第23話 違和感と出血の意味
「………え? これって………血?」
お手洗いを済まし、トイレの水を流そうとレバーに手を伸ばした柚梪だったが、便器の底には少量だが血が付着していたのだ。
それを見た柚梪は、動きがピタッと止まり冷や汗がおでこから頬っぺたを通って顎まで流れ落ちる。
「えっと………怪我? それとも、生理………? いや、生理はとっくの前に来てるし………」
原因を考える柚梪だが、考えれば考えるほど可能性が思いつき切りがない。
そこで柚梪は、ある事を閃いたのか、「あっ、そうだ」と言って、トイレの水を流してからリビングへと直行した。
リビングに入ると、食卓の上に置いていたスマホを手に取り起動。電話のアプリを開いて、俺の電話番号を押す。
ほぼ毎日俺が家を出る前に柚梪に言っておいた『何かあったらすぐに電話をしろ』の言いつけを思い出し、柚梪は何の躊躇もなく俺で電話をかける。
スマホの先端を耳に当てて、しばらくすると俺が電話に出た。
『どした柚梪。今、結構忙しいから早めに用件言ってくれ』
「あっ、ごめんなさい。タイミング悪かったみたいですね………」
スマホ越しから数人ほどの声が飛び合っており、よっぽど忙しいんだと言う雰囲気が強く伝わってくる。
「あの、さっきお手洗いに行ったんですけど………なんか、出血してるみたいで」
『出血?』
「はい、原因が分からないので………」
『悪い、俺もちょっと原因は分からねぇ。余裕があったらネットで調べるんだけど………』
『龍夜君! こっちの書類を優先的に終わらせてくれないか? それから、こっちも頼む!』
『あぁ………! はいっ、分かりました。悪い柚梪、時間が出来たらまた電話するっ』
そう言い残した瞬間、電話はぷつっと切れた。
「タイミングが悪かったかな………? てかっ、そうだよ。スマホで調べたらいいんでした………」
柚梪は一番手っ取り早く原因を調べる事が出来、俺に電話をかけて時間を取る事もせずに済む方法があった事に、少し申し訳なさそうな顔をする。
そして柚梪は、その場で立ったままスマホのブラウザアプリを開いて検索をする。
一番上に出てきたサイトを開いく。すると、様々な項目と各説明の文字が大量に出てくる。
「う~ん………どれも違うような気がする………」
スクロールをしていくが、ほとんどが生理や妊娠などの見慣れたものばかりだった。中には切り傷の項目もあった。
そして、最も可能性がありそうな項目が………やはり妊娠の項目だった。
そもそも、女性がお手洗いをしている最中に出血するなどまずあり得ない。もし切り傷とかなら、少しでも痛みがするはず。
「あっ………そう言えば、まだお腹の違和感止まってない」
スマホを眺めて脳を回転させていた柚梪は、ある事実を思い出し、自分のお腹の上に手を乗せる。
夜遅くからお腹中で何が膨らんだ………張ったような謎の違和感を感じていた柚梪。けど、特に何もないだろうと流していた。
スマホの画面に映る『妊娠』の項目。張りつけるようなお腹の違和感。お手洗い中の出血。
「………もしかして」
そして柚梪は、スマホの電源を切って食卓の上に置くと、ソファの前へゆっくりと歩み寄る。
そして、ソファの前にあるテーブルの上に置いてある検査薬のスティックを手にもって、それをじっと眺める。
もしかしたら………今度こそ、妊娠しているかもしれない………。
その可能性に、柚梪はゴクリと唾液を飲み込んだ。
☆☆☆
お昼の15時間過ぎ。柚梪はソファに座りながら、洗濯物を畳んでいた。
手慣れた手つきで洗濯物を畳んで、綺麗にテーブル上に並べては乗せてを繰り返し、あっという間に全ての洗濯物を畳終える。
「うんっ♪︎ 今日も上出来♪︎」
上手に洗濯物を畳めた自分に対して自分で褒める。
畳んだ洗濯物をそれぞれまとめて持ち、タオルやパジャマ系は脱衣室へ。私服や靴下などは寝室へ運ぶ。
そして柚梪は、一息つくためにキッチンへ向かい、食器棚からガラスのコップを1つ取り出して、蛇口のレバーを上げる。
蛇口から出てくる水道水をコップ1杯分注いで、レバーを下ろし水を止める。
ほんのりと冷えた水道水入りコップを、グイッと軽く持ち上げ口の中に水を流し込む。
「………ふぅ」
今日の分の家事を全て終え、やり遂げた感と解放感に包まれる柚梪。
「あっ………お手洗い」
そして柚梪は、ようやく待っていたお手洗いが近づいてきて、すぐにテーブルの上にある検査薬を持ってトイレへ向かった。
トイレに籠った柚梪は、少しドキドキとしながらも検査薬を使いながら、お手洗いを済ませる………。
数分後、お手洗いが済みトイレの水を流す。使った検査薬に蓋をして、脱いだ下着等を全て履いた状態で便器に座りながら、じっと検査薬を見つめる。
検査薬を使ってから反応が出るまで、およそ3分程度。柚梪は、まだかまだかと検査薬を眺めながら、反応が出るのを必死に待つ。
「………もう、3分経ったかな? まだかな?」
スマホを持って来ておらず、時計もないため、何分が経過したかが分からない。検査薬には未だに反応はなく、柚梪は徐々に不安が生まれ始める。
やっぱり、出血したからと言って妊娠している訳ではないのか………?
まだ検査薬を使うのは早かったのだろうか………?
そもそも、本当に妊娠しているのか。あれから3週間以上経過しているのに、これと言った反応が無かった。
はぁっと短くため息を吐いた柚梪は、諦めかけていた。もう出よう………そう思った瞬間だった………。
検査薬には、いつの間にか結果欄に………黒い縦線のマークが浮かび上がっていた。それを見た柚梪は、大きく目を見開き………同時に涙が浮かび上がる。
「………!! 反応が………出たっ!!!」
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