第13話 2人の女子話し

 注文した料理は、やがて次々に運ばれて来て、あっという間にテーブルが美味しそうな料理で埋めつくされる。


 人が全く居ないからだろう。俺達の前に注文されていた料理は作り終えていて、優先的に俺達の注文した料理が作られたようだ。


 ナイフやフォークを各々1本ずつ持って、美味しい料理を堪能する。俺が父さんや母さんと会話をしている間、柚梪と彩音は2人でお喋りをしていた。


「柚梪ちゃん、どう? お兄ちゃんとの結婚生活。まぁ、まだ2日目だけど」

「はい、とっても楽しいですよ。いえ………幸せですよ。結婚してからか、龍夜さんが今までよりたくさん構ってくれるんです♡」

「構ってくれるって………なんか小動物みたい」

「え? そうですか?」


 あはは………っと苦笑いをする彩音。


「とにかく、私は今………とっても幸せです! 龍夜さんに出合う事がなければ、こんな暖かい生活なんて知る事が出来なかったのですから」


 チラッと視線を俺の顔に向ける柚梪は、父さんと笑いながら楽しく会話をする俺を、じっと見つめ………ほんのりと微笑む。


 その様子に、彩音は柚梪が心の底から幸せだと思っている気持ちを感じ取る。


「ふふんっ♪︎ お兄ちゃんの妹として、私も鼻が高いねぇ!」

「ふふっ、龍夜さんと同じく彩音ちゃんも優しいですからね。私、彩音ちゃんの事も好きですよ」

「うおっ!? 急な告白だァ!! めちゃ嬉しー!!」


 嬉しそうにはしゃぐ彩音に、柚梪はクスッと笑う。


「それでさぁ~柚梪ちゃん、赤ちゃんっていつ作るの~?」

「………ふぇ!? なんか、話の内容急に変わりすぎでは………?」


 彩音は小学生の女の子を見てニヤニヤする変態のような表情で、そっと柚梪の耳元に顔を近づけ囁いた。


 当然、急に予測もしていなかった話題に、少し焦りを出してしまう柚梪。


「いいから、いいからぁ~。いつ作るの? ねぇ、いつ作るの??」

「ま、待ってください………そんなに迫って来られると………」


 ゆっくりと迫ってくる彩音の前に両手で壁を作り、視線を明後日の方向に向けながら、ほのかに顔をピンク色に染める。


「………えっと、いつとかは分かりませが」

「へぇ~? ふ~ん。なるほどねぇ~?」

「………なっ、なんですか?」

「ん? べっつに~?」


 なんともわざとらしい仕草をする彩音に、柚梪が少しだけ頬を膨らませて、ムッとした顔になる。


「か、からかってます?」

「いやいや! 別にからかってなんかないよ! 新しい命を作るのは大切な事だからね」

「………っ、新しい………命」

 

 彩音の言ったその言葉に、柚梪は無意識に彩音の前で自分のお腹に視線を向ける。そして、その仕草を見ていた彩音が、さらにもう一段階ニヤッと口角を上げる。


「やっぱり。柚梪ちゃんさ、もう作ってるんでしょ? 赤ちゃん」

「………え!?」


 突如として隠していた事がバレてしまった事に、柚梪は自分のお腹から視線を彩音の目へと向けた。同時に、柚梪の頬はみるみる内にピンク色から赤色へと変わっていった。


「柚梪は分かりやすいんだよ~。すぐそうやって頬っぺたん真っ赤にしちゃうんだから~、可愛いなぁ!」

「う、嘘ッ………私、顔に出ていたんですか!?」


 とっさに両手で顔を覆い被せて、真っ赤になった自分の顔を必死に隠そうとする。


「で? 実際はどうなの? 安心して。この事はお父さん達に言わないから」

「………本当ですか?」

「もちろん」


 彩音は真剣な眼差しを柚梪に向ける。


 柚梪は少しだけ黙り込んだ後、その口をゆっくりと開き始めてる………。


「し、しました………」

「そうなんだ。どうだった? 初めての経験は」

「えっと………すごかったです………?」

「あはは………なんで疑問符?」


 彩音の質問に答える中、柚梪の脳内には結婚初日の初夜にて、ベットの上で愛を営む俺と柚梪の姿だった。


 そして、恥ずかしさのあまり喋らなくなってしまった柚梪に、彩音はそっと声をかける。


「柚梪ちゃん。赤ちゃんって言うのはね、結婚した夫婦が初めて迎える宝物。きっと最初は、すんごく大変だと思うけど、頑張って乗り越える事で………柚梪ちゃんにはさらに幸せな時間が待ってるから」


 そう柚梪に話をした彩音は、ニコッと微笑む。


「なにせ、私の大好きなお兄ちゃんだけど、ああ見えてたまにドジな所とかあるだよね~」


 彩音は、やれやれと言わんばかりに手のひらを天井に向けてそう言うと、柚梪の隣で父さんとの会話で盛り上がっている俺の姿を見る。


「だからさ、本当にお兄ちゃんが困った時に助けてあげられるのは、柚梪ちゃんしか居ない。私は近い内にまた海外に戻るから、お兄ちゃんの事をよろしくね」

「………、はいっ。分かりました。龍夜さんは必ず私が幸せにしてみせますっ」

「うん。よろしいっ!」


 彩音はとても嬉しそうな表情で柚梪に微笑んだ。


 やがて食事を終え、時間もちょうど良い頃合いになった為、父さんが会計を済ましてお店の外に出る。


「龍夜、柚梪ちゃん。たまには家に顔を出せよ」

「おう、分かってるって」

「はい。分かりました」


 お互いに別れを告げた後、俺と柚梪は車に戻って乗り込んだ。


「美味しかったですね」

「あぁ、そうだな。今日は良い夢が見れそうだ」


 エンジンをかけて出発しようとすると、車内の電気をつけた青い4人乗りの普通車が1台、俺達の左上側から発進する。


 その車内には、運転席に父さん。助手席に母さん。そして、後ろの席に手を振ってくる彩音とゲームをする光太の姿があった。


「………あれ? 父さんの車、なんか違う?」

「はい、白い車だった気がするんですけど………」


 そして俺の脳内には、レストランに入る前に言われた父さんからの言葉を思い出していた。


 俺達がこの駐車場に来た時、父さん達の乗っている青い車が止まっていた。車内の電気がついてなかったから、誰が乗っているのか分からなかったが………。


「まさか………角度的に、見られてた………?」

「………!?」


 父さん達の乗っていた青い車から、俺と柚梪の乗っている運転席と助手席は、堂々と見えていたのだ。


 加えて、父さんからの「外での時は、もっとよく周りを見ておいた方がいいぞ」と言う謎の助言。


 全てを察した俺と柚梪は、徐々に顔を真っ赤に染めて行くのであった。


 

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