猫日記
ぼくは一度何かを気にしたら他の事が出来なくなってしまうので、夏休みはいつも決まって宿題を早めに終わらせている。そんなぼくが一番苦手なのが日記だ。
日記は毎日、少しずつ書かないといけない。今日はどんな出来事があったかと買い物のメモみたいに覚えないといけない。ご飯は何か、どんなTVを見たか……。そうやって取り組んでみると、なんだか手を抜いているみたいな出来に見えてしまう。
そんな悩みを抱えていたある日、午前10時の庭先に一匹のネコがよく通るのに気付いた。
「お母さん、あのネコって前もいなかった?」
「そうね……野良猫かしら」
お母さんは保護者会で猫を飼っている人が思い当たらなかったのかもしれない。
「コウ、夏休みの日記にあのネコさんを書いてみるのはどう?」
何でもネコは体内時計が正確で、決まった時間にやってくるらしい。
取り敢えず僕は今日の日記に、『ネコ』の外見や毛の質感について書いた。
翌日になると、やはり午前10時にネコは現れた。この日は庭先でウンコをして、お父さんが掃除に駆り出されていた。
その翌日、自由研究として水族館に出かけた時はエンジンをかけると車の下から飛び出てきた。時間はやはり、午前10時だった。
日記の悩みはすっかり消えて、あれよあれよと日記は書き続ける事ができた。ネコは寝てばかりではなく、本当に色んな事をしてくれた。
そして夏休みを終えた二学期の初め、先生に宿題を提出するだけの午前中で終わる一日。夏休みの余韻が忘れられずグチグチ文句を言う僕たちと、顔が隠れるくらい大量の宿題を机に載せ、ペラペラと捲る担任の先生。
ぼくはその先生の顔が段々険しくなっていくのに気付いた。クラスメイトと話し終わり、まだかな~?なんて先生の顔を伺うとぼく意外にもその異変に気付く。
気が付けばみんな静かに先生の反応を見守って、やがて先生は口を開いた。
「皆、もしかして日記をテキトーに書いちゃったのかな?」
ぼくたちは先生の言っている事が分からず、声を上げる事も出来なかった。
「11日から全部、書いている事が皆同じだよ。ネコを発見して。翌日は庭先で粗相をして。その翌日は車や階段の下から飛び出して。その翌日は夜中にニャーと鳴いて」
先生の言葉に、ぼくたちは「アッ」と声をあげた。時間こそ違えど、皆同じネコの同じ行動を日記代わりに書いていたのだった。
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