まあ、いっか
2階のアパートにて一人暮らしも慣れてきた、男の部屋らしい汚い6畳間。
最近、床にネジがコロンと落ちている事が多い気がしている。
引き出しの下、机の下、冷蔵庫と壁の隙間……。足で踏んで激痛と共に思い知らされると、これは一体何処のだろうと考えるうちに辺りを見回しても何か傾いているとかそういった事は無いのだ。
「まあ、いっか。支障ないし」
ただネジを捨ててしまうのはいけない行為だと思い、いつか使うかもしれない時の為にネジは引き出しの中にしまう。一つ、二つ……ネジは少しずつだが確実に増え、今は14個になっている。相変わらず見た目には変化はないままだ。
やがて毎月27日、大家さんが家賃を集めに来る日がやってきた。玄関先で少し話そうとする、良くも悪くも絵にかいたようなお節介おばあちゃんだ。
「何か困ってる事はない?」
「困ってる事、ですか?」
強いて言えばネジの事だが、でも本当に暮らす分には支障がないのだ。
「いや、ないですよ」
「そう。ここ2週間前からね。立て付けが緩いかもって相談を貰う事があって」
「立て付け?」
「何でも床にネジが落ちてる事が多いんですって。隣の大澤さんは10個くらいネジを持って来たわ。悪戯だと困っちゃうけど」
「……って事は、なんか床が傾いてたり物がいきなり落ちたりとか?」
「そういうことはないみたいよ。でも20人くらいから相談を貰うから、どうしたものだろうって」
「じゃあ、いいんじゃないですか?ネジが落ちてただけなんですから」
大家さんはポカンとこちらを見つめてくる。どうやら『ネジが落ちてる』くらいの相談しか貰ってないのだろう、やがて納得したようで大家さんは隣に向かった。
「……案外、ここってボロいのかな。住む場所無くなったらどうしよ」
不謹慎だと思いつつもつい浮かんでしまった本音に、一人で笑う。今日は折角の休日の土曜日なのだからそんな事より映画が見たい。
既にコンビニに行って飯も買った。今日はもう家から一歩も出るつもりはない。唯一話しかけられるだろう大家さんもちゃんと家賃は払った。隣の迷惑にならないよう、しかし大音量で聞くためにヘッドフォンを付け布団に身を包み映画を見始める。
隣で何か話す声が聞こえ、没入感をより高める為に俺は音量を上げた。
「地震だって!早く非難しましょう!」
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