第23話 ECサイト 【日曜日:Sunday】

 部屋にそのままカートを押していく。

 鍵をかけたあとはカートの上でダンボールのガムテープを剥がす。


 蓋を開いてダンボールのなかをのぞきこむと中にはパンやにカップ麺、スナック菓子、缶詰などの食べ物がきれいに整頓されて入っていた。

 チョコやクッキーの甘いお菓子としっよぱい系のスナック菓子もある。

 飲み物も数種類入っていた。


 弁当類やホットスナック類がないのは保存環境と賞味期限の問題だろう。

 これで宮野さんの言っていたカートはあらかじめ用意されていたという動機付けが強固なものになった。

 この物資が喫緊で用意されたものなら、こんなに長期保存できるようなものばかりじゃなくてもいい。 


 長期保存ができる、この、防災セットのような……。

 ぼ、防災セット。

 昨日、俺、店長に防災セットのこと訊かれたよな? もしかしてうちの親会社ってこんな物を大量に作ってるのか? さすがにこれとは関係ないか?


 このご時世、自然災害だなんだって、自分がいつどこで避難所にいくことになるかもしれない。

 もともと大量に作ってあった防災セットをこっちに回しただけか。


 歯ブラシに歯磨き粉、洗顔フォームにカミソリまで入っていた。

 シャンプーとリンスの小ボトルと同じように小さいボディーシャンプーと化粧水まである。

 いわゆるお出かけセット一式。

 これもうちのコンビニに置いてあるやつだ。

 というか系列会社に理美容の会社があってそこで作ってるオリジナルブランドの商品。


 書籍類も七、八冊入っている。

 ここじゃスマホも使えないし娯楽もないからって心遣いか。


 コンビニ特有のあの紙の品質の悪い分厚い漫画数冊と急近きゅうきん陽菜ひなの「窒息の家族」と「2-1の生存者」の文芸作品もある。

 作家志望なんだからこれでも読めってか? 他の人はどうかわらないけど俺はもうすでに読んでますよ。

 

 結局この本のラインナップってこのダンボールの中身を選んだ人のセンスだよな?    

 ああ、これも昨日、店長に訊かれたあの質問か? 流行りの娯楽用品のことも訊かれた。

 この物資の中身って誰かひとりの個人的な意見じゃなく従業員アンケートから総合的に判断されて選ばれてるのかもしれない。


 とりあえずダンボールの中身はひととおり確認したからカートからダンボールを降ろして床に置いた。

 飲み物は冷蔵庫で冷やしておこう。


 物資の仕分け作業が終わったころ腕のスマートウォッチからアラームが鳴った。

 こんな機能があったのか?ってふつうにある機能がここで初めて使われただけか。

 でもブックマンはこのスマートウォッチにいくつかの隠し機能があるって言ってたっけ……。


 液晶パネルの上で揺れている鈴のマークをタップした。


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【お知らせ】


モニターの電源をおつけください。



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 スマートウォッチを使って俺らに連絡を知らせるわけか。

 今回はモニターの電源をつけろという指令だ。

 これ三木元さん出来てるのかな? 部屋に弓木さんがいるわけじゃないし心配だ。


 モニターの電源を押すとスマートウォッチの液晶パネルが反応した。

 パネルには縦に二等三角形が並んだようなマークが点滅していて「Bluetooth」と書かれている。

 このスマートウォッチにブルートゥースも搭載されてるんだ。

 そのままモニターとスマートウォッチ自動で連動したようでモニターにスマートウォッチのパネルと同じ内容がそのまま映っていた。

 

 モニターの画面が自動で切り替わって、一般的なECサイトにジャンプした。

 そっかこのモニターが商品を注文するときの専用端末になるのか? たしかにこのスマートウォッチだけじゃ画面が小さすぎて長時間の買い物は不便だ。


 このECサイトってうちの会社のサイトのようだけどすこし違う。

 俺はモニターの液晶画面を直接タップしていると俺の名前と出版ポイントが表示された。


 おっ、ここで自分のポイントが確認できるんだ。

 というかこの出版ポイントが買い物をするポイントとイコールなんだから当然か。

 

 画面の右下にはキーボードのアイコンが出ている。

 これをタップすると画面の下半分にキーボードが現れた。

 これで文字を打っていけばいいんだな。

 

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「002」=「諸星もろぼしけん」さん。 出版pt「11000」


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 出版ptが「10900」から「11000」になっていた。

 そっかあれから一時間が過ぎたからつぎの生存ポイントが加算されたんだ。


 一時間生きていれば「100」ポイント加算される。

 レート的には「100」円と呼んでもいい。

 なら二十四時間生きていれば「2400」ポイントもらえる計算だ。

 日給「二千四百円」と同じこと。


 ここにいて一日、二千四百円使えるなら生活に支障はない。

 あとはいかに使わないで貯めていくかだ。


 スマートウォッチと連携したモニターは大型のタブレットの役割を果たしている。

 ECサイトの真上に検索窓があってそこに文字を入れるとサイト内の商品を探すことができる。

 単純なショッピングサイトと同じだ。


 試しに飲料のカテゴリーを選んでこのECサイト買える飲み物一覧を表示させてみた。

 冷蔵庫に入っているミネラルウォーターや支給品に入っていた飲み物もある。

 うちの親会社がやってるECサイトだ。 


 でもふつうのECサイトと決定的に違う点がひとつある。

 それは商品の値段すべてが俺らの出版ポイントのようにアスタリスクで隠されていること。


 たしかにこれだと自分がいくら使ったのか大雑把にしか把握できない。

 でも、コンビニ働いている俺にとってはメリットだ。

 なんとなくわかってきた。

 

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