第21話 エレベーター 【日曜日:Sunday】
俺らは散り散りでエレーベーターに乗り込んだ。
カートには「001」「002」「003」「004」「005」「006」「007」「008」までのナンバーが割り当てられていてカートに積んであるダンボールの上と横にも「001」から「008」までのシールが貼ってあった。
エレベーターは八人乗ってもビクともしない。
何キロまでもつんだろう? 積載荷重が書いてある。
一トン?って千キロか。
八人がいっせいにエレベーターの中に乗っても肩がぶつかることもない。
おそらくそれぞれが両手を広げてもかすりもしないくらいの広さだ。
宮野さんはエレベーターの外側と内側のボタンを見比べたあとに自分の「007」のカートの周りを観察するように一周した。
「なるほど」
「なにがなるほどなんですか?」
気になったので訊いてみた。
「これはあらかじめ用意されていたものだ」
「それはそうじゃないですか?」
「あらかじめってのは時間のことさ」
「あらかじめの時間ってどういうことですか?」
「諸星くんはあらかじめで想像する時間って何時間前だい?」
「えっ、それは、まあ、五、六時間くらい前とかですかね」
「あらかじめは”あらかじめ”さ。そこで想像する時間は人それぞれ。すくなくともこのカートとダンボールに番号が割り当てられている以上、僕らが番号かペンネームか本名かを名乗るアンケートをとる前に、このカートたちはこのエレベーターの中にあったってことになる」
「それはどうだろうな? 番号で名乗ろうが、ペンネームで名乗ろうが、本名で名乗ろうが運営はそのまま最初に割り当てた番号で通すかもしれないだろ? 宮野さんが本名で”宮野”と名乗ってもペンネームでアルファベット”MIYANO”で名乗っても007のシールを貼っておけばいい」
「006」の疑問ももっともだと思った。
どう名乗ろうがそれとカートとダンボールの名義は別のことだってあるだろう。
「ブックマンの動きは早い。僕の出版ポイントをすぐに採用して画面に反映させた。すくなくともブックマンはこのゲームを快適に過ごせるように工夫をしてる。それにブックマンポイントっていうのもうまい仕組みだと思ったよ。まるでサクラのように小さくポイントを与えて素早くゲームを動かそうとしてる。自分が一位じゃないことを漠然と知らしめさせみんなの競争心を煽る。ブックマンポイントなら絶望的なほどの差にはならないしね。それでいながらも気になってしまう」
「たしかにあいつはこのゲームをスムーズに進行させようとはしてるな」
ブックマンのことをあいつと呼ぶのは「006」くらいだ。
俺は心の中でだけブックマンのことをあいつと呼んでるけど。
「その点からも」
宮野さんがまだ言い終わっていないのに門倉さんが割って入ってきた。
「ブックマンがスムーズにゲームを進行させるなら僕らに割り当てたこのゼロぜロの二桁ではじまってそのあとが1、2、3、4、5、6、7、8でつづく数字にしないと思いますよ。アラビア数字は読み間違いが多いので名前で表記できるなら表記したいはずです」
門倉さんの考えは宮野さんの考えよりもさらに踏み込んでいた。
「ありがとう」
宮野さんの礼はこれから自分が言おうとしてたことを先に言ってれてありがとうの意味にとれた。
「見ようによっては0、3、8なんか丸みのある数字は同じ見えるかもしれないでしょ?」
門倉さんはさらに俺らを納得させる条件を揃えてくる。
門倉さんのその話は説得力あるな。
俺もそっち意見に傾いていった。
「宮野さんや門倉さんの言うとおり、どう名乗るのかを決めてからカートとダンボールを用意したのなら俺のカートとダンボールは諸星健になっていたと思います。だからやっぱりこのカートとダンボールは
「まあ、それで確定なんだけどね」
えっ? 宮野さん。いまなんて? 確定だって断定したよな?
「な、なんでわかったんですか?」
「これだよ。これ」
宮野さんはエレベーターの内側にあるボタンを指差した。
三角形の図形を使った「ひらく」ボタンと「とじる」ボタン、それに上向きの正三角形マークと下向きの正三角形マークの「上昇」と「下降」のボタン。
それでなにがわかるっていうんだ? とりあえずこのエレベーターには【B1、1、2、3、4、5】のような階数表示がないのだけはわかった。
階数がないなら途中で止まることはない。
どこかまで上がっていって、ここまで降りてくる一往復分だけのエレベーターだ。
「僕ね。大広間にきてからずっとこのエレベーターを見てたんだよ」
「ええ」
そういえば宮野さんってブックマンがゲームのルール説明してるときもモニターとエレベーターのどっちもが見えるポジションにいたな。
あれでなにかを調べてたってことか?
「そこでわかったこと」
「早く言えよ」
俺よりも早く「006」が宮野さんを急かした。
「エレベーターは一度も動いていない」
「そうか。ふつうのエレベーターなら動いてさえいればこの”ひらく”ボタンや階数の表示板のようにどこかが光っているはずだ」
「006さん。正解」
「ということはこのカートとダンボールは
そういうことか。
俺らがどう名乗るかなんて関係なかったんだ。
エレベーターが動いていたかいないかですべてがわかる。
仮に宮野さんが大広間にくる前にエレベーターが下がってきたとしてもその時点で、誰がどう名乗るかなんてまだ結果が出てないとき。
よって最初からこのカートとダンボールは番号表記だったということになる。
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