第24話 現状 【日曜日:Sunday】

 さっきは途中になってしまった現状を振り返ってみる。

 「総合出版社財団」から届いた封筒で俺たち八人は出版を賭けたゲームに参加することになった。

 俺たちが集められたのは窓ひとつない「総合出版社財団」が管理するどこか。

 

 本を出版するにはいちばん多くポイント集めなければならない。

 いまの俺と同じでみんなにも生存ポイント「100」が加算されたとするとタオルで顔を覆った「001」の出版ptは「11000」。

 俺の出版ptも「11000」。

 同じく眼鏡っ娘の弓木さんの出版ptも「11000」。


 高齢でITが苦手な三木元さんの出版ptは「11003」。

 一人称が優奈の小鳥遊さんの出版ptは「11000」。

 いつも冷静で理知的な宮野さんの出版ptは「11004」。

 最後は小柄でお調子者の門倉さんの出版ptは「11000」。


 依然として宮野さん有利か。

 だけど……。

 俺はまたモニターに目をやった。


 ECサイトでの買い物をすればいまの出版ポイントなんてすぐに入れ替わってしまう。

 俺ら八人の出版ptの総数からしても各自のポイント差なんて無視してもいいレベルだ。

 というか俺たちがまずどうやってポイントを貯めていくのかを体験させるためのデモンストレーションみたいだ。


 ポイントの集め方その一、誰かが死亡した場合その人のポイントは生き残っている人たちに分配される。

 これがもらえるのは死亡者の出た日の翌日で日付が変わったあとすぐ。

 俺たちがこの先もらうことのないとポイントだと思っていい。


 その二、ブックマンポイント。

 これは主にブックマンの言い間違いなんかを指摘すればブックマンからもらえるポイント。

 ポイント数は二から五ポイントまででもらってすぐに反映される。


 その三、生存ポイント。

 これは一時間に一度もらえるポイントで一時間経過後すぐにもらえる。

 

 このポイント集めゲームで最高得点だった人が本を出版できる。

 出版の条件は勝ち残った人と要相談。


 まあ、こんなところだな。

 あっ、そういやコンビニのオリジナルポイントも含まれるっていってたから条件その四で入れておくか。


 例えば「5%付与」というシールが貼ってある、うちの店のパンのような商品のこと。

 二百円のパンなら十円分がコンビニのオリジナルポイントとして戻ってくる。


 総合的に考えるとポイントは貯めるよりもいかに消費しないかが重要になってくるな。

 今日もらった物資だけでも一週間生きようと思えば生きられる。

 となると出版ptをまったく使わなくても食べ物、飲み物はなんとかなるかもしれない。

 

 頭の中でいろいろ整理ができた。

 念のためにもういちどモニターでECサイトを操作してみる。

 俺は部屋の壁を見つめながらスマートウォッチに触れていたせいか、モニターにはべつの画面が表示されていた。


 「再生」「停止」と赤い丸のアイコンに「REC」という文字の三種類のアイコンが映っている。

 この画面ってスマートウォッチなのか? なんだこれ?


 「REC」って録画のこと? このスマートウォッチにカメラがあって撮影ができるってことか? スマートウォッチを顔の前に持ってきてそれらしレンズを探してみたけど見当たらなかった。


 ないな~。

 いや、違うな。

 これって録画じゃなくて録音の意味の「REC」じゃないか? だとするとボイスレコーダーだ。

 このスマートウォッチにはボイスレコーダーの機能があるのか? あっ、消えた。


 俺はがスマートウォッチの液晶を横にスライドさせてしまったせいなのか画面が変遷しまたECサイトの画面に戻っていた。

 

 ボイスレコーダーの画面を表示させたくて数回、スマートウォッチを触ってみたけどその後 「再生」「停止」と赤い丸のアイコンの「REC」が出てくることはなかった。

 だめか。

 まあ、しょうがない。

 これはそもそも俺が意図して呼び出した機能じゃないし。


 俺はそこからまた、ECサイトに右下のキーボードのアイコンをタップしてキーボードを呼び出した。

 検索窓に「ミルクティー」と入れて何種類もあるミルクティーのなかから、うちのコンビニのオリジナルブランドのミルクティーをタップする。

 有名メーカーのミルクティーより絶対に安いのは知ってる。


 欲しい個数を入力して「購入」をタップする。

 「会計へ進む」のメッセージとともカートアイコンの上に「1」という吹き出しが表示されている。


 この段階ではまだ注文じゃなくて一本のミルクティーをカートの中でキープしているにすぎない。

 ここから先に進んでようやく注文確定だ。

 できるだけポイントは減らしたくないから練習を兼ねてミルクティーを一本だけ注文してみる。



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ありがとうございます!

注文を確定いたしました。


本日中の注文商品は、明日、朝十時にエレベーターに届きます。


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 今日、頼んだ品物は翌日あのエレベーターに届くようになってるのか。

 うちのコンビニのECサイトと提携してるからこういうことができるんだな。

 俺はふと思うことがあってECサイトのTOP画面に戻ってみた。



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「002」=「諸星もろぼしけん」さん 出版pt「10902」


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 おっ!? やっぱりだ。

 出版ptが「11000」から「10902」になってる。

 「98」ポイントを消費したことだからいま注文したミルクティーの価格は「98円」ってことだ。


 差額で商品の金額がちゃんとわかるようになっている。

 これはいい発見だ!と思ったのも束の間。

 ふたつ以上商品を注文したらひとつがいくらなのわからない……。

 

 でも、まあ、だいたいの目安にはなる、か。

 テーブルの上に置きっぱなしのスマホをとって時間を確認すると十時半すぎだった。

 

 ここで時間を確認する方法ってスマホを見るしかないのか? スマートウォッチなのに時間の確認ができないなんて本末転倒だな。

 でもそれも心理戦のひとつか。

 

 時間がわかれば簡単に生存ポイントが推測できてしまう。

 どっちみち生存ポイントはみんな同じポイント数だけど。


 朝食あさべてなかったのを思い出して物資の中から菓子パンをとってかぶりつく。

 さっき冷やしておいた支給品のペットボトルのカフェオレを冷蔵庫からとって開ける。

 菓子パンとカフェオレも、これはこれで合う。


 簡単な食事をすませ、部屋からカートを押して扉の右側にあるカート置き場までカートを運んでいく。

 ここに置けばいいんだな。


 部屋に戻ってからまたスマートウォッチとモニターを連動させ集合時間まで

ECサイトで時間を浪費つぶす。

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