第39話 疑問【水曜日:Wednesday】

 「ブックマン。ちょっと訊きたいことがある?」


  宮野さんは物静かにモニターに呼びかけた。


 ――は~い。なんでしょうか?


 ブックマンはこんな夜中なのに二十四時間を三シフトで回してるのかってくらい早く返事をしてきた。

 画面に出てきたブックマンはモニターのずっと奥から前転して画面に近づいてくる。

 ブックマンがこっち向かってくるにつれどんどん大きくなる。

 そのまま画面にぶつかるとCGで作ったヒビがモニターに走りブックマンはいったんフェードアウトして額を押さえながら画面の下から出てきた。

 もちろんこのときモニターのヒビは消えている。

 毎度毎度この遊びの演出なんなんだよ。

 

 「亡くなった人のご遺体はどうなるんだ?」


 ――ご遺体はゲーム終了後に回収いたします。ですのでそれまでは何があってもそのままです。最初にお伝えしたとおり現在は六人ですがここには八人しかおりません。スタッフが動き回るとゲームに支障が出てしまいますのでスタッフの派遣もいたしません。

 

 「そっか。わかった」


 ――他になにか質問はありますか?


 「いや。いい」


宮野さんは聞き分けが良い。

といっても運営側のルールが変わることがないのを知ってるからだろう。



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しばらくお待ちください。



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 ブックマンが消えるとまた大広間は静かになった。



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「A」「B」「C」「D」「E」「F」「G」「H」「I」「J」「K」「L」「M」

「N」「O」「P」「Q」「R」「S」「T」「U」「V」「W」「X」「Y」「Z」


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 そういえば今日はもうとっくの前に日付が変わって水曜日だ。

 水曜日になってもWednesdayウェンズデーの「W」のアルファベットはそのままだ。 

 曜日は関係ないのか?


 沈黙した部屋で突然門倉さんが錯乱して生きている六人のなかに殺人鬼がいると叫びだ「008」の部屋の方向に走りだした。

 そのとおりなのかもしれない。 

 でも、いったい誰がこんなことを?


 「俺も部屋に戻るぜ。門倉さんのいうとおり殺人鬼は生存者六人のなかにいる。これからは自分の身は自分で守らなきゃなんねーってことだ。つぎに死ぬ、いや殺されるのは俺かもしれねー。こうなった以上、俺から見ればあんたらふたりも容疑者だからな。門倉さんだってああ見えて演技だってこともありえるしな」

 

 権藤さんは煙草を吸うジェスチャーをし煙草、煙草と言いながら「006」の自分の部屋に向かって歩いていった。

 そうとうストレスかかってるな。

 

 「権藤あなたの言うとおり。僕にとっても僕意外はすべて容疑者です」


 宮野さんが権藤さんの背中に向かって言葉を投げた。

 その言葉を聞いたとたん俺にも恐怖が襲ってきた。


 いま俺ら四人で手分けして比留間翔と三木元さんの部屋にいったけど、この三人のなかに殺人犯がいた可能性もあるんだ。

 

 三人だけじゃない。

 小鳥遊さんも、弓木さんも容疑者。

 俺も早く部屋に戻ろう。

 でもその前に宮野さんに訊きたいことがあった。


 「あの宮野さん」


 「ん?」


 「さっきのポイントのことで訊きたいんですけど」


 「ああ、あれね」

 

 「はい」


 「まず単純に考えてみようか」


 「はい」


 「まず僕らは最初に一万ポイントを持っている。ブックマンポイントは無視していいレベルだから切り捨てる。そして生存ポイントは一日で二千四百ポイント。二日目も二千四百ポイント、三日目も二千四百ポイント。この時点で一人が持つ合計ポイントは一万七千二百ポイント。ここで誰かが死んで一人に与えられるポイントは

 二千四百五十七ポイントになる。僕らに分配されたポントは?」


 「えっと。 二千八百五十九ポイントです」


 あっ、そっか。

 ひとりが犠牲なった場合に俺たちがもらえるポイントの上限、二千四百五十七ポイント以上のポイントをもらったからか。


 端数分も誰かの分配ポイントだと考えるとひとりは確実死んでいて、他にももうひとり、場合よってはふたり死んでる可能性があったんだ。

 だから宮野さんはひとり以上っていったんだ。

 まさかあの分配ポイントでそこまで計算できるなんて。

 スゴすぎて、もう言葉もない。

 

 「その顔、理解してくれたようだね」


 「はい。ようやく理解できました」


 宮野さんはツナギ入れても持ち歩けるような携帯型の水筒をポケットからだした。

 蓋をとり水筒の中身をコップ代わりの蓋に注いでいっきに飲み干した。

 水分補給のために常に持ち歩いてるのか。

 自己管理もしかっりしてる。

 あるいは分配ポイントが入った時点でこうなることを見越して飲み物持参できたのかもしれない。


 「それじゃあ僕も部屋に戻るよ」


 「はい。ありがとうございました」


 さすがの宮野さんもそうとう疲れてるな。


 「いや、気にしないで」


 「はい」


 宮野さんが俺のほうをクルっと振り返った。


 「諸星くん」


 「なんですか?」


 「きみにとっても僕は容疑者であり。僕にとってもきみは容疑者なのは忘れないようにね」


 宮野さんは核心をついてきた。

 でもそれはどこか気をつけろのニュアンスに思えた。


 「はい。気をつけます」



 

 

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