第52話 手を汚すとき 【土曜日:Saturday】
「あれ? なんか体が……」
「そうだろ? 夜に会ったときにきみにも
「あのときはあんたもあれを飲んでいたはずだ。どうやって俺だけに飲ませた?」
「ECサイトに売ってた手品の道具さ。簡単にネタを明かすと右に傾ければふうつのハーブティーが出て。左に傾ければナツメグ入りのハーブディーが出る。マジックでそのまま使うなら右から赤い水をだし左からは青い水を出すような使いかたをするんだけどね」
マジック? だからあの水筒は「レジャー・スポーツ」のカテゴリーに売ってなかったのか。
門倉さんがオードブルを買ってたパーティー用品のところにあったのかもしれない。
「諸星くん。つぎの僕の経験は
宮野は俺が具合が悪そうな
や、やるしかない。
つなぎのポケットに手を入れてポケットの出口のところでキャップを外す。
慎重にやらないと、自滅する。
そのまま真横に腕を伸ばして宮野の右の太ももを狙っておもいっきり突き刺す。
「俺はこんなとこで死ねないんだよ!」
ありったけの力を込めた俺の手に分厚い粘土に鋭利な刃物を刺したようなブスっという感触が伝わってきた。
ほんとうに嫌な感触だ。
「い、痛ってーな!? このヤロー。こんな武器を隠し持ってたやがったのか? なめやがっ、て」
でもこれに入っている物質は速攻性だ。
「ぐっ、ぐぁぁ、い、息が、な、なにやったんだ。てめー!」
「そもそも俺はあれを飲んだあと部屋に戻ってすぐに
よくわからないけど俺は門倉さんに助けらたのかもしれない。
「が、がぁぁ。ぐぅ、く、がっ。ごふっ」
宮野さんは転げ周りながらもがき苦しんでる。
そうだろうな。
でも俺だってもう引き返せない。
宮野はもう、まともな会話さえままならない。
「半信半疑だったけど小鳥遊さんが俺に教えてくれたんだ。あんたが持ってきたカレーを食べたあとから体調不良になったって。権藤さんの部屋にきたあんたの匂いと小鳥遊さんの部屋の鍵をガチャガチャやっていったあとの残り香が同じだったこともな」
「がぁ、ぐふ、が、っ、ぐぅ」
まだ息があるのか? いまだかつて万年筆がこんなに重かったことはあるか? あの契約書にサインしたときだってこんなに重くはなかった。
もう一回。
俺はもう一度右手を振り上げ万年筆の重さを利用し宮野の左の太ももに万年筆を振り下ろした。
二回目もまったく同じようにブスっと分厚い粘土に鋭利な物が刺さった感触が手に伝わってきた。
「セオリーどおりで俺もあんたが死ぬ前に教えてやならいとな。俺が刺したのはこの万年筆だよ」
バタバタ転げまわっていた宮野は喉元をかきむしりながら動かなくなった。
「俺はずっとあんたのことをこんなにすごい推理作家志望の人がいるんだって尊敬してたんだ。この人はこれからどんな小説を書いていくんだろうって楽しみだった。心のどこかでこの出版ゲームで勝つならあんたがいいって思ってた」
宮野
「もう聞こえないですよね? この万年筆の先には水に溶かしたニコチンが塗ってあります。俺にはどんな煙草がいいのかわからないのでコンビニの常連さんがいつも買っていく五番を買いました。つい数時間前俺は護身用でそれを用意しておいた。水に溶けた煙草の危険性って知ってますか? ああ、宮野さんならもちろん知ってますよ。俺は辻堂カナタさんっていうノンフィクションライターが書いた本を参考したんですけど」
これで俺も完全なる殺人者になってしまった。
……違う。
こうでもしなきゃ殺されてたのは俺なんだ。
これは緊急避難だ。
俺は一枚の板に掴まっていただけで、そこに手を伸ばしてきた宮野さんに抗っただけ。
板に掴まっていなければ死んでいたのは俺なんだから。
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