第32話 権藤保 【月曜日:Monday】
「おまえ? な、なんで俺の名前を知ってるんだよ?」
おまえって俺のことだよな、やっぱり。
権藤さんが気性が荒いタイプだというのははっきりした。
とくに自分に反論してきたり失礼な態度をとるような人間に対してそうなる傾向があるのかもしれない。
門倉さんは門倉さんで厄介だけど、権藤さんも権藤さんで
「それはスマホケースから、ごんどうさん、いえ、006さんの免許が見えてしまったからで」
「ああ、俺がSIMカードで騒いでたときのかよ?」
「はい。すみません。それでそのときのことが頭を過ってつい名前を呼んでしまいました」
「マジかよ。ってことは、なあ、宮野さんあんたも当然、俺のこと気づいてるんだよな?」
権藤さんは一呼吸の間もなく宮野さんに問いかけた。
こんな状況でも三木元さんは我関せずでいるけどなんとなく元気がない。
近くに弓木さんがいるから孫が祖父を見守っているようにしか見えない。
「はい」
ええー!?
マジで、あれって俺だけが気づいてると思ってたのに。
宮野さんってそんな素振りなにひとつ見せてなかったよな。
推理小説家志望者の洞察力はすごい。
それでいながら
推理小説って警察や探偵なんかが主人公になるんだから小説家本人も洞察力がないと書けないか。
「006さんにもなにか訳があるんだろうって思って僕も諸星くんと同じように黙ってました。それが大人ですよね」
じゃっかんディスられたような。
たしかに人が秘密にしてることを勢いとはいえ大衆の面前でしゃべってしまうのは人としてどうかしてるな。
反省。
ここで宮野さんのこともすこしわかってきた。
知的、冷静沈着に加えて秘密主義。
それでいながら切り札をいくつも持ってそう。
「ああ、じゃあ、もう俺も名乗ってやるよ。俺は006番、
権藤さん。逆ギレした?
「どうして隠してたんですか?」
権藤さんが自分で名前を明かしたから素朴な疑問で訊いてみた。
「ブックマン。運営を信じてないからだよ。できるだけ個人情報は隠したいってこと。諸星くんにはそういうのないの?」
「おじさん。俺もその気持ちはわからなくないよ。でも運営側はもっと多くの個人情報を握ってると思うけど」
お、驚いたタオルを取らて正体をバラされた比留間翔が権藤さんの味方するなんて。
人の感覚なんて人それぞれだな。
俺が比留間翔の立場だったらやっぱり腹が立つけどな。
「運営が俺らの個人情報を握ってるくらいはわかってるよ。でもここにいるメンバーに知られないことも俺のメリットになると思ったんだよ」
「手の内を知られたくないっていうのは僕もわかりますよ」
宮野さんの話が終わったと同時に権藤さんは三枚あるモニターの中央におーいと呼びかけた。
これって昨日、権藤さんがまったく同じことしてた。
ブックマンがまた出てくるのか?
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しばらくお待ちください。
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「しばらくお待ちください。」が消えモニターが切り替わる。
新たなCGを作ったのかよくわからないけどブックマンは画面の奥で俺らのほうを正面にして鉄棒をしていた。
グルグルと何度も高速で回転し、八回転ほど回ったときにぱっと手を放した。
ブックマンの体がこっち向かって飛んでくる。
画面いっぱいにブックマンの顔が映った。
ブックマンはそこからうしろに下がっていく。
なんなんだよ。この遊び心は?
――は~い。なんでしょうか?
ただすぐに反応したのには変わりない。
ブックマンの中の人ってあっちのモニターの前で常に準備してんのかな? あるいは俺たちが大広間にきたときだけ待ち構えてるとか? ブックマンはそこからいつものようにVTuberの動きをしている。
「俺の名前を006から本名に変えてくれないか?」
「あっ、ついでに俺の名前も比留間翔で表示させてくれない?」
――かしこまりした。少々お待ちください。ではおふたかたのお名前を本名に変更させていただきます。そのあいだ私の友だちにこの場を繋いでいただきます。
はっ? 友だち? そんなのいるの? ここってそんな遊びのノリでいいの?
――は~い。僕はブックマンの友だちのマイクマンで~~~~す!
ほんとうに出た! こういうゲームマスターってひとり、いや一匹?がセオリーなんじゃないの? しかも同類。ブックマンが紹介したマイクマンはふうつのマイクの先端に目と鼻と口があって持ち手の部分から両手両足の生えたマスコットキャラだった。
ブックマンの仲間といわれればそのとおりだろう。
完全な
でも、なぜこんな友だちが? ブックマンの中の人が権藤さんと比留間翔の設定変更してるあいだの司会代行か? そうなると二人一組で対応に当たるのは正しいかもしれない。
うちの店だって基本ふたり一組でやってる。
「マイクマン。モニターのアルファベットのMが消えたんだけどなんで?」
権藤さんはなにごともなかったようにマイクマンを受け入れている。
マスコットが一体? いや、一本増えたからってどうでもいいか。
さっきのブックマンの鉄棒といい、このゲームを盛り上げるための演出なんだろうし。
――それは私の仕事が終わったからですよ。だからこうやって私がブックマンのところに遊びにこられたわけですよ。
えっ……? なんなんだその理由は? ブックマンのところに遊びにきた。
仕事が終わったから今日は友だちのブックマンのことろに遊びに行くねってこと。
それはつまり消えた「M」はマイクマンの「M」? マイクマンの退勤で「M」が消えるってことは、そのモニターのアルファベットは出勤表なのか? でもそれならブックマンの「B」が点灯してないとおかしいよな。
しかもこの時間なら夜勤明けか?
「運営がそんなうそついていいのかよ!?」
権藤さんのその言葉はこの場の誰もが思ったことだ。
――いいえ。うそではありませんよ。信じるも信じないもみなさまのご自由ですけど。
マイクマンの細い体から伸びてる、体よりも細い手が身振り手振りで否定している。
――修正完了いたしました。
ブックマンがモニターの下からマイクマンの真ん前に飛び出してきた。
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「001」=「
「002」=「
「003」=「
「004」=「
「005」=「
「006」=「
「007」=「
「008」=「
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大広間のいちばん右のモニターに俺ら全員の名前が表示された。
二日目にして全員の名前が判明したけどポイントは隠されているからみんなの出版ポイントの内訳はわからない。
エレベーターに荷物が届いてる以上、それぞれのポイントは相当変動しているだろう。
みんなの生存ポイントをいまの時点で考えてみても三千四百は超えている。
こうなった以上誰が何ポイント持っているかさえ予測不可能だ。
――それではみなさま。ご武運を~!
ブックマンとマイクマンがモニターの中から消えた。
中の人、ほんとうにふたりでどっか遊びにいったんじゃないだろうな?
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