第12話 入店
ここだよレストランの出入口の扉を開くと、扉の上に取り付けられた小さなベルが、チリンチリンッと音を鳴らす。
ベルの音を聞きつけた女性の店員さんがやって来ると、「いらっしゃいませ~」とお出迎えをしてくれた。
「何名様でしょうか?」
「予約していた如月です。少し、時間より早いですけども」
「如月様ですね。確認致しますので、少々お待ちください」
父さんの返事を聞いた女性の店員さんは、一度店の中央にある大きな部屋に入っていくと、1分も経たずに戻って来た。
「はいっ、確認がとれました。6名様で間違いございませんか?」
「はい。間違いないです」
「では、一番奥の個室へどうぞ~」
俺達如月一家は、女性の店員さんに言われた通り、少々長い通路を歩いて、最大12人まで入る大きな個室へと向かった。
ここだよレストランの個室は、2室までしかなく、予約していてかつ6人以上の団体でなければ使う事が出来ない、予約専用の場所なのだ。
靴を脱いで部屋に上がると、長方形の長いテーブルが2つに、各テーブルの前後には3つずつの赤い座布団が敷かれてある。
1つのテーブルを最大6人で使う事が出来るのだ。
今回俺達は全員合わせて6人な為、1つのテーブルだけを使う。父さん・母さん・光太ペアと、俺・柚梪・彩音ペアに別れる。
「今日は何食べようかな~♪︎ ハンバーグにしようかな~♪︎」
「俺はいつも通りのステーキ定食だな。優里は何にするよ?」
「私はチキンステーキにしようかしら」
「俺もチキンステーキ」
各自テーブルの上に並べられていたメニュー表を見ながら、楽しそうに料理を選んで行く。
「すごいですね。たくさん種類があります」
「まぁ、結構昔からあるお店だからな」
柚梪は様々な種類の料理がある事に、まだとれにするかが決まっていないようだが、その悩む姿からは、とても楽しそうに選んでいる雰囲気がよく伝わってくる。
「龍夜さんは何にするんですか?」
「俺? 俺はね………そうだな。ミックス定食にしようかな」
俺が選んだミックス定食とは、チキンステーキとハンバーグステーキが一緒になっている物だ。おまけに、白米と味噌汁が付いてくる。
「じゃあ、私も龍夜さんと同じ料理にします。私じゃ、決められないので」
「よーし、全員決まったみたいだから、早速注目するか。すみませぇん!!!」
父さんは大声で店員さんを呼ぶと、俺達は各自で料理を注文。全ての注文をし終わると、店員さんは伝票を置いてその場を去って行った。
「それじゃあ改めて、龍夜と柚梪ちゃん。結婚おめでとう!」
父さんがそう言うと、皆は俺と柚梪に向かって拍手をしてくれる。
「ありがとうごさいます」
「嬉しいけど、拍手はいいよ。他のお客さんに迷惑だろうが」
今ここだよレストランに居るのは俺達だけじゃない。数は少ないが、お客さんは居るのだからうるさいと迷惑になる為、俺はすぐに皆を黙らせる。
「龍夜も立派になったなぁ! 父さん嬉しいぞ!」
「中学生の頃は、『こんな俺に嫁なんて出来ねーよ』とか言ってたのにねぇ」
「うるせぇ」
突如として黒歴史を暴露してくる母さん。当時の記憶が脳内に蘇り、俺は少しだけ頬を赤らめた。
「柚梪ちゃんの花嫁姿とっても綺麗だったよー! いいなぁ~、私もウェディングドレス着てみたいなぁ~」
「彩音ちゃんも立派な女の子ですし、きっと結婚出来ますよ」
「いやぁ、それがさぁ~………ウェディングドレスは着てみたいけど、家族以外の男には興味がないんだよねー」
「そ、そうなんですか………?」
「うん。私はね、1人で自由に生きて行きたい派なんだー。でも、お兄ちゃんとなら喜んで結婚するよっ! 子供だって何人でも産むし………チラッ」
「………! だ、ダメです! 龍夜さんは私の旦那さんですっ! 絶対に渡しませんからっ!!」
柚梪と彩音も楽しそうに会話を繰り広げ、この個室内は一瞬にして賑わっていた。まぁ、光太に限ってはずっとゲーム機とにらめっこしているが。
「それで、子供はいつ作るの? 私、早く孫の顔が見てみたいのよぉ~」
『………!?』
すると、またもや突如として母さんがそう呟き、俺と柚梪は体をビクッと震わせ、頬を赤く染め始めていた。
「まあまあ、そう急かすな優里。結婚してからだいたい1~2年は、新婚生活を堪能させてやらんと」
『………!?!?』
「そうよね。まだ子供を作るにはちょっと早いものね」
『………!?!?!?』
父さんと母さんの会話に、俺と柚梪はどんどん顔を真っ赤に染め上げていく。
確かによく考えれば………結婚して初めて迎える夜は、夫婦に取って大きな1つのイベントだ。しかし、子供を妊娠して出産する女性は、だいたい24歳以降だとニュースで聞いた覚えがある。
柚梪はまだ21歳。成人してから1年しか経過していないのに、俺と柚梪はすでに………子作りをしてしまっているではないか。
まだ柚梪が妊娠しているとは限らないものの、父さんと母さんに子作りをもうしていると知られれば………面倒な事になる。
「………柚梪、とりあえず落ち着いて」
「は、はいっ………分かっています」
俺はそっと柚梪の耳元に顔を寄せると、小さくそう柚梪に囁いた。
柚梪自身も、子作りをすでにした後だと言う事を知られるのはダメだと判断しているらしい。
「そ、そうだよ母さん。まだ子供はちょっと早いって………」
「そう、ですね。そういう経験………した事ないですから」
「そうよね。ごめんなさい」
上手くこの話題から逃げる事に成功したようだが、柚梪の隣に居る彩音は、逆にニヤニヤとしている事を、俺と柚梪が知る事はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます