第25話 妊娠の確認
「よし柚梪。今日は病院に行こうか」
「病院ですか?」
「そうだ。まぁ、正式には産婦人科だけどな」
翌朝の平日金曜日、朝の10時頃。ソファに座ってお互いに肩を寄せ合いながら、のんびりとしていた。
実際なら仕事に行かなければならない日なのだが、昨日も言った通り残業続きで今日は休み。土日を含めれば3連休だ。
昨日の夜は、柚梪の甘えたい・構って欲の影響でしっかり睡眠を取れるか心配だったが、いざベットに寝転がると、10分もせずに柚梪は寝たのだ。
おかげさまで睡眠はバッチリ。疲れもかなり取る事が出来た。そして、今日は柚梪を連れて産婦人科に行こうと思っているのだ
「検査薬で反応が出たからこそ、実際に専門の人に見てもらった方がいいからな。中には、検査薬で反応が出たけど、妊娠はしていなかったって言う事もあるみたいだ」
「そ、そうなんですか………?」
俺の話を聞いた柚梪は、少し心配そうな顔をしながら自分のお腹に両手を乗せる。
今となっては、検査薬が不調子だったり欠陥品だったりで妊娠してないのに反応が出る事は0に近いほど無くなってはいるようだが、昔は結構あったらしい。
それに専門の人に見てもらって、食事や過ごし方などの説明を受ける事に越した事はない。
俺は柚梪が妊娠していないなど、これっぽっちも思っていない。可能性が0じゃなくても、柚梪のお腹の中には命が宿っている事を信じている。
「念のためってのもあるけど、やっぱり専門の人にアドバイスを貰った方がいいだろ?」
「それは、そうですけど………少し不安です」
「大丈夫だよ。柚梪のお腹にはちゃんと命が宿ってるさ。俺が保証しよう」
「龍夜さん………分かりました。行きましょう」
俺は柚梪の手をギュッと握り、そっと微笑みかけると、柚梪はほのかな笑みを浮かべて産婦人科に行く事を決意した。
とっくに私服へ着替えていた俺と柚梪は、ささっと身支度を済ませて玄関から外に出ると、俺の車の中へ乗り込む。
家から一番近い産婦人科は、車でだいたい40分。それなりに距離がある。
助手席に柚梪を乗せて、俺は早速車を発進させた。
☆☆☆
あれからだいたい50分後。無事に産婦人科に到着して、受付を済ませてロビーにて順番待ちである。
他にも、お腹が大きく膨らんだ妊婦さんとその旦那さんの1夫婦が居るだけで、全く人自体は居なかった。
「龍夜さん。私も、あの女性みたいにお腹が大きくなるんですかね………?」
「そうだろうな。あれだけ大きなお腹をしてるって事は、もう結構赤ちゃんが成長してるんだろうね」
お腹に手を当てながら、妊婦さんを眺める柚梪。
そんな柚梪の肩に手を添えて、グイッと柚梪の身体を抱き寄せる。
「誰だって、初めて赤ちゃんをお腹に宿すってのは、心配と不安で気持ちがいっぱいになるもんだ。そんな女性を支える為に、夫と言う存在があるんだよ」
世の中には、自分の嫁だからと言って妊婦さんを放ったらかしにしたり、妊娠を望んでないのに相手を妊娠させてしまった事で、その女性を捨てる男だって居る。
妊娠をしてしまった女性は、必ず誰かの助けがないといけない。最初こそは動けても、だんだん身動きが制限されてしまう。
「柚梪は必ず俺が支える。今日まで俺を支えてくれた分以上にな。だから、安心しろ」
「………はいっ。龍夜さん、大好きですっ」
柚梪は周りに聞こえないくらい小さな声で、俺に愛情を伝えてくる。
そしてお互いに向き合いながら微笑んでいると、「如月さ~ん」と言う男性の声が聞こえてきた。
「はいっ。柚梪、行くよ」
「はい」
俺と柚梪は声がした部屋へと向かって歩き始めた。
白衣に白いマスクとメガネをかけた医師の男性の前に柚梪を座らせて、俺はその隣に立つ。
「どうされましたか?」
「あの、嫁が妊娠検査薬で陽性が出たので見てもらいたくて」
「あぁ、妊娠の確認ですね。ちょっと部屋を変えましょうか」
医師はそう言って立ち上がると、俺と柚梪を別の部屋まで案内してくれた。
「えぇ、じゃあ柚梪さん。ちょっと、失礼しますね」
「え? あっ、はい」
別の部屋へ移動してくると、モニターに繋がれたある機械が置いてあった。指定された椅子に柚梪が座り、医師がその機械を起動。
そして、機械に繋がれた銀に光る丸い物を医師は軽く握り、柚梪の服の下に手を入れて銀の丸い物を柚梪のお腹に直接当てる。
そして、モニターにある白黒の画面が表示された。
「あの、これは何を映し出しているのですか?」
「これ? これは柚梪さんのお腹の中ですよ」
「えっ!? 私のお腹の中!?」
ふと気になった事を質問した柚梪は、医師に問いかけて、帰ってきた返答に驚きを隠せなかった。
これは特殊な超音波によって女性の子宮をモニターに映し出す事の出来る機械。さらに、このモニターはタッチパネルが搭載されているようで、医師は指で画面を拡大したり移動させたりしている。
俺も初めて見たが、心の中で『スゲェ』と言う感心しか出てこなかった。時代の進みと技術の発展ってのはすごいものだ。
「あぁ、ありましたよ。おめでとうございます。ちゃんと妊娠されていますよ」
「………!! 本当ですかっ!!」
医師が拡大をしまくった結果、モニターにはある丸い物が映し出された。それこそが、柚梪のお腹に宿った『受精卵』だった。
「これが受精卵ですよ。まだまだ妊娠初期なので、相当小さいですね」
「柚梪、超簡単に言うと………この丸いのが赤ちゃんの心臓みたいなものだよ」
「…………」
医師はモニターに映った丸い受精卵を指差し、俺は柚梪の隣でそう言葉をかける。
そして柚梪は、モニターに映る受精卵をひたすら眺めているのだが、その目には嬉しさのあまりに涙が溢れそうになっていた。
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