寝違え

着想(裏技) 起きた時、首周りの重たさを何とか内部から解消したい。いっそネジで締め直すみたいに出来たらなあ。

発展 首の位置をネジで変える。寝違えとはネジが緩んで変になってしまった事。もしくは締めすぎで偏ってしまっている事。

定着 会議を控えたお父さん。首を寝違えてしまっているので何とか直さないとナメた態度に見える。

決壊 直りはしたが眠かった?グラグラしたまま?別のネジ?ネジが不足してた?言葉遊び?思いっきり背伸びしたら?頭をぶつけた?実は逆方向に付けていた?締めすぎて首が沈んでいた?さあ帰ろうと背中を向けると?首が沈んでしまった病気の人はいる?『頷きすぎて首が緩くなった。』


 デスクワークで重く感じる頭を開放してやるために、私はよく首周りのネジを緩めてから寝るようにしている。襟足に付いたネジをドライバーで三回転半すれば、一人でもネジを回せる程度の緩い状態でありつつ、ちょっとやそっとの動きでは外れない。この日の私は昼食をサンドイッチ一つに抑え、ネジを緩めて早々に昼寝した。午後には大事な会議があるので、うたた寝する事態を避ける為だ。

 昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴った。私は額を机で抑えながら、サイドテーブルのドライバーを取り出して襟足に当て、ネジを締めていく。右も左も計6か所、三回転半キッチリと回して顔を上げた。首周りの重たさはすっかり解消され眠気も無い。しかし、視界が妙にずれている。

 もしやと思っていたら新入社員の筒山君がアッと声をあげた。

 「課長。寝違えてますよ」

 この場合、寝違えたというのは首が座ってないという事だ。一度力を抜いてみると右耳の裏が右肩に付いてしまった。このまま会議に行けば馬鹿にしていると思われるだろう。「筒山君、済まないが私の首を直してくれないか」

 「はい、勿論です。トイレ行きましょうか?鏡があった方がいいですし」

 「そうだな。頼むよ」

 首の座っていない赤ん坊の気分のまま筒山君に連れられた。時間は余裕があるものの、流石に焦ってしまう。

 「抑えててくださいね」

 額と顎を両手で支えながら背中の方でクルクルとネジの回る音がする。幸いにも妙な事故は無く、視界は偏りのない真っすぐな首になっていた。

 「早いね、筒山君」

 「僕おじいちゃん子だったので。よくやってたんですよ」

 「……成程な。いや助かった、ありがとう」

 暗に年老いてると言われた気持ちになったが、下手に若いと言われる方が傷つくので私はジッと堪えた。それでもやはり悲しい気持ちにはなったが。

 やがて、会議の時間になって進行は実に順調だった。我が社の大型プロジェクトで社長も顔を見せた十何人の会議だったが、上手い具合に同意が取れていく。

 「今回は大変有意義な時間でした。皆様お疲れ様でした」

 2時間の長丁場をなんとか乗り切り、私は気付かれないようにふうと息を吐いた。流石に首周りの疲労がぶり返してきている。

 「それじゃあ、私は先に失礼しますね」

 社長がにこやかな笑顔を見せ、他の出席者が締めくくりの挨拶をした時だった。

 私の頭がパコンと音を立てて首を離れてしまったのだ。床をテンテンと転がりながら私は恥ずかしくなった。頷きすぎたせいで首のネジが緩くなったのだ。

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