第15話 突然な体調不良

 柚梪と結婚をしてから、早くも2週間ほどが経過した。元から一緒に住んでいた影響もあり、新婚生活に滲むのは早かった。


 柚梪が甘えてくる際、柚梪が左手の薬指に付けている結婚指輪を見るたび、時折なんか照れ臭くなってしまう。


 よくよく考えてみれば、俺は柚梪に叱った事はあるものの、喧嘩をした事がない。なんと幸せな事だろう。


 平日の朝。食卓の椅子に座って、朝食を食べ終わった俺は携帯を弄っていた。出勤5分前であり、一方柚梪は食器を洗っている。


「………ん? 柚梪、今日は帰りが遅くなりそうだ」

「どうかされたんですか?」


 俺は携帯を弄っていると、仕事先の先輩からある一通のメールが届いていた。


「今日は、仕事仲間全員で外食に行くみたいだ」

「そうなんですか。なら、夕食は食べて帰って来られるんですね」

「そうだな。今日、俺の分は作らなくていいよ」

「分かりました」


 やがて出勤時間になると、足元に置いていたカバンを持って椅子から立ち上がり、スマホをズボンのポケットに入れる。


 立ち上がった俺を見た柚梪は、流れ出る水を止めて洗い物の手を止めると、タオルで濡れた手を拭く。


 玄関へ向かって靴を履き、家を出る前に見送りに来てくれた柚梪へ視線を向ける。


「じゃっ、行って来るわ」

「はい。お気をつけて」


 俺は一歩柚梪に歩み寄ると、柚梪と短いキスを交わし合い、お互いに愛を示し合った後、俺は玄関の扉を開き始める。


「いってらっしゃい。龍夜さん♪︎」

「おうっ」


 最後に、柚梪へそう返事をすると共に俺は玄関から家の外へ出て行った。


 俺を見送った柚梪はリビングへ戻り、洗い物の続きを再開する。


 洗い物が終わった後は、柚梪が毎日お風呂から上がり次第に仕掛けていた洗濯物を、洗濯機から取り出す。

 

 洗濯物が入ったカゴを持ってサンダルを履き、玄関から外へ出て庭へと向かう。そして、物干し竿に洗濯物を干していく。


 洗濯物を干したら、サンダルを脱いでベランダから家の中へ上がり、今度は掃除。1階や2階の窓をある程度全部開けて換気をしつつ、布団を干して掃除機をかける。


 掃除が終わると、干した布団や絨毯を取り込み、窓を閉める。これでようやく午前中の家事が終了。


 工程は少なくても、1つ1つに掛かる時間が長い。それを柚梪は、少なくても4年間は続けている。普通にスゴいと思う。


「ふうっ、これでよしっと。少し汗かいちゃった………シャワー浴びよっと」


 掃除が終わった柚梪は、少し出てきた汗を流すため、次にシャワーを浴びる。


 脱衣室で後頭部で1本に纏めた髪をほどき、服を全て脱いでバスタオルを巻く。


 クイッとレバーを上げれば、最初こそ冷たいが徐々に暖かくなったお湯が出てきて、柚梪は頭から足先までお湯の雨を浴びる。


 シャワーを浴びて脱衣室で着ていた私服に着替え、ドライヤーを使って髪を乾かした後は、柚梪のお昼ご飯タイム。


 柚梪がシャワーを浴び終わるタイミングで、時刻は11時35分頃。料理時間を含めればちょうど良いのだ。


 ちなみに俺は、毎朝早くから起きて作ってくれている、柚梪のお手製弁当を食べているのだ。


 そして柚梪は、キッチンで料理を始めようと冷蔵庫から食材を取り出している時の事だった………


「うっ………」


 柚梪の体は急に重くなり、ダル気が柚梪を襲ったのだ。そっと右手をおでこに添えて、左手で体を支える柚梪。


「………なんだか、体が重たい。さっきまでは普通だったのに、疲れてるのかな」


 徐々に柚梪は頭痛も感じ、この状態ではまともに料理が出来ないと判断。食材を全て冷蔵庫の中へ戻すと、ソファに寝っ転がる。


 寝っ転がってから数分が経過すると、柚梪は頭痛を感じ始め、体の体温も上がり始めていた。


「はぁ……はぁ………頭も痛くなってきたし、体も熱い………熱があるのかな」


 柚梪は両手を使って体を支えながら、体温計がある棚へ向かう。


 見つけた体温計を持ってソファへ戻り、座った状態で体温計を起動。服の首もとから左肩を露出させ、脇に体温計を挟む。


 ピピピ……ピピピ……と体温計が鳴って、脇から離して数値を確認すると、38.4℃もあった。


「シャワー浴びた後とは言っても、この熱とダル気はおかしいですよね。ちょっと休みましょう………」


 顔を赤くした柚梪は、体温計をテーブルの上に置いて、腕かけを枕に体を休める。


「どうしてこんな急に熱なんて………そんなに、疲れていたのかな………?」


 突如として現れた熱に、柚梪は心辺りがなかった。


 それもそのはず、シャワーを浴びる前までは、普通に俺と会話をしていて、洗濯物を干して、掃除をしていたのだ。


 体力的にも、柚梪はまだまだ余っていたはずだ。なのに、どうして急に熱が出始めてたのか。その原因が分からない。


 病院に行こうも、俺が居なければ車を使う事が出来ず、歩いて行くとなれば30分以上は必要だ。


 完全にダウン状態の柚梪は、立ち上がるので精一杯。脳の機能が熱によって低下しているのか、俺に電話をかけると言う考えがないようだ。


「少し、寝ようかな………」


 柚梪はそう小さく呟くと、そっと目を閉じて眠りの体制になった。


 毎日健康で元気な柚梪が、どうして急に熱が出始めたのか、どうして急に体が重くなり始めたのか。その原因は分からない………。

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