第40話
話は元豚男爵を気絶させた所までさかのぼる。
俺はリンカを抱き寄せる。
ずたずたに引き裂かれ生まれたままの姿になったリンカはそれでも俺にしがみつくように抱きつきながら泣いた。
元豚男爵は速やかに王都に移送された。
ベヒモスに引きこもったゴレムズは弱点がバレて包囲され続けている。
リンカは俺に抱き着いたまま眠らない。
ブーン!
奴が、来た。
「リンカ、ラブハウスに行こう。食べ物を持ってラブハウスに入れば怖い人は来ないよ」
心配して様子を見に来たみんなが同意する。
「そうよ、妖精の守りとフィール君の守りがあれば安心だわ」
「そうね、チンカウバインとフィール君に守って貰いましょう」
「早くいきましょう」
「今食べ物を持って来るわ!」
「私は服を着せるわ!」
みんなはチンカウバインの意図を誤解している。
守る目的もあるがアレの目的もあるのだ。
「リンカも行くよね?」
リンカはこくりと頷いた。
女子生徒がリンカに服を着させて、大きなバスケットいっぱいの食べ物を持って来た。
そして、ラブハウスに入る前にみんなが見送る。
アイラも冬休み中は学園に残っており、俺に抱き着いた。
そして耳元で小さく囁いた。
「次は私だよ」
離れたアイラを見ると満面の笑みで手を振る。
「……」
「……」
なぜだろう?アイラは笑っている時が一番怖い。
「行って来る」
「イッテ来るよ!」
リンカは言葉を話さずに手だけを振った。
そしてラブハウスに入る。
「ラブハウスはパワーアップしているよ!ティータイム機能を追加したんだ!ライトの配置も工夫したし、コスプレ衣装をかけたハンガーを追加したよ!洗濯も出来るし便利になっているよ」
チンカウバインのテンションが高い。
ラブハウスに入ると常に空中を飛び回っている。
無視しよう。
「リンカ、何か食べるか?」
「いいわ。それより、体を洗いたい」
「……この風呂に?入るのか?」
ガラス張りで丸見えだ。
「あいつに触られた部分を洗い流したいわ」
「……ああ、気持ち悪いよな」
「一緒に入ればいいよ」
「一人で、入るわ」
「でも、見られるよ?一緒の方が見られないと思うけど。リンカだってフィールがお風呂に入ったら見ちゃうよね?」
「か、隠すから平気よ」
風呂が床に沈むように作られている。
タオルが無くて障害物が無い為隠すのは難しいと思う。
「うん、分かったよ」
リンカが服を脱ぐ姿を見てしまう。
「リンカの服は洗っておくね。邪悪に触られた後に着た服はしっかり洗っておくよ」
チンカウバインはさりげなく服を没収した。
石鹸だけがあって、リンカが念入りに体を洗う。
そして俺をちらちらと見ていた。
恥ずかしいんだろうな。
でも、石鹸を泡立てて恥ずかしいのを表情を出さないようにしながら泡で体を隠すリンカが可愛い。
リンカがお風呂に入ると、気持ちよさそうな表情を浮かべた。
リンカが風呂から上がるとびちゃびちゃのまま出てきた。
「た、タオルは!?」
「無いよ。すぐ乾くから大丈夫だよ。今リンカを狙うように温風が当たってるよね」
「服は?」
「洗濯中だよ。この衣装から好きに選んで着たらいいよ」
「え?下着?」
「水着だよ」
「水着を着てから、ワンピースを着れば何とか」
「それはルール違反だよ」
「何でよ!」
「ルール違反だよ。この空間では1セットのみしかコスチュームをつけられないよ」
「ワンピースを着るなら下着をつけられないじゃない!」
「そうだよ?」
「ちょ、さっきから見えてるから。まずはワンピースを着ておこう。チンカウバインは絶対に言う事を聞かないから」
リンカはムスッとしながらワンピースを着た。
体にぴったりと張り付くようなワンピースで丈が短い。
そして布がペラペラで薄い。
あの安っぽい生地がエロい。
全部チンカウバインの計算だろう。
チンカウバインは俺すら誘導しようとしている。
「それで、お風呂は良かったかな?」
「お風呂がしゅわしゅわしていて良かったわ」
俺は2人のやり取りを黙って聞く。
「始めての体験だったかな?」
「初めてだったわ」
「リンカの初めてだったかな?」
「私の初めてだったわ」
「……俺も風呂に入って来る」
「洗濯しておくよ」
「ああ、頼む」
俺は風呂に入った。
確かに居心地がいい。
風呂から上がるとパンツが1枚出てきた。
チンカウバインは男用のコスに力を入れていないようだ。
「水飲み場なんかはベッドを降りずに飲めるんだな」
「スイッチを押すと水が出るのね。お湯も出るわ!」
「トイレやお風呂以外は大体ベッドの上でデキるよ」
「狭すぎるわね」
「狭いね」
「広くしなさいよ」
「出来ないよ」
「何でベッドが1つだけなのよ。この大きさならベッドを2つに出来るでしょ」
「出来ないよ。紅茶パックもあるよ。お湯を注いでティーパックを浮かべておけば紅茶になるよ」
「……面白そうね」
チンカウバインは話を逸らした。
リンカはベッドの上にある棚からティーパックを取ろうとする。
丁度俺の顔に胸が来るように計算されている。
カップを取ろうと後ろを向くとリンカのお尻を隠すワンピースが少しだけ上にずれる。
俺はチンカウバインを見た。
ニコニコとほほ笑んでいた。
「凄いわ!お湯に浸すと紅茶の色になっていくわ!」
「そうだな」
「これは何?」
「ティッシュペーパーだよ。鼻をかんだり、涙を拭いたりするよ。他にも色々と拭けるんだ」
「食事にしようか」
「でも、ベッドの上で食べると汚しちゃうわ」
「問題無いよ、自動で浄化してくれるからどんなにどんなに汚しても大丈夫だよ。掃除はいらないから寝る事に集中できるよ」
「便利なのね」
「……」
リンカはチンカウバインの意図を絶対に分かっていない。
チンカウバインは嘘をつかないけど、言わない事はあるようだ。
俺はもぐもぐとパンを咀嚼する。
チンカウバインはリンカの扱いに慣れつつあるのか?
それともこの時の為に壮大な罠を張り巡らせ、長い間計画して来たのか?
分からない。
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