第44話 辻堂カナタ【水曜日:Wednesday】
「悪いけどあと三日間、きみには自由行動を慎んでもらうよ」
弓木さんは宮野さんに手首を掴まれ体を引き寄せられた。
「えっ? ちょ、い、痛い」
「ちょっと失礼」
宮野さんは弓木さんのつなぎのポケットから「003」の部屋の鍵を奪った。
基本的に部屋の鍵を持って部屋の外に出る場合、鍵をしまうのは基本つなぎのポケット以外にないからな。
突然、権藤さんが宮野さんは押し退けるようにして弓木さんの手をとる。
「こいつは俺が預かる。こんなかでいちばんガタイがいいのは俺だろ? まさかこんやつにビビッってたなんて」
「どうするんですか。権藤さんになにか考えでも?」
「このヤバいねーちゃんは003の部屋に閉じ込めておく」
「自分の部屋にいてもらうということですか?」
「そう。だから宮野さんその鍵を貸してくれ」
「どうぞ。じゃあ権藤さんにおまかせします。見張りよろしくお願いします」
「おう」
権藤さんが結束バンドで弓木さんの両手を繋いだ。
「こんなこともあろうかと思って買っておいてよかったぜ」
あれって人質を拘束するのによく出てくるアイテムで配線のときにケーブルを束ねるやつだ。
あれもECサイトで買ったのか。
「食事は保証してやる」
宮野さんは権藤さんに近づいていき耳元でなにかをささやいた。
気をつけてとかの激励かな? ただこれで殺人犯が判明し安堵感がわいてきた。
俺よりも小柄な弓木さんが犯人だったなんて。
といってもそれは異常愛が原因だし、三木元さんは自ら命を絶ったわけで無差別殺人じゃなかったぶんだけマシだな。
ただみんなの出版ポイントの差し引きがすごいことになってそうだ。
権藤さんが弓木さんを「003」の部屋に連行するのを見届けたあと宮野さんが小鳥遊さんに近寄っていき大丈夫と心配している。
小鳥遊さんは何度かうなずくと「005」の部屋へ戻っていった。
俺は宮野さんの誘いで三木元さんが失くした鍵を探すために「004」の三木元さんの部屋にいくことにした。
三木元さんの部屋では部屋の中で散らかっていたダンボールの荷物中から「004」の鍵を無事発見した。
やっぱり鍵をカッター代わりに使っててダンボールの中に落としてたんだ。
弓木さんが言ってたとおり三木元さんが鍵を失くしたっていうのも事実だった。
※
三木元さんと比留間翔を殺した犯人がわかってすこしだけ不安が和らいだ。
これでビクビク過ごさなくたっていい。
それでも部屋に戻った俺は念入りに鍵をかけガチャガチャとノブを回した。
よし、大丈夫だ。
スマートウォッチのボイスレコーダーにさっきまでのできごとを吹き込んだあとモニターと連動させてキーボードを表示させた。
検索窓に「紫の煙」と「すいよう」と「つじどう」と入力すると「紫の煙は水溶式」という一冊の本がヒットした。
「すいよう」って水曜日の水曜じゃなくて水に溶ける水溶のことか。
著者も「辻堂カナタ」になっている。
これが権藤さんがゆいいつ出版した本だ。
商品の説明欄のあらすじを読むと、どうやら綿密な取材に基づいたノンフィクション小説で、育児放棄された子どもが灰皿代わりの空き缶やペットボトルの飲み物を口に入れてしまうという内容だった。
へーほんとに社会派のノンフィクション小説なんだ。
俺はそのまま注文カートに入れて注文確定をタップした。
この本なら定価は千二百円から、千八百円のあいだくらいだろう。
いまこれを頼んで明日の朝に届くって大手のネットショップよりも早いかもしれない。
読みたい本がそんな早く読める点ではいまの俺は幸運だ。
本を読めばさらに権藤さんの人柄もわかるはず。
いや、どうだろう権藤さんじゃなく「辻堂カナタ」って作家の本だもんな。
まあ、それは読んでみてのお楽しみだな。
ただ、これからどうなるかわからないから念のために自分の身を守るも護身用の物も買っておいたほうがいいな。
誰がどうこうするじゃなくて、念のために。
そう自衛のためだ。
でもこのECサイトには銃もナイフも売ってない。
買えて、せいぜい包丁だ。
弓木さんもあの果物ナイフを三木元さんのポイントで買ったんだろう。
俺はツナの缶詰と菓子パンで軽食を摂ったあとに歯磨きをして昨日から一睡もしてないからすこし仮眠をとることにした。
ベットに入ると犯人がわかったせいなのか、いっきに脱力した。
ふと目覚めてスマホを見てみると夜の十一時過ぎだった。
でもこのかんじなら二度寝できる。
ここで眠って朝を待てば昼夜の調整は完璧だ。
俺はこんな昼夜の生活をもう十年以上もしてきた。
これがバイトで培ってきた特技だ。
※
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます