【月曜日:Monday】
第30話 お調子者 【月曜日:Monday】
気づけば朝になっていた。
午前零時が過ぎるのを確認していっきに気が抜け寝落ちしたんだろう。
スマホを見るとタイマーをセットした時間よりも早くに目が覚めた。
これならタイマーをセットする必要なかったな。
時計のアイコンの下にある「解除」をタップしてもういちど布団に包まる。
いま俺のバイトってどうなってんだろ? 一昨日は正式に休みをもらってるけど昨日は無断欠勤だ。
店長も一日くらいは様子を見てくれるだろうけど、さすがに今日も休みとなると俺のことを捜しはじめるかもしれない。
スマホも圏外だからなにかの事件に巻き込まれたかもしれないってことになるよな。
でもいまの俺には外部と連絡をとる手段がない。
どうすることもできないのも事実。
理解されないかもしれないけど本を出版するっていう手土産を持って謝りいくしかない、か。
※
十時すこし前に大広間にいくとエレベーターの近くにみんなが集まっていた。
同じ時間にまとめて荷物が届くんだ。
当たり前か。
運営もカートと荷物をひとまとめにしてエレベーターに積めばいいんだから効率がいい。
昨日、気分を悪くして帰っていった三木元さんもいる。
ただ弓木さんをのぞく俺たち全員から距離をとっているようだった。
それも仕方ないか。
ん? あれ?
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「A」「B」「C」「D」「E」「F」「G」「H」「I」「J」「K」「L」「M」
「N」「O」「P」「Q」「R」「S」「T」「U」「V」「W」「X」「Y」「Z」
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「あっ!? アルファベットが消えた」
俺の声でみんなもいっせいに左側のモニターに注目した。
俺は二十六文字あるアルファベットのなかで四つだけ点灯していた「F」「M」「S」「W」のうちのひとつ「M」が消える瞬間を目撃した。
「僕たちがここで目覚めたときは日曜日だった。今日は月曜日。そうですよね?」
俺は誰にでもなく言った。
「じゃあ。やっぱりMが消えたのは月曜日の
門倉さんは自分の推理が正しかったと言わんばかりにはしゃいでいる。
「いやいやおかしくなか?」
権藤さんは人の輪からひとり出てアルファベットのあるモニターを指差した。
「なら昨日の日曜のサンデーのSも消えてないと」
権藤さんはそのまま昨日のSundayを示しているという「S」に指先を移動させていった。
「006さんの言う通り僕もおかしいと思う。ただSに関しては土曜日の
そうだ。
宮野さんのいうとおり。
俺はいまこの瞬間に「M」の表示が消えるところを見たんだ。
こういうのってふつうは日曜日が終わったと同時に「M」が消えるはず。
むかしは郵便の当日消印有効なんてのが多かったけど、今はネットから公募の場合の締め切りは日付が変わった瞬間に打ち切られる。
デジタルにかぎっては一秒のゆとりもないはずだ。
「たしかにね。となると日付が変わる瞬間に立ち会わないと確認は無理か。まあ、いま考えてもしょうがないよね」
門倉さんはぷいっとモニターから顔を背けるとあまり興味を示さなくなった。
やけにあっさりしてるな。
でもなんだか頬の筋肉が緩んだかんじがした。
門倉さんは「008」のカートを押しながら小鳥遊さんのカートに横づけするように小鳥遊さんの隣に並んだ。
「優奈ちゃん。渡辺って名字の家は節分のとき豆をまかなくていいの知ってる?」
興味の対象が小鳥遊さんに移ったからか。
小鳥遊さんは昨日と同じでように今日も萌え袖だ。
門倉さんが萌え袖にやられたのかどうかわからないけど門倉さんは小鳥遊さんをぴったりマークしていた。
「知~ら~な~い」
「
「ふ~ん」
歴女なら門倉さんと会話も弾むかもしれなけど小鳥遊さんはあまり興味なさそうだった。
「そうそう。僕、歴小説家志望だからそのへんは詳しいんだよね?」
小鳥遊さんはそのあとも空返事で対応している。
「そのころの武士の怨念とかってすごくてさ」
「優奈。怖い話苦手なんでやめてください」
「ご、ごめんね。なら小説についてわからないことがあったら僕になんでも訊いてよ」
二日目にもなると門倉さんの性格もわかるようになってきた。
お調子者だけじゃなくウザ絡み系でもある。
「諸星くんは歴史小説って書いたことある?」
「002」カートを押しながらふたりの脇を通りすぎようとしていた俺は門倉さんにとうとつに訊かれてうろたえた。
「えっ? いや、あの。歴史小説ではないけどじつは近藤勇と土方歳三に確執があって新選組の衰退に繋がったみたいな短編小説なら書いたことはあります」
「いやいや。それは荒唐無稽すぎるでしょ? あのふたりと沖田総司は切っても切れない関係だったんだからさ」
書いたことあるかって訊かれたから俺は正直に答えただけなんだけど。
門倉さんって女がいるとテンションが上がって相手の勝てそうなところを見つけマウントをとるタイプか。
「べ、勉強になります」
ここをキャバクラとでも勘違いでもしてんのか? 俺は完全に踏み台にされた。
歴史小説を書き慣れてる人に対し、付け焼刃で書いた歴史小説じゃ適わないことくらいこっちだってわかってるよ。
もっと歴史的な考証をしてそれをベースにフィクション化しないと読むにさえ値しないってことだろ。
俺もそのあとは空返事だけしてカートを押した。
「僕さ。出版されたときに使うペンネーム沖田にしようと思ってるんだ。沖田なんとか。真田とか伊達もかっこいいかな。優奈ちゃんのペンネームは?」
「私はまだそこまで考えてないでーす」
こんなときなのに小鳥遊さんは萌え袖を崩さずに門倉さんを追い払うような仕草をみせた。
それが逆に門倉さんを喜ばせたみたいだ。
そこまで女の感情がわからないっていうのも逆に尊敬するな。
小鳥遊さんその態勢のまま目を見開いた。
なににそんな驚いたのかと思ったら門倉さん背後のずっと奥から大広間に入ってくる人がいたからだ。
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