【日曜日:Sunday】
第11話 目覚め① 【日曜日:Sunday】
「バイト。遅れる!」
今のって自分の声か? 自分が蹴った布団が床に落ちる瞬間が目に入った。
ああ、ヤベー、寝過ごした。
今日のシフトってなんだっけ? 昼勤? 前夜勤? 夜勤? 俺は自分の寝言で飛び起きたみたいだった。
まだ心臓がバクバクしてる。
って、早く準備してバイトに行かないと。
ん、ここどこだ? 俺はベッドから辺りを見回した。
ぜんぜん見たことのない部屋。
見知らぬ部屋だ。
いつも見ている壁や天井と模様が違ってる。
なによりも自分部屋とニオイが違う。
自分の家なら芳香剤でも隠し切れないニオイがするはず。
この部屋はよくいう自分の家とは違うニオイ。
誰かが来るからって急拵えで消臭剤をまいたようなニオイだ。
無理やり起こした気怠く重い
俺が着ているこの青い服はつなぎってやつでパジャマじゃない。
青いつなぎの左胸には「002」というナンバーが縫われていた。
イメージだけど海外の囚人服みたいだ。
そもそも俺は家で寝るときスエットの上下を着ている。
だからこれは自分で着替えたんじゃないのは一目瞭然だった。
誰かに
それと俺の左手首にぴったりとはめらているこれは? 俺が右利きなのを知ってるのか? 街中でもこれと同じようなものをよく見かける。
おそらくはスマートウォッチだろう。
スマートウォッチの中央には角が丸い縦長の液晶画面がついていた。
試しに画面にタッチしてみるとすぐに指に反応した。
やっぱりこれ指やタッチペンに反応する液晶画面だ。
でも、こんなデザインのスマートウォッチは見たことがない。
どこの会社が
にしても俺の手首にぴったりのサイズだな。
俺は液晶画面の裏にメイドインどこどこのような文字が書いてあるかもしれないと思ってスマートウォッチのバンドと皮膚のあいだに指を入れてみた。
痛ってぇ!
な、なんがチクっと針で刺されたような痛みが手首を駆け巡っていった。
これって冬場に風呂に入る瞬間よく起こるあれに似ている。
そう静電気。
バンドに入れた指と手首に電流が流れた。
このスマートウォッチに電気が流れる仕掛けがしてあるのか? なんのために?
ただの自然現象かもしれないから、もう一度、恐る恐るスマートウォッチのバンドを引っ張ってみた。
痛って! やっぱり手首に痛みが走る。
今度の痛みはビリッともバチッとも違うズキンって感覚だった。
さっきよりも痛いのはたしかだ。
スマートウォッチのバンドを引っ張る力に比例して電流が強くなるのかもしれない。
これじゃあ液晶画面の裏側は見れないな。
俺はこれ以上このスマートウォッチのバンドに力を加えないほうがいいと判断した。
俺は誰かに監禁されたのか? この態勢からでも斜め向かいのテーブルに俺のワンショルダーリュック置いてあるのがわかった。
「002」という刻印された鍵もぽつんと置いてある。
あれがこの部屋の鍵だろう。
ついでにボックスティッシュまである。
ベットから抜け出てしてみて裸足であることにあらためて気づく。
なんとなくフラフラするな。
俺は素足のままフローリングの床に降りてリュックの中をひととおり調べてみた。とくに盗まれているものはなかった。
昨日ワンショルダーリュックを背負って出掛けたときのままだ。
スマホもちゃんとあるけどゆいいつ服だけがない。
スマホに関しては俺が使っていたときのバッテリーの残量だと思うけど細かく覚えていないな。
スマホの電源は入っているけど圏外でスマホを手に部屋の四隅を巡りスマホをかざしてみたけどWi-Fiもなさそうだ。
ついでに部屋のなかにある扉を開いていく。
最初の扉は浴槽とシャワーが一体になったユニットバスだった。
トイレもここにある。
浴槽とシャワーはトイレと防水カーテンで仕切られていてこっち側に鏡と洗面台もある。
ボイラーはキッチン側にあるのを確認した。
壁に埋まっている観音開きの扉を開いてみるとそこはクローゼットだった。
中には俺が着ていた服一式が圧縮されたビニールに袋に入って置かれていた。
まるでクリーニングから帰ってきたみたいだ。
ただひとつ不自然な点があるそのビニール袋がチェーンでぐるぐる巻きになっていること。
これこのビニール開くの無理だな。
なんとしても着替えるのを阻止しにきてる。
まあ、とりあえずはこの「002」のつなぎでいるか。
他にまだ使われていないタオル類やバスタオル類が数枚ずつがきちんと畳んで置かれていた。
俺が中に入って手を伸ばした位置に金属の棒があっていくつかハンガーがかかっている。
この部屋にあるもうひとつの扉がおそらく部屋の出入り口だろう。
部屋の中はほんとうにこじんまりして八畳ほどのワンルームくらい。
俺が住んでいる家はふた部屋はあるから、ここは俺の部屋よりも狭い。
狭いなりにもこの部屋にはキッチンと冷蔵庫がある。
冷蔵庫の上にはラックがあってそこに電子レンジが乗っている。
乾燥機つきのタテ型洗濯機、エアコンまである。
冷蔵庫の扉は上下が一対二の比率でふたつ分かれていて冷凍庫は空っぽだけど開けた瞬間に冷気が漂ってきた。
冷蔵庫を開けると五百ミリの水のペットボトルが七本だけ入っていた。
ペットボトルを一本、手に取ってみて驚いた。
俺がバイトしてるコンビニのプライベートブランドのミネラルウォーターだった。
俺がバイトしてるからってのと関係あるのか? よくわからない。
なんだかんだいっても部屋の中は快適だ。
テレビもあるけど、これはいわゆるモニターってやつでテレビ番組を観ることはできない。
電源ボタンを押すと「電源」という文字の下だけがオレンジ色に光って通電は確認できた。
画面にはなにも映らず、ただ青いつなぎを着た俺が反射して映っている。
これだけの生活必需品が揃っていれば、ここから毎日バイトに通えといわれてもそれほど我慢を強いられる生活にはならないだろう。
キッチンの前に立ち右側の青い印のついたほうのハンドルをひねると蛇口から水が出てきた。
青のハンドを元に戻して赤い印のついた左のハンドルをひねると湯沸かし器から大きな音がして数十秒でお湯に変わった。
お湯の温度は一般的にぬるま湯といわれる温度感で、ちゃんと温度設定されてるようだった。
ガス台のスイッチを押してみるとカチカチカチカチっと音がしてボワっと火が点いた。
ガスもちゃんと通ってるみたいだ。
目覚めたときから部屋は明るかったけど、電気水道ガスは完璧だ。
俺が気づいたかぎりだけど、この部屋にはコンセントの差込口が三か所ある。
これでようやく部屋の全体像がつかめた。
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