第6話 責任の取り方

 リンザローテは自ら退学を選んだようで、アルトへの謝罪を終えた後で校長に届けを出す予定であったらしい。


「どうして会長が退学を?」


「わたくしは生徒会長という模範になるべき立場にありながらも、己の都合で一人の生徒の人生を捻じ曲げようとしたのです。そんな人間こそ罰を受けるべきですし、責任を取るべきでしょう?」


 リンザローテは理不尽にアルトを処罰して退学させようと考えたのだ。これは当然ながら許されざる行為であり、その罪を自覚するリンザローテは学校から身を引こうとしたのである。

 だが、アルトは異を唱えてリンザローテを引き留めた。


「そりゃ悪い事ではありましたけど、俺は別に会長が退学をする必要は無いと思います」


「なんでです? あなたに多大な迷惑を掛けたのですよ、わたくしは」


「でも、結果的に無事に事態は収まりました。それに、俺は会長を恨んでもいません」


 校長のおかげもあってアルトは学校から追い出されずに済んだし、何よりリンザローテに対して怒りだとかの感情を抱いていない。それは、ヴァルフレアという真のクズ人間を目の当たりにしたからでもある。


「今回の被害者である俺が会長の処罰を望んではいません。しかも、校長先生から会長へのお咎めなんかも無かったのですよね?」


「ええ、まあ……入学式の会場で校長先生と再びお会いしましたが、特に此度の事については何も……」


「今回の間違いは反省して頂くとして、辞めなくてもいいんですよ」


「ですが、それでは気が収まりません。わたくしは、わたくし自身を許せないのですわ」


「ならば、別の形で責任を取ってもらうってのはどうです?」


 アルトは何か思いついたようで、人差し指を立てながら提案しようとした。

 だが、リンザローテはアルトが言葉を続ける前に、何を思ったのか急に制服を脱ぎだし始める。


「か、会長!? 一体どうして服を脱ぐんですか!?」


「別の形で責任を取らせるおつもりなのでしょう? つまり、わたくしの貞操……純血をあなたに捧げると……」


 顔を赤らめながら、更にリンザローテは肌を晒していく。布の擦れる音が卑猥な雰囲気を醸し出して、アルトもまた耳まで真っ赤にしていた。


「やっぱり、恥ずかしいですわね……」


 窓から差す夕陽に照らされた色白の柔肌は美しく、大きく実った胸は緊張のせいかうっすらと汗ばんでいる。リンザローテの整った顔立ちも相まって、淫靡だとかを通り越して芸術品のようだ。

 思わずアルトも目が釘付けとなり、思春期男子としての本能から心臓が高鳴っている。


「さあ覚悟は出来ましたわ。あとは、あなたのお好きになさってくださいませ……」


「ちょっと待ってください! 俺が言いたいのは、そういう事じゃありませんよ!」


「…えっ?」


「いいから早く服を着て下さい! こんな状態じゃマトモに話を続けられません!」


 アルトは己の理性をフル動員し、邪な気持ちを祓って目を背けることに成功した。同年代男子の多くが羨ましがるような機会を得ながらも、こうして理性を保てるのは褒められていい。

 この刺激的過ぎる光景は記憶に納めることにして、リンザローテが制服を着直すのを悶々としながら待つ。


「わたくしにこうも覚悟をさせながらも拒否したのですから、あなたも大概罪な男ですわね」


「いや、そちら側の勝手な早とちりでしょうに……というか、会長って意外とエッチな思考の持ち主なんですね」


「し、失敬な!! 責任を取るといったら、体でというのが社会では普通だと書いてありましたが!?」


 社会経験の少ないアルトだが、さすがにコレが間違った知識であるのは分かる。


「どこに…?」


「この前、ゴミ拾い活動中に拾った漫画本に」


「それってエロ系の漫画なんじゃないんですか…?」


 生徒会長に任命されるような人物が、そんな妙な知識を怪しまずに身に着けるのはいかがなものだろうか。今回はアルトが相手であったから良かったものの、もし別の人間に同じような対応をしていたら、リンザローテは純血を奪われていたかもしれないのだ。


「で、一体わたくしにナニをさせるおつもりなのですか?」


「ああ…それはですね、俺に勉強を教えて欲しいんですよ」


「勉強を?」


 リンザローテは拍子抜けをしたように、キョトンとしながら訊き返す。勉強を教える程度であれば造作もないが、それがどうして責任を取る事に繋がるのか理解できなかった。

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