4. チョコレートトリュフ

ふわふわとした感覚を顔に感じる。くすぐったいけれど何だか心地よくて、もう少し放っておこうなんて思ってしまう。ふわふわ、ふわふわ…、まるで大きなたんぽぽの綿毛みたい。


「いい加減起きなさいよ」

「え…?私の綿毛は?」

「綿毛?寝ぼけてんじゃないわよ」

「せっかくいい気分で寝てたのに〜」


いいところで起こすだなんて佐藤はやっぱり何もわかっていない。絶対に仕返ししてやる…


「佐藤、何その頭w」

「うるっさいわね。髪の毛ブリーチしまくってたら髪傷んで、寝起きはいつもこんなんなのよ!」

「大きな綿毛みたい。」


たんぽぽが小さな太陽だといわれるように、彼も私にとっては太陽のようなものなのだろうか。いや、私を最悪のタイミングで起こしたやつが太陽なわけがない。

そして、私を起こした悪魔は、私の気性を確認すると黙って立ち上がり、寝室を後にした。


何なの。人のこと起こしといて放置な訳?本当に何もわかってない。こんな置き去りにされる朝、もう嫌なのに。みんな結局同じなんだ。私には興味がないんだ。

パタパタという佐藤の足音が近付いてくる。

あ、戻ってきた。次はさっさと帰れとでもいわれるのかな。


「何ぼーっとしてんのよ、アンタ。朝ごはん食べるでしょ?さっさとこっちへいらっしゃい。」

「朝ごはん……」


「え?!ちょ、なんで泣いてんのよ。シャケ嫌いだった?パン派なの?嫌なら今コンビニに買いに行くから…」


そうじゃない。やっぱり佐藤は何もわかっていない。


私は優しいからぶんぶんと頭を横に振って彼の質問に答える。


「…シャケ…、すき」

「ならよかった。それならなんで泣いてんのよ。」


なんと説明しよう。この気持ちをうまく言葉にできる自信がない。


「…なんでもない。」

「………、あっそ。じゃあ早く泣き止みなさい。あたしが作った美味しいシャケちゃんが冷めちゃうわ。」


焼いただけのくせに、そういうと佐藤はうるさいと言って私の頭を撫でた。

普段は何もわかってないくせにこういう時はよくわかってる。こういうとこ、昔から何も変わってない。


私とは正反対だ。変わってしまった私は昔に戻れるのだろうか。そんなことを考えながら佐藤が焼いたシャケを口にする。佐藤は私にお構いなく、テレビをつけ、チャンネルをコロコロ変える。佐藤は、チョコレート工場の特集番組で手を止めた。


その工場は、既に出来上がっているチョコレートをもう一度溶かしていた。形が歪になってしまったチョコレートはもう一度溶かして元に戻すらしい。


「なんか、あたしたちみたいね。」

「え?」

「うまくいかなくて喧嘩しても、結局いつも元通り憎まれ口叩き合うようになってたじゃない。何かがうまくいかなくて、関係が歪になっても結局元に戻るのよ。」

「…そっか。戻せるのか。」

「何納得してんのよ。あんたは何にも変わってないんだから、戻るも何もないわ。」



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煌めきの影に溶け込んで 紫倉野 ハルリ @a_85

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