第41話

 食事が終わるとチンカウバインが話を切り出した。


「少し横になろうか。もう夜だよ」


 俺とリンカは横になる。


 ライトが薄暗くなった。


「リンカは冬休みなのにどうして学園に残っていたのかな?」

「……フィールにお礼を言いたかったのよ」

「事件があって言う機会が無くなったよね?」


 リンカは横になったまま向こうを向いた。


「フィール、色々助けてくれて助かったわ」

「いや、もう少し早く助けたかった」

「でも、助かったわ」


「……」

「……」


「私は、強くなったと思っていたわ。フレイムキャットを2体同時に出せるようになって、体力をつけて、速力も上げて、それでも結局フィールに助けられたわ。あの時、怖かったの。攫われて、酷い目に合ってしまうのが怖かったの」

「うん」


「今でも怖いの。あいつがまた来て、襲われるんじゃないかって考えるだけで怖いわ」

「うん」


「だって、一回捕まったのにまた脱走してまた私の前に現れて寝ていると急に魔法を使われて攫われるかもしれない。あの笑い方が、あの顔が怖くてたまらない。袋に入れられて攫われそうになって何も出来なかったわ!」


「リンカ、汗が凄い。少し休もう」

「そ、そうね」


 体力が戻って、お風呂に入って食事を摂っても、心の傷は簡単には癒えない。

 安心して寝ていたら急に豚男爵がいた。

 そして魔法で自由を奪われ連れ去られそうになったら俺でも怖い。


「ここなら、大丈夫だ」


 俺はリンカの手を握った。

 リンカの汗が凄い。

 ただでさえこの部屋は少し暑いのだ。


 俺もリンカも中々眠らない。


「リンカがいて、緊張する」

「何でよ!」


「リンカみたいな子が隣にいたら、普通の男は緊張するだろ」

「……うん、そ、その、実は、私も、緊張、しているわ」

「同じ理由か?」

「そうよ」


「リンカが傷ついているのに、はあ、はあ、体が熱くなってくる」

「私も体が熱いわ。チンカウバイン!涼しくしなさいよ!」


 恥ずかしいんだな。

 リンカが恥ずかしがっている姿が可愛い。

 チンカウバインは棚の上で目を閉じて横になっている。


「寝たのか?チンカウバインも普通に寝るからな」

「そう、フィールも、フィールでも、私で興奮してるの?」

「え?何でそんなこと聞くんだ?」

「いいから答えなさいよ!」


 リンカが向こうを向いて顔を隠した。

 恥ずかしいんだな。


「何度も言わせないでくれ。興奮するに決まっているだろ。コロシアムのリングで好きだと言って強引にキスまでシテ、舌まで入れたんだ。いいと思っていないならやらない」

「ふ、ふふん、そうなのね」


「……触るだけならいいわよ」

「……え?」


「触っていいのか?」

「いいわよ」

「キスをしても」

「キスはまだ駄目よ!」


「触るのは良くてキスが駄目って、基準が分からない」

「……フィール、出来る所までする気ね?」

「そうだけど?」


 俺は変顔をした。


「ぷ、何よその顔」

「面白いかと思って」

「そうね、フィールのを私の中に入れるのは駄目、キスも駄目、それ以外なら何をしてもいいわ。フィールが気持ちよくなるなら、お礼が出来るなら、うん、お礼をするわ。キスと、フィールのを中に入れる以外なら何でも言う事を聞いてあげるわ」


「無理してないか?」

「恥ずかしいに決まってるじゃない!」


 キスと1つになる以外何でもOKで言う事まで聞くって、色々出来るだろ!


「そっか。もう我慢できないぞ」


 2人で横になってリンカは向こうを見続けている。

 俺はリンカを後ろから抱いて頭を撫でた。


 リンカの体が少し硬くなった。


「怒らないのか?」

「怒ると思ったの?約束は守るわよ」

「いや、リンカはまじめだけどさ、頭を撫でられると屈辱を感じそうだと思った」


「ふ、悪く、ん、ないわ」

「良かった。何度もこうしたいと思っていた」


 手を絡ませて腕を撫でて、太ももを撫でるとリンカが反応した。

 俺は声をかけず、無言でお腹や背中、更に違う部分も撫でていく。


「ま、待って!私は胸が大きくないし、お尻も大きくは、ん!」


 俺はずっとリンカを撫で続けた。

 やって欲しい事は一切言わず、ただ抱いて撫で続けた。




 ◇




 リンカは、朝になるまでほとんど、口を押え続けていた。


「リンカ、お風呂に入ろう」

「ふぁ、ふぇ?お。おふ!」


 俺はリンカと一緒にお風呂に入った。

 リンカの頭を洗って、腕も足も背中もその先も全部洗った。


 リンカは俺から顔を背けて、ずっと口を押えていた。


 一緒にお風呂に入ってもリンカは顔を背け続けた。


 風呂から上がると、お腹がすいている事に気づく。



「食事にしよう。食べると落ち着く」

「そうね」


 そう言いながらワンピースではなく下着を着ていた。


 部屋には明らかに電子レンジと同じものがあり、ベッドの上からパンと食事を温めて食べた。


 リンカの目がとろんとしていた。

 思えば、リンカは殆ど眠っていないし俺もあまり寝ていない。


「少し、眠ろう」

「そう、ね」


 そう言って2人でベッドに横になって目を閉じた。

 リンカはすぐに寝息を立てる。




 眠る前にチンカウバインの寝る棚を見た。


 布を被りながら、俺とリンカを見ている、そう思った。


 こいつ、雰囲気を作っている!


 変わらないと思っていたけど、チンカウバインの行動が変わった?


 いや、この日の為に作戦を考えていたな!

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