第14話 スキンシップ
「明日からまた一週間仕事かぁ………嫌だなぁ」
無事にレストランから帰還した俺は、ソファにドスッと腰を下ろし、柚梪は毛糸で出来た薄い上着を脱いで、綺麗に畳む。
「それじゃあ私、お風呂沸かして来ますね。浴槽はすでに掃除してますから、すぐに沸きますよ」
「あぁ、頼むわぁ」
柚梪は畳んだ上着を食卓の上に置くと、リビングから廊下へ出て行き、脱衣室へと向かって行った。
3分にも満たない間に、柚梪はリビングへと戻ってくる。そして、そのままキッチンへと直行すると、冷蔵庫からココアパウダーの入った袋と牛乳パックを取り出す。
「龍夜さん、アイスココア作りますけど………飲みますか?」
「ん? じゃあ、お願いするわ」
「はい♪︎」
食器棚から2人分のコップと小さいスプーンを取り出し、袋からパウダーを小さじ3杯ほどコップに入れ、牛乳を投入。
ガラス製のコップと金属で出来たスプーンがカチカチと音を立てながらかき混ぜ、ある程度混ざったら氷を3つほど入れる。
「はい、出来ましたよ」
「ありがとうな」
スプーンが刺さったアイスココア入りのコップを、柚梪はソファの目の前にあるテーブルに1つ置く。
俺の邪魔にならないよう、テーブルの奥から回り込んで俺の隣へやって来る。
「あぁ………休みって終わるのが早いよなぁ」
「そうですね。楽しみな事があると、なおさら早く感じますし」
俺はアイスココアの入ったコップを口に持って行き、軽くコップを上に傾け、ココアを口の中に流し込む。
「逆に、楽しみな事があれば………時間の過ぎが遅く感じる事もよくありますね」
「楽しみな事があれば、時間の過ぎが遅く感じる………ねぇ」
俺はコップを片手に、天井をボーッと眺める。
「…………」
「………ふぅ、美味しい」
天井の次は、隣でココアを飲む柚梪へ視線を向ける。一口ココアを飲んだ柚梪の表情には、落ち着いているよりかは………安心しているような雰囲気を現しているように見えた。
俺はそんな柚梪を見て、コップをテーブルの上に置くと、右手を柚梪の背中に通し、柚梪の左肩に添えてグイッと優しく柚梪の身体を俺に寄せた。
「………っ、龍夜さん?」
「すまんすまん。なんか急にさ、柚梪の肌と温もりが恋しくなっちまって」
それを聞いた柚梪は、ココア入りのコップを両手で握りながら、ポッと頬を赤く染める。
「め、珍しいですね………。その、龍夜さんの方からスキンシップをしてくるなんて………」
「まぁ、確かにここ数年間の8.5割以上は柚梪からだもんな」
「そ、そんな事は………///」
柚梪と恋人同士になった時は違った。しかし、プロポーズが決まって俺が就職してからは、2人で居る時間が減った。
その影響で、俺からではなく柚梪の方から積極的に甘えてきたり、スキンシップを要求してくるようになった。
柚梪ばっかと言う訳ではないが、大抵は柚梪からである。
「でも、なんか今日は言ってんだよ。俺の体が柚梪の温もりが欲しいってな」
「………い、今からですか?」
「…………」
俺は柚梪に期待するかのような眼差しを向ける。
柚梪は恥ずかしそうにチラチラと視線を向けては反らしを繰り返す。どうやら、柚梪にとって不意打ちだったようだ。
「そんな目で私を見ないでください………ズルいですよぉ………」
「いっつも構ってアピールをしてくる可愛い嫁が、今さら何を言っているんだ?」
「うぅ………イジワルぅ」
柚梪はテーブルの上にコップを置くと、軽く体重を俺に押し寄せてくる。
「今は………お風呂が沸くまでですからね」
「分かってるって」
柚梪の了承を受けた俺は、迷わず柚梪の唇目掛けて顔を近づけ、お互いの唇を交わし合う。
☆☆☆
やがて、少しの甘い時間を堪能した俺と柚梪は、別々に入浴を済ませ、夜の時間を過ごす。
就寝時間になれば、リビングの電気を全て切って、洗面台で歯を磨き、2階の寝室へ移動。2人で1つのベットに寝転がり、布団を被る。
「それじゃあ、龍夜さん。明日は朝早いですかね。おやすみなさい」
柚梪はそう言うと、俺に背中を向けた状態で眠りに入る。
やがて刻々と時間が過ぎていく中、俺はどうも眠れずずっと天井を眺めていた。普段なら、20分程度で眠る事が
出来るはずなのだが………。
柚梪が眠りに入ってから、およそ50分は経過しようとしていた。
「柚梪、起きてる?」
俺は小声で隣に居る柚梪に話かけてみる。反応がない。もう寝たのかと思ったその時、柚梪が「はい」と返事を返してくる。
「起きてたの?」
「まぁ、はい。なぜかその………眠れなくて」
柚梪は俺に背中を向けたままそう言う。普段なら必ず俺に体を寄せて、全身で俺の温もりを感じたいっと言いながら寝るのに、実に珍しい。
「なんで眠れないんだ? どうかしたのか?」
「いや………別に、そう言うのでは………」
俺はそんな柚梪に対して「ふ~ん」と呟く。そして、少し柚梪に近寄ると背中から柚梪の体をギュッと抱きしめた。
「………!!」
急に抱きつかれた事により、柚梪は頬を赤く染める。
「全く、仕方ない嫁だな」
「な、何がですか………?」
「とぼけても無駄さ。柚梪とは長い付き合いだからね」
「………///」
俺と柚梪は少なくとも4年は一緒に暮らして来た仲だ。柚梪は、必ず俺に寄り添ってなくては落ち着いて眠れない事を知っている。
なのに、俺から少し距離をとって寝ようとしているのは、実に珍しい事である。
「なんだ? お風呂入る前に俺からスキンシップを求めていたから、もしかしたらって期待してたんだろ?」
「だって、龍夜さんの方から私を求めてくるなんて、全然無いから………」
柚梪は抱きしめられた俺の手をギュッと握る。
「なあ、柚梪。今夜………相手してくれないかな? 柚梪を愛したいんだけど」
「………はい、喜んで」
その質問に対して、柚梪はちょっと照れ臭そうにそう答えた。
返事を聞いた俺は、柚梪の体をグイッと強引に仰向けにすると、布団を深く被った。やがて、俺は柚梪と愛の営みを堪能する。
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