第5話 初夜

「龍夜さんっ! 私、龍夜さんとの………赤ちゃんが欲しいですっ!!」


 柚梪は顔を赤く染めながらも、真剣な眼差しで俺を上目遣いで見つめてくる。


 突如として放たれたその言葉に、俺は一瞬だけ思考が停止するが、すぐに柚梪の言っている言葉の意味を理解した。


 柚梪は結婚する前から、子供が欲しいと何度か言っていた事があるが、結婚をしていないのに子供を作る事は出来ず、ずっと先延ばしにしていた。


 そして今こそ、結婚を果たし正真正銘の家族となった柚梪は、ついにその口から交尾のお誘いを提案してきたのだ。


「………柚梪、本気………なのか?」

「………もちろんですっ。今の私は、龍夜さんの正式な妻なんですよ」


 ぐいっと一歩前に迫ってくる柚梪。貫かれるようなその鋭い視線は、柚梪が本気で俺を誘っている事を証明する。


「龍夜さん………私と、子作り………しましょ………?」


 すると、柚梪は僅かに目を細めて首を10°ほど傾げると、魅了されてしまうほどの可愛い仕草で俺を見つめる。


 その仕草に心を撃たれた俺は、決心する。


「分かった。けど、まずは歯を磨こうか。それから、寝室で………ね?」

「………っ! は、はい♡」


 こうして俺と柚梪は、ソファから立ち上がり、リビングの電気を切って洗面台へ向かい、歯を磨き、2階へ登って2人だけの寝室へ。


 寝室には、俺と柚梪の私服などが保管されてあるタンスが合計で3つ並んでおり、最大3人ほど寝れる大きなベットが1つ置いてある。


 柚梪はドキドキする胸を抑えながら、そっとベットの上に仰向けになって寝っ転がる。


 そして、柚梪を覆い被すように俺が柚梪の上になる。両足で柚梪の腰元を跨ぎ、柚梪の耳の隣に両手を置いて体を支える。


 お互いに心臓のドキドキする鼓動が止まらない。


「………4年ぶり、くらいですかね」

「そう………だな。だいたいそれくらい」


 約4年前。温泉旅館で初めて柚梪と一線を越えた。あの時は、ゴムを付けて妊娠を避けていたが………今日は違う。


「………柚梪と、本気の子作り」


 今日はゴムなんて物はない。正真正銘、柚梪との交尾。柚梪と赤ちゃんを作る事が目的。


「龍夜さん………あの、ずっとこのままだと………恥ずかしいです」


 柚梪はまだ始まらないのかと焦らさせれいるように、緊張と恥ずかしさで今にでも爆発しそうだった。

柚梪は待っている。俺を望んでいる。その思いから、俺はそっと行動に出る………。


 両手を柚梪の背中へと通して、極限まで柚梪の体を抱き寄せる。俺の胸元からは、とても柔らかい何かが当たり、柚梪の温もりがよく分かるほど伝わってくる。


「んっ………」


 ギュッと宝物かのように抱きしめる柚梪と唇を交わし合う。


 プルッとした薄い紅色の唇の感触を味わい、舌でお互いの唾液を絡め合わせる。俺と柚梪は2人して目を瞑り、キスの甘い味をとことん堪能する。


 やがて、長い濃厚なキスを終えて、唇をお互いに離すと………窓から差し込む月の明かりに照らされる、絡め合った唾液の細い糸が繋がっていた。


 俺も柚梪も、顔をピンク色に薄く染めて、お互いに見つめ合う。


「龍夜さん………私、なんだか変な気分になってきました………」

「俺もだよ。柚梪」


 そして俺は、少しだけ体を起こすと………柚梪の着ているパジャマのボタンに手を添えた。


「柚梪、以前よりも少し胸が膨らんだんじゃないか?」

「なっ、何を急に言い出すんですか………まぁ、ちょっとだけ………ブラジャーのサイズを大きくしましたけど………」


 柚梪をちょっとだけからかいつつも、1番上のボタンを外す。そして、上から2番目のボタンも外した。


 すると、薄いピンク色の艶が入った柚梪の胸がその姿を現そうとしていた。


「あの、龍夜さん………待ってくださいっ」

「………ん?」


 上から3番目のボタンを外そうと手を添えた瞬間、柚梪が待ったが掛かった。


「その、やっぱり服を脱がされるのは恥ずかしいですので………それ以上はちょっと………」


 顔をさらにピンク色へ染める柚梪。柚梪のお願いを聞いた俺は「分かった」と言って、それ以降ボタンを外す事はせず、足元にある布団を掴んで、肩が隠れるほどまで被った。


 上は脱がなくても、下は脱がなければ交尾は出来ない。そのため、柚梪が少しでも恥ずかしい思いをしないように、布団で隠す。


 布団の中でゴソゴソと手を動かし、少しずつ準備を進めていく………。


 やがて、完璧に準備が整った。


「………ついに、するんですね。今日は………ゴム無しの」


 柚梪は胸に手を当てて、ドキドキと高鳴る鼓動を落ち着かせようとする。


「緊張する………?」

「はい………ですけど、初めての時よりは楽ですけど」


 俺と柚梪はー度、温泉旅館に旅行しに行った時、実際に営みを体験している。あの時は避妊するためにゴムを使っていたが、今日は違う。


「スー……ハー……」


 柚梪は胸を押さえながら深く深呼吸をして、心を落ち着かせる。そして、俺の背中に両手を通して抱きつく。


「ふぅ………もう、大丈夫です。龍夜さん、きてくださいっ。私をいっぱい………愛してください」

「あぁ。喜んで」


 そして、俺と柚梪は結婚初日の初夜にして………寝室のベットの上で愛を営んだ。


☆☆☆


 窓から明るい太陽の光が差し込み、柚梪はゆっくりと目を覚ました。


「んっ………朝?」


 右手で右目を軽く擦りながら、そっと体を起こした。隣では俺がぐっすりと眠っている。


 そして、ふと視線を下に向けると………上に着ているパジャマの上2つのボタンが外れている事に気がつく。


「………! そうだ、昨晩は………龍夜さんとここで」

 

 ベットの上に座ったまま、外れたボタンを戻していると、柚梪は昨日の夜に俺とした愛の営みを思い出す。


 ボタンを戻すと、柚梪は右手をそっと自分のお腹に当てる。


「龍夜さんの………暖かかったなぁ。えへへっ、どんな赤ちゃんが産まれるのかな。女の子がいいなぁ」


 柚梪は嬉しそうに微笑みながら、楽しい独り言を繰り広げた。

 

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