はないだろう。
「でも………当たってるんだよなぁ」
「………? 何か言いました?」
「いーや、何にも。行くぞ」
「はいっ♡」
一番最上階である4階に降り立つ俺と柚梪は、お互いに身を寄せ合いながらショッピングセンターの中を歩き始める。
☆☆☆
まず最初にやって来たのは、赤ちゃん用の服や物が売ってあるお店。様々な色や模様が施された小さい服がずらりと並んでいる。
「あっ、龍夜さん。ハートの模様とか可愛いくないですか?」
「まぁ、良いとは思うけど………まだ性別分かってないし………」
柚梪が手に取ったのは、ハートの模様が施されたピンク色の服。まさに女の子に着せる用の服である。
まだ柚梪は妊娠して1日しか経っておらず、お腹の中に居る赤ちゃんが必ず女の子とは限らない。なのに、柚梪は女の子用の服にしか興味を示さない。
「もし買うならば、男の子でも女の子でも無難な白色の服とかがいいんじゃないか? もしくは、性別が分かってからネットで注文でもすれば………」
「もうっ、何度も言ってるじゃないですか! 産まれてくる赤ちゃんは雪ちゃんですって!」
とまあ、このように柚梪は産まれてくる子供は女の子だと言い続けるのだ。しかも、すでに『雪ちゃん』とまで言っているし………。
ただやっぱり、性別が分かっていないのに女の子用の服を買うのはどうかと思う。
「いや………だからさ、女の子かもしれないけど男の子の可能性もあるだろ? どっちが産まれてくるか分からないんだから、無難な白色にしようって………ね?」
「むぅ………」
柚梪は頬を膨らませながら、じぃっと手に持ったピンク色の服を見つめた後、「分かりました」と言って服を戻し、白色の服を3着手に持った。
「やっと分かってくれたか………」
「………ふんっ」
拗ねた柚梪に知らんぷりをされながらも、俺と柚梪は服のコーナーから別のコーナーへ向かう。
別のコーナーには、赤ちゃんが遊ぶ為のおもちゃだったり、哺乳瓶と言った道具が並べられてあった。
俺がまず最初に目をつけたのが、『おしゃぶり』だ。
「まぁ、これはいるだろ。子供は何でも口に入れたがるがらな。これを咥えさせていれば………変な物を口に入れる心配が少なくなる」
産まれてまだ物心がついていない赤ちゃんは、何が危ない物で何が安全な物なのかを、見て判断する事が出来ない。
その為、口に入る大きさの物であれば口の中に物を含む事によって、食べて良いのかダメなのかを判断するのだ。
しかし、何もかも危険と判断出来る訳ではない。中には………親が料理で目を離している隙に、電池やボタンと言った物を飲み込んでしまい、喉を詰まらせる事が多くあるそうだ。
そこでこの『おしゃぶり』が有効なのだ。赤ちゃんが常に口に含むゴムの部分と、口を塞ぐプラスチックの部分によって、常に口の中に何かを含みたがる本能を満たし、別の危険な物を口に入れる事を阻止する事が出来る優れ物だ。
「失くした時用に2つと、柚梪の母乳が出るか分からないから、念のため哺乳瓶も買っておくか。ちょうど安いからな」
口で言葉を刻みつつ、子育てに使う物をひたすらかき集める。そんな俺を後ろで眺めている柚梪。
「おっしゃ、こんなもんかな。ベビーカーは………まだ大丈夫かな。柚梪、会計行くよー」
「………」
「柚梪?」
「ふぇ!? あっ、はい………」
自分のお腹に視線を向けながら、ボーッとしていた柚梪は、俺に呼ばれている事に気がつかず2回目の呼び掛けでビクッと体を震わせながら応答した。
「どうした? 具合悪いか?」
「いえ………何でもないです………」
「そうか………なら、会計行くぞ」
「はい」
さっきまで拗ねていた柚梪。産まれてくる子供の事を思って商品を選ぶ俺と違って、柚梪はただわがままを言って拗ねていただけ。
全部俺にまかせっぱなしに気がついて、申し訳なさそうな表情になる。
「いつまでも、龍夜さんに頼ってばかりじゃダメ。少しでも龍夜さんに楽してもらう為にも、心を入れ替えなきゃ」
俺に聞こえないくらいの小さな声でそう呟くと、柚梪は手に持っている白色の服をギュッと握りしめた。
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